「ベンチにいるときが一番の幸せ」杵築高等学校

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 大分県杵築市大字本庄にある杵築高等学校。野球部は2012年夏に初めて甲子園出場を果たし、昨秋は九州大会出場を果たした。今回は、そんな杵築野球部を支えるマネージャーにお話を伺った。

ベンチに入れるのは本当に嬉しい

右から宮田衣織さん、阿部真実さん、阿部風花さん(大分県立杵築高等学校)

 部員32人を支えているのは、2年生の阿部 真実さん、1年生の宮田 衣織さん、阿部 風花さんの3人。日々の活動内容は、お茶出しや選手たちへのプロテイン作り、おにぎり作りに加え、ノック時のボール渡しなどで練習をサポートしている。グラウンド周りの環境整備にも力を入れており、朝の掃除は部員もマネージャーも当番制で、平日は毎朝欠かさず掃除をしている。

 彼女たちにとって一番楽しい活動は試合のときのアナウンスやスコアの記入だ。「部員も一番生き生きしているし、そのすぐ隣で一緒になって盛り上がることができるので、私たちにとっては活動の中で一番楽しい時間です」と笑顔で答えてくれた。

 昨秋、記録員としてベンチ入りした阿部 真実さんが、特に印象に残っている試合として挙げてくれたのが大分県大会3回戦、臼杵市民球場で行われた大分戦だ。大分とは県大会前の公式戦で対戦しており、1対4で敗れていた。だがこの試合では、接戦の末、3対2で勝利。お互い前日にも試合があり、疲れが残っている中での試合だった。

海岸を走るマネージャー・左から宮田衣織さん、阿部真実さん(大分県立杵築高等学校)

「秋の県大会前の公式戦で大分に負けていたので、絶対に勝ちたいと思っていました。誰も杵築が勝つとは思っていないような試合でしたが、周りからのプレッシャーなどに打ち勝ってリベンジを果たすことができました。そのときの選手たちの姿は本当に輝いていて、思わず涙してしまいました」

 主力でもあるキャプテンが初戦でケガをして出れない状況にあったにも関わらず、チーム一丸となり手に入れた一勝。その後は大分舞鶴、大分西を下し決勝まで登り詰めた。決勝では明豊に破れたものの、見事九州大会出場を果たした。

 阿部さんは、これまでの記録員の活動を通してこう振り返った。「ベンチに入れることができるのは、とても嬉しいです。選ばれた部員しか入ることができない場所に入って、試合の記録をするということはとても特別なこと。本当に嬉しいです」と、マネージャーの特権でもあるベンチに入ることの楽しさについて語った。

 そんな阿部さんの姿を見ている選手たちは、「めっちゃ頑張りよん。あいつはベンチにいるとき本当に楽しそうにしよん。俺らも支えてやらんとだめやわ」と話していたと言う。マネージャーの楽しそうな雰囲気が、選手たちの頑張りにも繋がっているようだ。

「絶対に甲子園に行こうね」

シートノックでボールを渡すマネージャー・阿部真実さん(大分県立杵築高等学校)

 阿部 真実さんがマネージャーになったきっかけは、中学一年生のとき。当時、杵築の2年生だったお姉さんが吹奏楽部に所属しており、その年に野球部は初の甲子園出場が決定。お姉さんも応援に行くことになったため、お母さんともう一人のお姉さんと一緒に甲子園を訪れた。

「選手のみなさんの姿を見て、私もマネージャーになって選手を支え、一緒に甲子園の舞台に立ちたい」そう思ったのがきっかけとなった。

 杵築へ入学し野球部のマネージャーに入部。一時は部員との関係がうまくいかず、辞めようと思ったこともあったという阿部さん。また、冬場の練習中、きつい練習をしている部員に対して何もできず、支えることができない自分が嫌で心が折れそうになったこともあったと、挫折しかけたことについて語った。

 そんな阿部さんが目指すマネージャー像は、誰よりも選手から信頼され、いつも笑顔で選手の一番の理解者。「マネージャーをしていなかったら、本当に何も取り柄のない自分だったと思います。毎日同じような日々を過ごして、人生のうち3年間無駄にしてしまうような生活になっていたと思います」と言う阿部さんだが、挫折しかけたことや楽しい活動を通じ、精神面がとても強くなったと自身の成長を実感していた。

 マネージャーたちの存在について2年生の田中 拓真選手は、「選手のことを一番に考えてくれて、そのおかげでケガをすることも少なく、マネージャーがいなかったらもっと時間がかかっていることも多くあるし、なくてはならない存在です」と、存在の大きさを語る。どんなに小さな変化も見逃さないよう、常に選手を観察することを心掛けているというマネージャーたち。3人のサポートはしっかりと選手たちにも届いているようだ。

 最後に、春へ向けて練習に励む選手たちへ、マネージャー3人からメッセージをいただいた。

「みんなのことを支えたいと思っているけど、支えられていることの方が多い気がします。頼りないマネージャーだと思うけど、私たちをこのチームのマネージャーでいさせてくれてありがとうございます。みんなは私たちの誇りです。これからもよろしくお願いします。絶対に甲子園に行こうね!」

 大分県立杵築高等学校野球部の皆さん、ありがとうございました!