皆さんこんにちは、殖栗 正登です。今回は、前回に続いてバッティングのインパクト速度を上げるメカニズムについてお話しようと思います。今回は回転運動前編です。

並進運動(ストライド期)

 前回は並進運動のお話をしました。これは、ステップ脚が地面に接地するまでは、軸足で地面を捕手方向に出すことで地面反力を受けて身体が並進に(直線的に)動き、運動エネルギーを得るという話でした。(ストライド期)   

・運動量=質量×速度で表せます。運動の勢いを表しています。物体の運動は、速度が速いほど大きく質量が大きいほど大きいです。

・運動エネルギー=その物体が持っている、仕事をする能力です。1/2mv2で表します。違いは速度の2乗に比例と向きが定義されているかです。簡単に言えば、AがBにぶつかったときにBはAの運動エネルギーの分の仕事をします。

・仕事=力×距離です。ジュールで表されこれはエネルギーと同じ単位です。Aが力を加え続けてB地点に移動した場合その分の仕事をしたとなります。ちなみにこれを時間で割ると仕事率=パワーが求められます

・力積=運動量を変化させるには、物体に力を加えます。力を加える時間が長いほど運動量を変化されます。公式は加えた力×加え続けた時間。身体が大きい選手が有利なのはこれらの理由からですね。

回転運動(スイング期)を向上させるベストな方法とは

 身体の角運動量を最大にするには、

(1)スイング開始時の角運動量を最大化する(2)スイング時間を最大化(3)外力のモーメントを最大化させる

 の3つですが(1)と(2)は求めすぎると身体の開きや、速い球に対応できなくなります。そうなると(3)のシステムをより最適化することがポイントになります。これはピッチングにも同じことが言えるでしょう。

回転運動(角運動量)を向上させる外力モーメントの最適化とは

 外力のモーメントアームを最大化するには、

(1)脚の地面反力の最大化(2)モーメントアームの最大化

 が必要ですが、むやみにストライド期でステップ幅を増やしてモーメントアームを増やそうとすると、体重移動がうまくいかず地面反力が減ります。以上のことから最適化が大切になります。

脚からの地面反力を利用した回転運動と、並進運動について

 踏み込み脚が接地して並進運動にブレーキがかかり、そのエネルギーをうまく回転運動に伝えるのがポイントで、これは踏み込み脚の接地の角度や、股関節の柔軟性が重要になってきます。野球で母指球がよく言われるのは、この並進運動〜ブレーキ〜回転運動のキーマンだからだと思います。また深前線筋・筋膜連鎖が弱いとこの並進〜回転(下半身〜上半身の伝達も)の伝達がうまくいかなくなります。

 スクワットで外側線のみ鍛えると、深前線との身体のバランスが崩れるため、筋トレの弊害などと言われ、筋トレがパフォーマンス低下を呼ぶなんて誤解を呼ぶのだと思います。筋トレはパフォーマンス向上に必須です、しかし全面性の法則を守らないとダメですね。全部の連鎖ラインをバランスよく鍛えることが大切です。

・深前線の連鎖

(1)足底面、長拇指屈筋、長指屈筋、後脛骨筋(2)膝窩筋・筋膜、膝関節包 大腿骨内側上顆(3)上顆後軌道〜大内転筋、後大腿筋中隔、坐骨結節、閉鎖筋膜、骨盤底筋、坐骨枝、弓状線(4)顆前軌道〜大腿骨内側上顆、内側筋間中隔、短内転筋、長内転筋(5)上後軌道、小転子腸腰筋、前縦靭帯、頸長筋、頭長筋、後頭骨底部(6)上中軌道〜横隔膜後方・脚、腱中心、心膜、縦隔、椎前筋膜、斜角筋、後頭骨底部(7)上前軌道〜横隔膜前部、肋骨下部の筋膜、剣状突起、胸横筋、胸骨柄後面、舌骨下筋、舌骨、舌骨上筋、下顎骨、咀嚼筋、頭蓋骨

・外側線の連鎖(1)第一、五中足骨底(2)腓骨筋(3)腓骨頭(4)全腓骨頭靭帯(5)脛骨外側顆(6)腸脛靭帯(7)大腿筋膜張筋(8)大殿筋(9)腸骨稜、上前腸骨棘、上後腸骨棘(10)外腹斜筋(11)肋骨(12)内、外肋間筋(13)第一、二肋骨(14)頭板状筋、胸鎖乳突筋(15)後頭骨、乳様突起

回転運動のトレーニングのポイント

 踏み込み脚の内転筋のエキセントリック収縮でブレーキをかけたら、次は素早くコンセントリック収縮させて回転運動につなげます。この素早い筋力の立ち上がり反応力(ハイRFD)を鍛えることがトレーニングの必須ポイントになりますね。

並進運動を回転運動に効率よく伝達する指導法

 踏み込み脚はブレーキをかけながら本塁方向にプッシュして回転運動に地面反力をもらい、軸足は回内エッジで並進運動の地面反力をもらい、踏み込み脚が着く直前に、母指球で本塁から遠くなる方向にプッシュして地面反力をもらい、身体を一つの剛体にして回転運動を行うことで地面〜下半身からの加速、接地で減速、回転方向へ加速で連鎖して最終的にバットのグリップが減速してヘッドを加速させていくことになります。

 ここにはどこで力を加え、どこで減速してなど、力の出し入れと、正しい動作の二つを指導しなくてはなりません。減速動作で減速できないことを、昔から身体の突っ込みや開きと呼んでいますが、指導するときは突っ込むな、開くなではなくて、そこで止まれと教えた方が良い結果が出やすいです。指導者側はなぜその動作になるかの根本を知っておかないとダメですね。

ピッチャーの歩幅と球速

 これはピッチャーの歩幅量にも言えることです。ピッチャーの歩幅を広げるのは、モーメントアームを増やして球速を上げたいのだと思いますが、その反面地面反力が減り球速が落ちるリスクが多分にあります。

 指導者はフォーム作りの時は最適化を目指さなくてはならないし、全体を見て最適化しないといけません。部分だけを取り出して動作を指導しすぎると最適化できないリスクが本当に多いと感じています。これらの指導方法については次回お話しようと思います。

・モーメントアーム 支点と力点との距離

まとめ

 今回は前回の並進運動から、回転運動について話を進めました。回転運動については体重移動と重心移動が残っているので、またの機会に紹介しようと思います。次回はわかりやすい指導法についてお話しようと思います。

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