名門、横浜F・マリノスが揺れている。

 先日はクラブの英雄的存在だったMF中村俊輔が、ジュビロ磐田への移籍を発表。クラブに対する批判、不満は頂点に達した。これを受けて、横浜FMは異例とも言える釈明文を出すことになった。そして、社長は就任わずか1年での交代が明らかになっている。

 では、岐路に立った名門の実状とは......。

 横浜FMのマネジメントが不安定になった理由を、ひと口で解き明かすのは難しい。

 体質として問題視される点は、以前からあった。たとえば経営面では、本拠地だったマリノスタウンの運営に年間6億円もの賃料を10年間支払い、結局は払い切れなくなって潰すことに。今や「宿なし」の状態である。また強化面では、かつてチームのシンボル的選手だったDF松田直樹の処遇を巡っても、「功労者に冷たい」と批判が沸騰し、ネガティブな印象を残している。

 もっとも、横浜FMに限らず大きなクラブはマイナス面も抱えるものである。

 では、なぜ今、クラブの未来が危ぶまれる重大な事態に陥っているのか?

「2014年7月にシティ・フットボール・グループ(CFG)が経営に参入して以来(約20%の株を取得)、チームを翻弄している」

 その意見は根強い。昨年3月にスポーティングダイレクターに就任したアイザック・ドルは、"シティの代名詞"として不評を買っている。その顔は公(おおやけ)には見えてこないのだが......。

 混乱の要因は明白だ。

「クラブの評価、査定が納得いかない」

 選手はそう言って、不信感を募らせる。

 現場での強化に、まるで筋が通っていない。たとえば、ドルが就任する直前、ブラジル人FWカイケの獲得が発表されている。交渉そのものは前任者が行なっていたはずだが、無関係のはずはない。半年で北米3ヵ国を半年で転々とし、順応性が明らかに欠けるカイケを、「プレービデオのみで採用した」と言われる。年俸1億〜1億5000万円と言われるFWを、だ。

 その結果、カイケはわずか4得点にとどまり、ポストプレーに至っては失笑を浴びた。同時に、素行問題も噴出。受け入れ先探しは難航し、サントス(ブラジル)と期限付き移籍合意も、年俸差額は横浜FMが肩代わりする可能性が高い。

 強化の不明が、舵取りを誤らせている。

「主軸DF、中澤佑二に年俸半減を提示」

 今冬に世間を騒がしたニュースは、評価基準の杜撰(ずさん)さを象徴していた。全試合フルタイムで出場した選手の査定としては噴飯ものだ。38歳という年齢も、単年契約なら言い訳にならない。クラブの資金不足というなら、カイケの契約がちらつく。結局はクラブが年俸を引き上げており、「約25%減で落ち着くのでは」と言われるが......。

 むしろ深刻なのは、ディフェンスの主力であるDF小林祐三(→サガン鳥栖)、DFファビオ(→ガンバ大阪)、GK榎本哲也(→浦和レッズ)の3人を移籍させた点だろう。彼らに正当な評価を下し、引き留めることができなかった。それは「罪」に近い。不動の右サイドバック・小林には「契約満了」を突きつけた。見る目がないというか、正義がまかり通らない。1シーズンを通し、コンスタントに試合に出場した実績を否定するなら、選手は何を拠りどころに身を粉(こ)にするのか。

「自分たちの何を見ているのか、信頼できない」

 その不信感は多くの選手に伝播・増幅し、9年間在籍したMF兵藤慎剛(→北海道コンサドーレ札幌)も移籍を発表している。

 現場で矢面に立つのは、「CFGに選ばれた」という形のエリク・モンバエルツ監督だろう。成績は10位と低迷。トレーニングがマンネリ化するなど、1年目以上の結果(7位)を残すことができなかった。

「なぜ、監督を代えないのか?」という批判の矛先を向けられている。

 しかし、モンバエルツ本人はそこまで悪い監督だろうか?

 ルヴァンカップ、天皇杯では準決勝に進出。MF喜田拓也(22歳)、FW富樫敬真(23歳)、MF天野純(25歳)、DFパク・ジョンス(22歳)、MF遠藤渓太(19歳)ら若手を抜擢したのは、フランス人監督の功績だろう。少なくとも一部選手たちを除けば、リスペクトされている。練習中に怒鳴り声を上げて刃向かったコーチ(選手の前で監督に反抗するなど欧州や南米では言語道断)や、不満げな態度を露わにする選手も、"干す"ようなことはせず、寛大に誠実に対応してきた。

 中村の移籍は、横浜FMファンにとっては青天の霹靂(へきれき)で、心情的には悲しい出来事だろう。しかし、強化の一面から見ると、不思議ではない。

 モンバエルツと中村が戦術的に折り合いをつけられなくなっていたことは、誰の目にも明らかだった。横浜FMは2トップのほうが機能しはじめ、攻撃はFW齋藤学の存在感が著しく増し、終盤には左利きMFの天野も成長を見せていた。一方の中村は38歳になってケガも多く、フル稼働はできなかった。8000万円と言われる年棒オファーを受け、同じ感性を持つ指揮官の誘いを選んだに過ぎない。

 騒動を一緒くたにするべきではないだろう。クラブは新陳代謝を必要とする。その点、移籍や若手への切り替えもひとつのマネジメントだろう。

 にもかかわらず、批判を避けられない理由も明らかだ。

「正しい目によるジャッジの欠落」

 それこそ、集団における負の連鎖を引き起こしている。

 横浜FMは来季に向け、レッドスター・ベオグラード(セルビア)で得点を量産していたポルトガル人FWウーゴ・ヴィエイラを獲得するなど、戦力補強も行なっている。しかし、DFラインの主力をごっそりと手放し、Jリーグで生き残れるのか? もし、齋藤学も移籍する道を選ぶとしたら......。そこには、茨(いばら)の道が待つだろう。

小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki