大阪桐蔭高等学校(大阪)「『2016〜2017年型』大阪桐蔭、その序章」【前編】

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 1月27日、3年連続9度目のセンバツ出場が決まった大阪桐蔭。今回も過去のチームとは一味違う「2016〜2017年型」で聖地へと臨む。では、どんな陣容であっても「全国制覇」が求められる中、彼らはどのようにして5年ぶり2度目のセンバツ優勝に到達しようとしているのか?今回は新チーム結成からここまでの成長プロセスを追いつつ、春・頂点獲得への道筋の一端を西谷 浩一監督、選手たちに語って頂いた。前編では新チーム結成からベスト4に進んだ近畿大会までにスポットライトを当てる。

「福井 章吾」が主将になった理由

西谷 浩一監督(大阪桐蔭)

 大阪桐蔭がチームとして目指す方向性がはっきりした年がある。それが夏の甲子園4度目の優勝を果たした2014年だ。「この年、藤浪や森のような選手がいなくてもチームとして優勝できたのは、僕自身も勉強になりましたし、大阪桐蔭にとって大きな財産となりました」西谷 浩一監督は静かに振り返る。

 確かに、この年は峯本 匠(立教大3年<関連記事>)、香月 一也(千葉ロッテ<関連記事>)の二遊間など、同世代トップクラスの選手はいたものの、藤浪 晋太郎(阪神タイガース)、森 友哉(埼玉西武ライオンズ<関連記事>)がバッテリーを組み、甲子園春夏連覇を果たした2012年のような絶対的な選手がいたわけではない。1人の選手の力に頼るのではなく、全員が結束して勝ち取った優勝。これが今の大阪桐蔭を形作る根幹となっている。

 当然、現チームもその流れを踏襲している。よって新チーム発足が最初の勝負だ。昨夏大阪大会、3回戦で関大北陽に敗れ春夏連続甲子園出場が絶たれると、指揮官は「意志」を「結束」に変える役目を果たす男。すなわち主将の人選にすぐ着手した。「ウチは部員全員が寮生活ですから、グラウンドだけしっかりとやっていればいいというごまかしは全くできません。グラウンドでも、寮生活の中でも、ひた向きに取り組み、チームメイトから信頼される選手が主将になるべきだと思います」

 2年生1人1人との丁寧な面談。そして主将が決まった。2年春の大阪府大会からレギュラーとなり、夏も6番・左翼手で出場した福井 章吾(現:一塁手)である。「福井は真面目でひた向きに取り組めて、芯が強い選手。面談をしたら、2年生のほとんどが福井のことを推していました。僕も面談する前から福井が主将になると思っていました」西谷監督も納得の人選だった。

 対する福井も主将の自覚をすでに有していた。「夏前からこのチームの主将をやらなければならない覚悟はありました。そして新チームになって、監督さんから『お前に票が集まっているけど、どうだ?』といわれて。『やります』と監督さんに伝えました」

 さっそく、福井の束ねる仕事が始まる。「新チームは夏の大会に出ているメンバーがほとんどいなかったので、一から見直すことから始めました。自分自身は後のことにして、まずはチームを最優先。技術面よりも、声かけや生活面などチームの内面を鍛えることを徹底させてから、試合の進め方、野球に対する根本な考え方。しっかりしないといけないことを選手たちに話をしました」

 甲子園出場が果たせなったことにより、約1カ月半あったチーム作りの期間。福井を中心に大阪桐蔭は徐々に結束の度を高めていった。

「崖っぷち」から勢いを取り、近畿大会ベスト4

大阪桐蔭ナイン(秋季大阪府大会 関大北陽戦より)

 秋の大阪府大会、大阪桐蔭は当初順調に勝ち進む。投手では春から公式戦登板経験を持つ徳山 壮磨、香川 麗爾の2人が好調。一方、打線では山田 健太、根尾 昂(関連記事)、藤原 恭大など1年生たちの活躍が光り、関大北陽、大阪偕星学園、汎愛といった実力校を破っていく。「目の前の1試合、目の前の1日、1週間の過ごし方を大事にすること」という福井の呼びかけは、シビアな試合を重ねる中でチームの中に浸透していった。

