現役警官が怒りの告発。チャリの危険運転に甘い道交法の理不尽さ
メルマガ『ジャンクハンター吉田の疑問だらけの道路交通法』の著者で交通ジャーナリストの吉田武さんが、現役の警察官であるTさんへのインタビューで「自転車の取り締まり」に関する裏話を暴露する当シリーズ。今回は前回から続く、解決に3年かかったという「チャリテロ」裁判で浮き彫りになった、日本の道路交通法の理不尽さについて。現役警官Tさんが匿名であることを良いことに告発する、日本の警察の問題点とは?
軽車両の自転車はどこまで車両や歩行者と共存できるのか? その16
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(前回までのあらすじ)現役警察官のTさんが実際に関わったという、ワゴン車と自転車の接触事故。車道を走っていた自転車が、主要幹線道路に停車していた自動車を避けて走行車線へはみ出した瞬間、ワゴン車と接触。どう考えても目視で後方確認せずに飛び出した自転車に過失がある事故と思われたが、自転車側は「停車していた車にも原因がある」と、停車中の車に罪をなすりつける始末。この「チャリテロ」に納得の行かないワゴン車の運転手は、自ら「人身事故」として捨て身の覚悟で裁判へ持ち込む。危険な自転車乗りを困らせるために始まった裁判は、終わるまでに3年もの月日を要することに……。
Tさん:停車していたクルマに対して自転車の方が難癖付け始めたんですよね。「あのクルマが止まっていなかったらよかった。自転車の走行を妨げるような停め方をしていても罰せられないのはおかしい」と。
吉田:うーん、そのエリアは駐停車禁止場所じゃないわけで、停車中に運転手が乗っていたわけですものね。これは明らかにサイクリスト側の八つ当たりにしか思えません。
Tさん:ですよねぇ(苦笑)。クルマが止まっていなかったらという”たられば”な意見で訴えても道路交通法を順守していたわけですし、停車中のクルマには過失は全くないことを説明しても全然理解してくれないんです。
吉田:まぁ百歩譲って、そのクルマが停車していなかったら車線の右側へ自転車も膨らんで走行しなかったと言いたい理由や気持ちは分かります。ですが、自転車だって軽車両ですからもっと安全運転を心がけるべきなんです。自らの目で左右後方を目視することを癖付けない限り、チャリテロは決して減ることはありません。ですから、サイクリストは軽車両という危険なモノに乗って走行している認識を持つ必要があると思うんです。この接触事故を起こしたサイクリストは頻繁に事故も起こしているし、当たり屋と思う方が普通ですが、自転車と歩行者を同じ感覚で扱っているとしか思えません。
Tさん:それは私も思いました。過去の事故事案を掘り下げていくうちに”自分は弱者”との感覚で自転車を走らせていなかったらここまで、短期間で数多くの事故に遭遇することはなかったはずです。今回も右後方からクルマが来ているかいないかの目視をしていれば接触事故に発展することもなかったですし、いくら停車しているクルマが邪魔だったからとはいえ、右車線へはみ出す際に後方確認を怠るというのは運転者としての責任義務が果たせていません。クルマやバイクを運転する方は予測運転という常に事故を予見しながら運転することを義務付けられていますが、自転車にもしっかりと予見義務を植え付けていかないと、決して事故は減らないと私は思います。
今回のケースでは自転車側の弁護士からは「クルマの運転手は事故予見の可能性を持ったうえで運転しなくてはいけない」と突き付けられ、最終的に注意義務違反として、クルマの方は安全運転義務違反にも問われました。自転車の方の弁護士が相当経験が豊富だったのか、「この状況下では自転車が車線へはみ出してくるだろうとクルマ側には予見しながら回避義務もある」とか「クルマの運転手側も停車中のクルマの存在を知っていたことから、自転車がもしかしたら自分自身が走行している車線へはみ出してくる可能性を予見運転できなかったのも責任義務があるわけで問題がある」などと攻め込んできていたようで、日本が誇る”弱者救済措置”が裁判でも発動してしまったんです。
吉田:うわぁ、酷い展開ですねぇ。徹底的にサイクリスト側が被害者ヅラしてますな。
Tさん:その弱者救済措置が自転車側にあると理解した状態で、自分が巻き起こした事故なのにも関わらず弁護士を立てて争う姿勢を見せたことに私自身は「正義ってなんなんだろう」と思い始めたきっかけでもありました。
吉田:日本の法律はどんなに過失があっても弱い者の立場を尊重する極めておかしな法律になっているのに、どうして警察側は正そうとしないんですかね。今回のこのワゴン車と自転車の事故だってあきらかにワゴン車側は被害者ですよ!
