田中 正義投手(創価高−創価大)「日本一の投手、そして世界一の投手へ」【後編】
今年から福岡ソフトバンクホークスの一員としてスタートすることになる田中 正義投手。前編では高校時代の後悔や大学に入って意識して取り組んでいることを伺いました。後編ではブレイクし始めた大学2年春から現在までの軌跡、そしてプロ入りへ向けての意気込みを語っていただきました。
NPBの壮行試合の投球が大学時代最高のピッチング田中 正義投手(創価大学)
目的意識を持った練習計画と生活行動で大学1年を過ごした田中は、大学2年で大ブレイク。球速は150キロを超えるまでになり、リーグ戦で好投を続けた田中は大学選手権出場に貢献。初舞台となった佛教大戦では常時150キロ台・最速154キロのストレートを軸に無四球完封し、観客そしてNPBのスカウトをどよめかせた。田中は剛速球を武器に4強入りに貢献。また2年秋の明治神宮大会でもベスト4と全国大会でも実績を残し、一躍、大学生を代表する剛腕へ名乗りを上げた。
「大学2年のときは自分がやってきた成果が実を結んで、自信になった1年間でした」
そして大学3年では、第28回ユニバーシアード競技大会の代表選手に選出。NPBの若手選手が中心に集まった選抜チームとの壮行試合で4回8奪三振とプロ相手にも圧巻のピッチングを見せた。更に7者連続三振を奪うなど、多くのファンに大きなインパクトを与え、田中自身も、「自分の名を大きく広めた試合」だと位置付ける。この試合の投球は球速、コントロールともに抜群の内容だった。
常時150キロ中盤のストレートが両サイドに決まり、140キロ近いフォークとのコンビネーションも冴え渡り、面白いように三振を奪っていった。この試合について田中は自分でも驚きのピッチングができたと振り返る。「なんであんなピッチングができたんですかね。あの日は狙った通りのコースへいきましたし、またボールだと思ったゾーンもストライクにとってもらえたのもあって、三振が取れたと思います。結果的に見れば、あの試合は大学4年間の中でベストピッチングでした。自分の名前を広めるきっかけにもなったと思います」
そして大学4年となり田中は主将に就任。日本一へ向けて始動したが、そんな田中の下にある一報が届く。3月5日、6日の侍ジャパン強化試合へ向けての正式オファーが届いたのだ。NPB選抜との壮行試合を視察していた小久保 裕紀・トップチーム代表監督が田中の投球を評価して、代表候補の一員として田中にオファーを出したのであった。田中は嬉しさの半面、戸惑いがあったという。「自分はそこ(トップチーム)に入る投手ではないと思っていました。自己評価と周囲が下す評価。そのギャップの違いに悩みましたね」
田中は代表入りへ向けて練習をしていたが、右肩の違和感を訴えて、辞退した。その後、春季リーグ戦前に復帰し、後半で肩を痛めて戦線離脱。わずか2試合の登板に終わった田中。チームも優勝を逃し、大学選手権出場はならなかった。この怪我について田中はとてもショックを受けた。「肩を痛めたのは、自分が右肩の機能が弱っていることに気づかず、寒い中遠投や投げ込みなどを繰り返していったからでした。春のリーグ戦中にも肩を痛めてしまいましたけど、やっぱり精神的にかなり来ましたよ」
それでも田中はめげずにリハビリに向き合った。「春は肩の機能をしっかりと勉強することができてとても良かった」と怪我もプラスに変えた。そして秋のリーグ戦へ向けて調整を続けていたが、夏場の練習の走り込みで右足の太もも裏の肉離れをしてしまい、満足な練習量を確保できないまま秋のリーグ戦を迎えた。しかし秋のリーグ戦では9試合に登板し、4勝0敗、防御率1.83と好成績を収めて復調した姿を見せた。ドラフト会議後の横浜市長杯では、桜美林大戦で相手エースの佐々木 千隼(関連記事)との投げ合いになったが、4回4失点で降板となり、田中の大学野球が終わった。
ダルビッシュ有投手との自主トレで得ているもの田中 正義投手(創価大学)
田中は最後の1年について、「この秋を含めて今年1年の投球には全く満足していないです」。思うような投球ができないまま終わってしまったことに悔しさを露わにしながらも、今はプロの一員として、都内のジムに通い、トレーニングに取り組んでいる。
またダルビッシュ 有投手と自主トレをしていることで話題になったが、ダルビッシュ投手と自主トレすることになったきっかけを伺うと「僕が通っていたジムはダルビッシュさんが日本国内にいる時に通うジムだったんです。ダルビッシュさんに一緒にトレーニングをしてもいいですか?とお願いしたらOKをいただきまして、トレーニングすることになりました」
ダルビッシュ投手と一緒にトレーニングしているのは田中 将大選手(関連記事)、大谷 翔平選手(関連記事)、藤浪 晋太郎選手など超一流選手ばかり。彼らと一緒にトレーニングをすることで大きな刺激になっている。「とても勉強になりますね。上半身の鍛え方、下半身の鍛え方、そして今までやらなかった種目に取り組むことができています。自分は下半身の力は強いのですが、上半身が弱いので上半身を鍛えているのと、また体型も少しずつ変わってきているので、一からフォームも見直しています」
プロでは「スケールの大きい投手」を目指している。「大は小を兼ねると言いますけど、そういう投手になっていきたい。それに向けて課題は多いので、1つずつつぶしていきたいです」と語る田中。1年目の目標は開幕ローテーションだ。「肩も、下半身も元気ですし、開幕ローテーションを目指せる体になってきていますので、逆に目指さないといけないと思っています」
この4年間で心身ともに変わることができたと振り返る田中 正義。高い意識、吸収力、行動力で別人のような投手へ成長した。一流選手が集まるプロ野球の舞台で、田中は何を感じ、どう行動していくのか。田中が目指す「日本一の投手、そして世界一の投手」と呼ばれるまで、その歩みに注目していきたい。
(インタビュー・河嶋 宗一)