彦根翔陽・彦根翔西館(滋賀)「投打に個性派揃いの連合チーム」
彦根翔陽・彦根翔西館は昨秋、県大会でベスト4に入り滋賀県高野連から21世紀枠に推薦された。昨年4月の学校統合により誕生した連合チームではあるが、彦根翔西館野球部の部員数は0人だったためサインや戦術を組み直す必要はなく、現在も部員構成は2年生の16人は彦根翔陽、1年生の15人は彦根翔西館ときれいに学年で分かれている。
連合チームとして臨んだ昨年の夏は、まとまりのある3年生に井上 充也監督は手応えを感じていたが2回戦敗退。対照的に新チームは個性の強い選手が多く、スタート当初はチームとしてのまとまりに欠けていた。今の2年生が1年生だった時の1年生大会では1回戦で敗れており、エースの北川 広真(2年)以外はレギュラー総入れ替えとなった新チームは井上監督から厳しい言葉を浴びせられた。しかしそんなチームが8月後半から急速に調子を上げ秋季大会で打ちまくる。
「ある程度の力があるとは思っていましたけど、あそこまで打ってくれるとは思わなかった」経験のある北川が崩れないという計算に、2戦連続で5回コールド勝ちを収めるなど敗れた準決勝の近江戦以外は全て2桁安打を放つという嬉しい誤算が加わり、4強の一角に食い込んだ。
打線の力を象徴するスイングスピード148km/h、スクワット170kgの恐怖の8番ティーバッティングの様子(彦根翔陽・彦根翔西館)
グラウンドが工事のため広く使えないこともあるが、冬場は特に振り込みとトレーニング中心の練習を行う。「以前はロードワークやダッシュ系統の練習が多かったんですけどここ2、3年は出来るだけバットを振らせるようにしてます」通常のティーバッテイングに短い間隔で打つ連ティー、遠くへ飛ばす感覚を養うロングティーに、天気が良ければマシン打撃の4つをガンガン打つ。オフシーズンでもそんな練習をこなし、キャプテンの細川 開平(2年)は「今年はクリーンナップが2つある感じで、どこからでも点を取れるようになったのがベスト4に行けた要因だなと思います」と話す。
1番を打つ平川 大輝(2年)はチームトップの俊足だけでなく長打力もあって出塁率が高い。還す役割を期待されるのが3番の小野 晃斗(2年)。旧チームでレギュラー奪取にはわずかに至らなかったものの、夏もスタメンで起用されるなど最も経験のある選手で、ミートが上手く、内角は引っ張り外角は流すコースに逆らわないバッテイングが持ち味。「バッテイングでも守備でも特別上手いわけじゃないんですけど、何でも得意不得意なく出来ます」と穴が無く3回戦までは.800の高打率を残した。
羽根 龍司選手(彦根翔陽・彦根翔西館)
攻撃の要は平川と小野の2人だが、打線のキーマンになりそうなのは2人の1年生だ。ポイントゲッターとなり得る6番を打つ馬場 幸歩(1年)は投手も兼任で、1年生大会では1番・投手として2つの重責を担った。そして今年の打線の力を象徴するのが入学時にスクワット130kg、ベンチプレス70kgを持ち上げた羽根 龍司(1年)。まだ荒さは残るものの捉えた時の飛距離は群を抜く。この選手が8番を打つ。
しかも身長178cm、体重88kgのどっしりした体格でありながら実は50mを6秒台前半で駆け抜ける俊足の持ち主で、相手バッテリーが油断していれば盗塁のサインが出ることも。スイングスピード148km/hを記録した右の大砲は1月末にスクワット170kg、ベンチプレス90kgとトレーニングの成果を数字で証明。春以降は技術を磨いて本塁打量産に期待がかかる。
エース・北川を中心に投手陣は駒が揃う投手陣では2年春から背番号1をつける北川の存在が大きい。柔軟性に富み腕の振りがしなやかで、野球を始めるのとほぼ同時となる小学4年生から投手をしている。「今のところ甲子園で活躍している投手みたいに球速140km/hとかは出ないんですけど、スピードがなくてもコントロールとキレでバッターを抑えることの方が大事だと思っているので、自分はキレとコントロールで勝負するタイプだと思います」