Tさん:ですが、予見運転や予測運転を義務付けられているのが運転免許証所有者の必然な条件でもありますし、現状の法律ですと何でもかんでも前方不注意としての処理をさせられてしまう部分に私たち警察官も納得行かない状態で確かに対応はしています。しかし、この古いままの、と言いますか昭和な古すぎる法律を正そうとすると……いえ、審議通すことを面倒と思って嫌がる上の方々がいたりと、どうにもこうにもスマートに行かないのが現状なんです。
吉田:警察官の中でも法律のおかしさに気付いている方々は他にいないんですか?
Tさん:いっぱいいますよ。ヘタに狼煙を上げてしまうと家族がいるのに左遷的に飛ばされるなど、事実上の降格もさせられたりとかありますし、やはりここはおとなしくしていたほうが賢いって考えている上層部はそういうことから保身に入って守りに入ってしまうわけなんです。今回の事故に関してもドライブレコーダーに自転車が後方確認せず車線変更してきた記録映像が残されているのに、相手の弁護士が上手だったことから結果が出るまで長引いてしまったんですね。このような交通事故でも裁判員裁判を積極的に取り入れて、客観的視点でどちらに過失が多くあるかなどをやるべき時代だと思うんです。警察側や保険会社側が自分たちの判断で過失割合を決める時代がまかり通っていることに憤りを感じます。
吉田:Tさんカッコイイっすね! そういう志を持つ警察官は結構いるような気がしますが、中々発言できないですからねぇ。
Tさん:私も吉田さんからの取材で匿名だからこそ言えてしまっているだけですけどね(苦笑)。
吉田:警察官の方からそういう言葉を頂くと僕らも心強く感じます。しかし、その交通事故のように自転車側がゴネて裁判が長引くとか牛歩戦術みたいで不愉快極まりないと思うんです。ワゴン車の運転手が納得行かずに戦ったのは褒めるべきですね。弱者救済措置で泣き寝入りする事案は良く僕も聞いたり相談受けたりしますので、運転手の気持ちは凄く良く分かります。
Tさん:運転手の方は裁判官にも「こんなことが許されまくったらクルマを運転できなくなる」とか「古いままの法律をなんとか直せないのでしょうか? 自転車側が交通ルールを守らず事故発生の引き金を引いたのに弱者というだけで過失割合が変わるとかおかしいと裁判官も思わないんですか? これがクルマ対クルマだったら、後方確認ミスで車線変更してはみ出してきたクルマ側に過失が多く生じるわけですよね。自転車だって軽車両なのに弱者な立場だからと過失割合がクルマ側に多く載せられるのは不思議すぎる法律です」など戦いまくったそうなんです。
この事故の状況は、例えばクルマ同士が交差点で片方が一時停止無視して飛び出してしまい、優先道路を走っていたクルマと接触したとします。その場合はクルマとクルマなので飛び出してきたクルマ側に大きな過失が生じます。これがクルマ対自転車の場合はどんなに自転車側が一時停止無視して飛び出しても弱者救済措置が働き、優先道路走っていたクルマに過失が7割被されてしまうんです。私はこのような交差点での事故を散々取り扱ってきましたが、いつも心の中では「クルマの方が気の毒」「自転車は当たり屋と一緒だよな」って思いながら事故処理に務めていました。
一時停止無視で飛び出して接触事故を起こす自転車側の過失が3割って……本当にどうかしていると思うんです。絶対間違っていると思います。もっと全国の警察署から現場の声としてお上へ届きまくれば少しは変わるような気がするんですね。
自転車に運転免許制度を今から施すのには超えなくてはいけない壁が沢山あって現実的ではありません。日本を変えようと思う警察官がもっと増えてくれれば、そして現場からの声を大にして届けられるようになると変えられる……私はそう思い続けています。
道路交通法を改正して自転車に対し厳しくなったとか言われていますけど、事故処理を担当していた私から言わせてもらえば「あんたらがもっと安全運転に務めれば発生しない事故ばっかあるんだよ!」と魂の叫び、いや、遠吠えをしたくなる時もありますね(苦笑)。スマートフォンいじりながらの自転車操縦している人が多すぎます。イヤホン付けて自転車乗る人は昔から多いですが、イヤホン+スマートフォン操作な最悪すぎる自転車乗りだけは絶対私も許しません。
吉田:感動しました。警察官という職に就いているんでしたらTさんみたいに自転車の事故に対して理不尽な処理させられているんだよなぁと思うほうが普通ですよね。で、裁判まで発展して、3年間戦った結果……過失割合は最終的にどうなったんですか?
(次回へつづく)
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