清宮 幸太郎(早稲田実業)は二度目の甲子園で伝説を作れるのか??
高校通算78本塁打の清宮 幸太郎が2度目の甲子園に出場する。周囲が期待するのは、これまで甲子園で伝説を残したスラッガーたちと肩を並べる活躍ができるかどうかだ。今回はこれまでの大会の活躍を振り返りながら、清宮の凄さに迫っていく。
爽快感を感じさせた清宮の甲子園での活躍清宮 幸太郎(早稲田実業)は“甲子園出身”のスラッガーとしては清原 和博(PL学園)、松井 秀喜(星稜)、中田 翔(大阪桐蔭<関連記事>)に続く「超高校級の大物感を醸し出す存在」と言っていい。
清原は甲子園に初出場した83年夏の決勝、横浜商戦の第1打席でライト方向に記念すべき初ホームランを放って以来、3年夏までに春・夏の甲子園大会で歴代最多の通算13本塁打を放っている。松井はすべて右方向に打った4本のホームランより、3年生だった92年夏の甲子園大会2回戦、明徳義塾バッテリーによる5打席連続敬遠の方が鮮烈な印象を残す。バットを振れない不条理な状況がかえって松井の凄さを浮き彫りにした。
中田は1年生だった05年夏の甲子園大会1回戦、春日部共栄戦の7回裏に甲子園初ホームランを放って以来、松井と同じ通算4本塁打を記録している。しかし、中田が凄いのは本数より飛距離だ。06年夏の大会1回戦の横浜戦では8回裏に推定140メートル、甲子園のあとに行われた秋の近畿大会準決勝の市川戦ではレフト場外に消える推定170メートルの大ホームランを放っている。
清宮がこの3人に匹敵する伝説的なスラッガーになるための第一段階はすでに終えている。甲子園の土を初めて踏んだ15年夏は1、2回戦ともヒットは放つがホームランが出なかった。前評判があまりにも高かったため「評判ほど凄くない」というネガティブな記事が出る気配があった。というのも、清宮に対するコメントを雑誌関係の記者から求められたとき、「本当はたいしたことないんでしょ」的な誘い水を向けられたことが2、3度あったからだ。3回戦の東海大甲府戦、菊地 大輝のチェンジアップを振り抜いて右中間スタンドに放り込んだ一発は、そういうネガティブな空気を一掃する爽快感があった。
清宮の打撃を支える「柔らかさ」と「力強さ」清宮 幸太郎(早稲田実業)
清宮のよさは「柔らかさ」と「力強さ」が備わっていることである。脱力して構え、インパクトに向かうときだけ力が入る。準々決勝の九州国際大付戦では4回裏、ライトスタンドに2本目のホームランを放り込んでいるが、実はこの試合の第1打席で左手親指の付け根を傷めていた。しかし、左手を完璧な状態で使えなくても引き手(右手)のバット操作に長けている清宮にはこの利き手の違和感が苦にならない。第4打席でも初球のストレートを軽くおっつけて左中間フェンスを直撃する二塁打を放っている。
準決勝の仙台育英戦まで毎試合ヒットを打ち、1回戦から準々決勝までは毎試合打点を記録、初出場した甲子園の通算成績は打率.474、本塁打2、打点8という迫力。この2年前の大舞台が伝説的なスラッガーになるための第一段階である。
この大会後に行われたU-18ベースボールワールドカップとその壮行試合の高校日本代表対大学日本代表戦、さらに昨年秋の明治神宮大会。清宮がこれまでに踏んだ“大舞台”のすべてである。この4つの大会、合計17試合の通算記録は55打数21安打13打点3本塁打、打率.382。
・15年夏の甲子園大会……19打数9安打8打点2本塁打、打率.474・U-18壮行試合 高校代表対大学代表……2打数1安打1打点、打率.500・U-18ベースボールワールドカップ……27打数6安打2打点、打率.222・16年明治神宮大会……7打数5安打2打点1本塁打、打率.714
U-18ベースボールワールドカップの成績が低調だったため打率が3割台に下がったが、国内大会(U-18壮行試合も含む)に限れば打率.536という物凄さである。また、これらの大会を振り返って驚かされるのは死球の多さ。15年夏の甲子園大会が5試合で3死球、16年の明治神宮大会が3試合で3死球。この2大会に限れば8試合中、死球がなかったのは甲子園の準々決勝、準決勝だけである。あとの6試合はすべて1回ずつぶつけられている。
そしてそのあとの打席で結果を残している。甲子園の今治西戦(試合レポート)が2打席後に右前打、東海大甲府戦(試合レポート)が直後にホームラン、明治神宮大会の静岡戦(試合レポート)が2打席後に右前打を放っている。
好投手から安打が多いのも魅力清宮 幸太郎(早稲田実業)
ヒットを打った相手も好投手が多い。甲子園では、広島新庄戦(試合レポート)の2打席のライト前ヒットが2年生だった堀 瑞輝(16年ドラフトで日本ハム1位)、仙台育英戦の第2打席の内野安打が佐藤 世那(15年ドラフトでオリックス6位)、大学代表との壮行試合、第1打席のセンター前ヒットが田中 正義(16年ドラフトでソフトバンク1位<関連記事>)、そして明治神宮大会の福岡大大濠戦(試合レポート)、第2打席の二塁打が今選抜出場中屈指の好投手と言われている三浦 銀二(関連記事)からである。
また。昨年秋の東京大会決勝で日大三の左腕、櫻井 周斗(関連記事)に5打席連続三振を喫し、「左腕が苦手」と思われているようだが、明治神宮大会では静岡戦で最速144キロの池谷 蒼大(3年)から3打数2安打、履正社戦では松井 百代からホームランを含む3打数2安打とカモにしている。広島新庄の堀も左腕である。
さて、直近の明治神宮大会ではどんなバッティングをしていたのだろう。静岡戦では第1打席が池谷の縦スライダーをライト前へ運び、第4打席がストレートをライトフェンス直撃の単打。決勝の履正社戦では第1打席が左腕、松井の外角ストレートを右中間にホームラン、第2打席がやはり外角ストレートをライト前へ運ぶタイムリーだった。
この履正社戦の2打席をカメラに収めようと私はデジカメのファインダーを覗いていた。多くの高校生は外角球を振らないし、この2打席とも清宮は早めのアクションを起こしていないので、私は当然見送ると思い込んでシャッターを押さなかった。しかし清宮はストライクゾーンを広く取って、打てる球はすべて打って行こうと決めていたのだろう。そして外角球を2つともライト方向に打ち返している。ヘッドスピードが速くないとこういうバッティングはできない。
なお15年夏の甲子園大会、U-18ベースボールワールドカップ、その壮行試合の高校代表対大学代表戦、16年秋の明治神宮大会の計17試合の通算成績で紹介していなかったのが出塁率と長打率。出塁率.541、長打率.636で、この2つを足したOPSは10割を超える1.18。甲子園出場が現段階では1回だけなので5季連続の清原、4回出場の松井、3回出場の中田と比べられないが、記録の迫力なら現段階でも負けていない。
文・(小関 順二)
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