ホンダセンシングを始めとした装備の充実……だけじゃない!

 ホンダ フィットは歴代、ライバルを寄せつけない実用特徴を持つコンパクトカーだ。それはもちろん、パッケージ。独自のセンタータンクレイアウトの採用で、本来、ガソリンタンクがスペースを割く後席、ラゲッジまわりのゆとり、低さを創出しているのだ。

 たとえば後席頭上、ひざまわり空間はフィットの場合、身長172cmのボクのドラポジ基準でそれぞれ140/255mm! ライバルのヴィッツは100/180mm、デミオに至っては100/100mm。さらに後席を格納したときのフロア地上高は560mmと極めて低く、後席をハネあげることで得られるトールモードでの後席部分の室内高は1280mmに達する。それらのほぼすべてが、センタータンクレイアウトの恩恵、ライバルの追随を許さないフィットの才能である。


そんなフィット(の三代目)が2013年9月のデビュー以来、4年ふりのマイナーチェンジを行った。その内容は予想どおりの部分としては最新の先進運転支援システム=自動ブレーキ、誤発進抑制機能、車線維持支援システムなど8項目の機能を満載したホンダセンシングの採用だ。

 特筆すべきは、このクラスでは贅沢すぎるACC=アダプティブクルーズコントロールを加えていること。デミオにあるブラインドスポットモニターこそ装備されないものの(今や必須の安全装備だが)、先進運転支援システムとしてはかなりハイグレードなものをおごったことになる。


もちろん内外装も刷新。エクステリアでは前後バンパーデザインの変更で、ボディーのずんぐり感を排除。低重心でワイドな佇まいになっている。全車RSのようだったリヤビューもじつにすっきり。インラインタイプのLEDのヘッドライト、フォグランプ、テールランプの採用が新しい。


一方、インテリアはHVモデルのブルーのあしらいを排除。全グレードで黒基調に変更。たとえばシフターもシルバーとブラックのモノトーンに(ほぼPCのマウスに見える)。上質感にこだわったHIBRID・L Honda SENSINGでは本革風の落ち着いたプレミアムブラウンインテリアを新設定。さらにナビはApple CarPlay、Android Autoに対応。スマホとの連携を強化している。


と、フツーのマイチェンではここまでのケースがほとんど。しかし、ホンダフィットマイチェンチームは本気だった。

ハイブリッド・Sの静粛性は驚異のレベル!

 何しろ全車、ボディー剛性を高めるためボディーの肉厚をアップ。Aピラー回りの整流改善、燃費向上のためのエンジンのフリクション低減(最高37.2km/Lに)、ダンパーの乗り心地改善のためのチューニング、EPS(電動パワーステアリング)の応答性向上、そして静粛性向上のためにダッシュボードのインシュレーターの追加など、マイチェンとは思えない改善項目が達成されている。


いやいやそれだけじゃない。今回、HVのグレードは4タイプあるのだが、上質感にこだわったHIBRID・Lに加え、大人のスポーティーHVグレードとしてHIBRID・Sを追加。そのHIBRID・SはタイヤがRSと同じ185/55R16サイズのスポーツタイヤを履くとともに、エンジンマウントのダイレクトダンパーのチューニング、遮音機能付きフロントガラスの採用、フロアまわりを中心とした遮音材のメルシート(アスファルトのようなもの)の厚みアップ(標準の2mmから3mmに)、ダッシュボードのインシュレーターの増量など、静粛性に特化した改良が施されているのだから徹底している。


試乗したのは横浜みなとみらい周辺の一般道と、首都高みなとみらいから大黒埠頭PAを往復するシーンに限られたが、その効果絶大! 静粛性に大きく特化していないHIBRID・Lグレードでもじつに静かに走り、マイチェン前のモデルのウイークポイントのひとつだった乗り心地も大幅に改善。小まわり性にも優れた15インチタイヤを履くこともあって、乗り心地、扱いやすさで選ぶならこちらだ。


パドルシフトが付くHIBRID・Sグレードは16インチタイヤとなるが、それでもさらに静か。いや、劇的に静か。街乗り、高速走行を含め、コンパクトカーとは思えない静粛感に包まれて走る。エンジンはHIBRID・L/Sグレードともに回しても不当にノイズが高まらず、そのノイズも乾いたサウンドだから耳障りじゃないのが好印象。


そしてもうひとつの走行関係の進化が、7速デュアルクラッチトランスミッション=DCT。フリードが出た時点で、最新制御なのはフリードだけであり、フィットのものは一世代前のもの。けっこうギクシャクしたのを覚えている。しかし新型フィットはフリードのものよりさらにそ進化させた最新の制御。


ざっくり言うと、ギヤ比を低め、ギクシャクする挙動を押さえている。結果、マイチェン前とエンジン、モーターのスペックは不変ながら、出足から中間加速まで、アクセル操作に対してよりダイレクトな加速力を発揮。マイチェン前ユーザーであれば、ちょっぴりアクセルレスポンス良く、速くなった印象を受けるはずだ(それがゆったり運転派にとって走りやすいかは別だが)。

 もちろん乗り心地もより上質に。道路の段差や継ぎ目を乗り越えたときのガツン! というショックが丸められ、極めてフラットかつ快適な街乗り、高速クルージングを体験できた。

 ちょい乗りしたブラック×オレンジの内装がホットなガソリン車のRS Honda SENSING/6速MTはクラッチ軽く、シフトも軽やかに操作できる実用スポーツグレード。エンジン自体はノーマルのXLグレードの132馬力と変わらず、スポーツ性能は穏やかだが、さすがに走りは楽しい。


久しぶりにホンダ実用車の”本気”を見せてくれたフィットのマイチェン。操安性のために乗り心地は犠牲に(ホンダミニバンの初期型はとくにそう)……そんな呪縛から解かれた熟成のフィット。もちろん、買いである。

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