決め球でもあるスライダーは縦でも横でもなく斜めに曲がる。身長166cm、体重59kgと小柄だがスライダーのキレの良さは捕手の大前 龍生(2年)が「最初は捕れませんでした」と話すほど。加えて両コーナーをきっちり突ける左腕で、昨年の夏の大会直前には林中 勇輝(3年<関連記事>)らを擁する強打の敦賀気比を相手に2失点完投。100球に満たない球数でベストメンバーの強豪を抑え込んだ。
東洋大姫路、大垣日大などにも好投しているが、それら以上に忘れることの出来ない試合がある。背番号は10ながら実質主戦を任されていた1年秋、準々決勝の長浜戦で9回二死走者無し2ストライクまでリードしながら敗れた。「前の試合の虎姫戦で2安打完封してチームも勢いに乗っている中で、粘りのピッチングで0点に抑えることが出来て、7回に点を入れてくれて後は自分が抑えたら勝てるという中で9回二死までいったんですけど、自分の甘さが出て先輩達に迷惑をかけましたし、自分の中でも1番か2番に悔しい試合でした。ベスト4入りを無くしてしまって申し訳ない気持ちでした」
勝利まであと1球の場面で投げ込んだ球はストライクゾーンいっぱいに決まったかと思われたが、審判の右手は挙がらず、そこからまさかの3連打で同点とされ、リリーフを仰いだ延長戦でチームは14回にあまりにも重たい4失点。裏の攻撃で3点を返すもあと一歩及ばなかった。近畿大会出場に大きく近づく準決勝進出を逃した冬に「最終回まで衰えることのないスタミナをつけるため冬は走り込んで、春には130球、40球投げても疲れなくなりました」と一回り成長し、この冬は連戦となった近江戦で打ち込まれた反省から連投の利く投手を目指し体作りに励む。憧れの投手は2015年夏に秋田商業のエースとして活躍した成田 翔(千葉ロッテ)。「小さくても出来ることを証明しましたし自分もそういう存在になりたいです」
ブルペン陣も心強い。徳田 慎(2年)は北川が前半でつかまった近江戦ではロングリリーフで無失点投球を披露した。球に力があり北川とのリレーがチームの勝ちパターンだ。宮本 竜二(2年)は高身長から角度のある球を投げ下ろすタイプ。故障続きでまだ目立った結果は残せていないが、コントロールの良さは北川以上。体重も増えラストイヤーに輝きたい。頭数の揃う投手陣に加えて普段はライトを守る細川も草津戦では先発し5回コールド勝ちの試合で完投。バントで揺さぶりをかける相手の長所を、野手能力を生かしたフィールディングの上手さで封じた。
冬に耐えて楽しみな春を待つ大前 龍生選手(彦根翔陽・彦根翔西館)
滋賀県のシードの仕組みは秋のベスト4が春のシード権を獲得し、春のベスト4が夏のシード権を獲得する。つまり近江にリベンジするためには準決勝まで勝ち上がらなければならない。マスク越しに近江打線を誰よりも間近で見た大前は「タイミングを外されても振り切っている分、外野の間に落とされたり狙い球じゃなくても外野の頭を越されたりしました。僕らもそういうバッテイングが出来れば近江といい勝負が出来ると思います」と再戦の青写真を描く。
ミットや防具をつけている姿に憧れ、大前が捕手を始めたのは小学4年生の時。北川がほぼ野球歴=投手歴となるように大前も野球歴と捕手歴がほとんど一致する。膝をついたまま一塁に牽制を投げる強肩の持ち主で、秋も出したくない走者の盗塁を何度も刺した。歴の長いバッテリーを中心に守り勝つチームかと思われたが、秋は準々決勝までの4試合で34得点を挙げた。
「1番から9番まで何とかしてくれる。練習試合で県外の強豪校相手にどこまでやれるか。春が楽しみ」井上監督が春を待ち望む理由はもう一つある。グラウンドの工事が3月15日に終わり、ようやく広々と使えるようになる。工事は丸2年間続いていたためその間の練習試合は全て遠征、現部員はまだホームでの試合を経験していない。雪の残るグラウンドでティーバッテイング、校舎の廊下と階段で下半身強化を繰り返した成果を存分に見せる時は近い。雪解けと共に楽しみな野球シーズンが幕を開ける。
(取材・文=小中 翔太)
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