 しかし準決勝の相手は宿敵・履正社。「攻めきれなかったこと、守り切れなかったことに尽きます。うちの力不足が完全に出たと思います」と指揮官が振り返れば、先発した徳山 壮磨は「気持ちのコントロールが課題に残った」、徳山をリードした岩本 久重は「ロング・単打を兼ね備えた履正社打線に怖さを感じたまま何もできなかった」。4対8という点差以上の完敗であった。

 かくして早くも次に負ければセンバツ出場が絶たれる崖っぷちに立った大阪桐蔭。「なんとしても勝つ」と主将の福井をはじめ、並々ならぬ意気込みで3位決定戦の初芝立命館戦でコールド勝ちを収め、近畿大会出場を決めても試練は続く。

 初戦の相手は京都3位・龍谷大平安。もう説明は不要だろう。ただ、大阪桐蔭はこの強敵に奮い立った。「あの原田(英彦)監督が鍛え上げてきたチームですし、京都で一番強いチームだと思って試合に臨みました」と指揮官が闘志を前面に出せば、試合が始まれば、主軸の期待を背負いながら、秋の大阪府大会直前の疲労骨折でベンチ外となっていた中川 卓也が3ラン。エースの徳山も勢いあるストレートを軸に完封で応える。チームはここで1つ目の勢いを得た。

 準々決勝・昨年のセンバツ覇者である智辯学園(奈良)戦。勝てばセンバツが濃厚になり、負ければ当落線上になる大一番で、2つ目の勢いを取りに行ったのは大阪桐蔭・西谷監督だった。

 4番・遊撃手に起用されたのは大阪府大会では投手を務めた一方、大阪偕星学園戦で代打本塁打を放った根尾 昂。「これまで軸になる打者が固定できなかったし、この試合はセンバツがかかった試合。そこで誰がいいかといえば、物おじしない根尾が良いと思いました」起用はズバリとはまった。

 根尾は打っては7回表に放ったバックスクリーン弾を含む4打数2安打2打点。守っても7回裏のピンチを阻止する好守備。徳山もセンバツV経験者の福元 悠真(関連記事)、太田 英毅(関連記事)の両スラッガーにも粘り強い投球。9回裏、福元に2点差に追い上げられる本塁打を許すも6対4。徳山の雄たけびは大阪桐蔭のセンバツ出場青ランプへの号令となった。

近畿大会準決勝の課題抱え、11月の底上げへ

トレーニングの様子(大阪桐蔭)

 次の目標は近畿大会制覇と、2年連続明治神宮大会出場。しかし、勝負の世界は甘くはなかった。準決勝の神戸国際大附(兵庫)戦。大阪桐蔭はまさかの逆転負けを喫する。主将の福井は今でも悔いを語る。「この試合は香川 麗爾が先発したのですが、その時にミスが出てしまいました。こういう時こそ盛り立てなければならないのですが...。改めて力不足と感じた試合でした」

 一方、西谷監督は選手たちをねぎらいつつ、新たな課題を抽出した。「逆転負けされたことに油断はなかったと思います。選手たちは一生懸命やっています。ただ逆転負けされたのはチームとしてまだ実力がないこと」さらなる戦力の育成。11月の練習でははそこに重点が注がれた。

 平日にはナイターができるチームとは練習試合。その数は20試合以上。そして紅白戦。この期間でメインとなったのは、レギュラー選手たちではなく、これまで試合に出場をしていなかった選手たちだ。「秋の公式戦に出ていない選手は我慢してチームを支えていただいたので、秋が終われば全員を使うのは約束をしていたこと」。指揮官の期待に彼らは結果で応えた。

「まだ具体的な名前は出せませんが、秋にベンチ入りできなかった選手も活躍をしてくれた。春は投手・野手誰が入るかわかりませんよ」

 11月が終わると誰もが成功事例と課題を手にして、冬の練習に突入した大阪桐蔭の選手たち。それは「2016〜2017年型」進化と真価が問われる鍛錬の始まりである。

 後編は冬練習の底上げと、来るセンバツへの意気込みについて語って頂きます。お楽しみに!

(取材=河嶋 宗一)

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