LINE社が作成したいじめ相談のイメージ画像

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 いじめの温床として不適切な使われ方をされることもある無料通信アプリ『LINE』を、いじめの相談に活用する。そんな動きが自治体で始まり、新しい時代の対処法として教育関係者の関心を集めている。

自殺死亡率は全国で最悪

 9月10日から23日まで、長野県が実施したLINEの相談専用アカウント「ひとりで悩まないで@長野」には、県内の中高生から547件の相談が届いたという。

 前年の電話相談259件を上回る数字に「私たちも当初、そこまで来ないだろうと考えていたんですが、予想以上の反響でした。全部で40人の相談員がシフトを組み、常時10人態勢でやっていただきました」

 と同県教育委員会の担当者は驚き、手ごたえを実感する。

 取り組みの背景には、長野県が抱える自殺のデータがあった。2010年から5年間のデータによれば、人口10万人あたりの同県の未成年の自殺死亡率は全国で最悪。

「原因は特定できないんです。ただ、未来ある若者を救いたいという思いは、みんな持っている。今年2月、ある県会議員さんから知事に、“自殺対策としてSNSを活用するのはどうか”という質問があり、知事も“前向きに考えたい”と答弁しました。それを見ていたLINE株式会社の方から提案をいただいて事業化されたという流れです」(前出・担当者)

 対象は県内の中高生たちに限定。QRコードを印刷したカードを配布した。

 担当者が続ける。

「進路に関する悩み、異性関係や恋愛の悩みとか、相談内容は多岐にわたりました。電話ではなかなか相談しづらいような内容も、LINEならできるという雰囲気があったのかなと思います。

 やりとりも、最初から悩みがあってどうこうというよりも“どうしたの?”“聞いてくれますか”といったコミュニケーションから入り、相談員がどんなふうに返してくれるか、中高生は様子を見ながら相談するっていう感じです。やりとりを繰り返しているうちに“実はこういう状況なんです”と本題に入っていくケースが多かったと思います」

 相手の属性、つまり学年や性別や地区を最初は聞いていたが、個人を特定されることを恐れたのか、やりとりが中断することもあったという。絵文字は誤解をされる可能性があるためなるべく使わない、スタンプも同様。試験運用ということでLINEの相談から電話につなげることはせずチャットの相談だけに限定した。電話と違い、返事をする際、相談員同士で相談してから返事ができるというメリットもあったという。

 問題点、反省点もあった。

高校生の95%がLINEを利用

「ひとりの相談に1時間以上かかり、待ちが多くなってしまい、相談できずに終わってしまうケースがありました。相談を受ける側のタイピングのスピードアップや、LINEのやりとりで相談の核心を引き出す方法など研究する余地はあるかなと思います」

 2011年に中2いじめ自殺を防げなかった滋賀県大津市も、11月1日から来年3月31日まで、中学生を対象にしたLINEによるいじめ相談を試験導入する。

 LINE側の提案に、「SNSということではなく、できるだけ相談の間口を広げる、ハードルを下げるといいますか。そういう相談環境を作れたらなと常々考えていた」と、大津市教育委員会いじめ対策推進室の担当者は打ち明ける。そのうえで、

「中高生が使うSNSの中でいちばん使用されていたのがLINEだった」という理由もあって、LINEとの連携を整えた。あくまでも試行のため、対象中学は、

「北部、中部、南部で1校ずつ、3校を予定しています。市内全域の、約3割にあたります。210万円くらいの補正予算をいただきました。業務を専門的な機関にお願いしますので、その委託料になります」(前出・担当者)

 LINE株式会社は、メールで次のような見解を寄せた。

「当社が行ったアンケートによると、高校生の95%がLINEを利用している、という結果が出ており、子どもたちが日常的に接している環境で相談できることで、いじめ相談のハードルを下げることができるのではないかと思います。

 あくまでも、既存相談窓口を補完するものと考えており、相談の幅を増やすもので、既存の相談窓口に置き換えるものではないと考えております。他のSNSよりもプライベートなコミュニケーションツールとして使われることの多いLINEは、安心感もあるのではないかと思います」

 文部科学省も、各地の取り組みを注視している。

「正直、長野県の結果には驚いているんですよ。あんなに来るのかと。われわれもすごく勉強になったんですけど」

 と担当者も目を見張る。

LINE相談後、次なる課題

「今までSNSのいじめ相談に関する予算はなかったのですが、来年度予算として新規に9500万円ほど要求しています。導入する地区は限られてくると思いますが、いくつかの自治体にモデル的にやってもらって、データを蓄積したいという狙いはありますね」(同)

 その後、最適なツールに集約する動きにつながったり、相談技法や相談員の研修方法をどうするかといった問題に直面することになるが、試みは動きだしたばかり。

 心理カウンセラーで元スクールカウンセラーの鈴木雅幸さんは、

「LINEでの相談は、どんどんやっていいと思います。ただ、その次にどうするかを考えないといけないですね。長野でも相談件数が増えましたが、その後いじめの解決までもっていけたのかが気になるところです。LINEを入り口に、解決につながるように考えたらいいと思います」

 と、若者が感じるLINEの気軽さに期待する。そして、相談の受け答えについて、

「相手が例えば“つらいんです”と言ってきたら“今つらいという状況に置かれているんですね”と次につながるような返しをするのがいいです。何がつらいのかわからないけど、つらいということを投げてくれたんだね、それを受け取ったとわかるように返してあげるのが大事です。

 いじめの根本解決には、大人が本気だという姿勢を見せることが大切なんですよ。大人であっても、すべてを失う覚悟で取り組む。その姿勢を子どもは見ていますからね」

 言葉だけのやりとりで、意思を伝え合うことは友達でも難しい。どんなやりとりをするのか、どんな解決法を提示できるのか、相談員のスキルアップはどうするのかなど、課題は山積だが、子どもたちが気軽に相談できるLINEにたどりついたことは明るい兆しかもしれない。