清宮 幸太郎選手(早稲田実業)「フォア・ザ・チーム」で全部勝つ
2017年・高校野球のみならず日本野球界において大きな注目を集めるスラッガー・清宮 幸太郎(早稲田大学系属早稲田実業学校高等部2年・一塁手)。ラグビー界の名将・清宮 克幸氏(トップリーグ・ヤマハ発動機監督)を父に持ち、東京北砂リトル時代にアメリカ・ウイリアムズポートで開催された世界選手権国際大会・ワールドシリーズを制覇すると、調布リトルシニアを経て入学した早稲田実業では1年夏から甲子園2本塁打、侍ジャパンU-18代表入りと世間の話題を常に集めてきた。
そして56本塁打を放ち、高校通算本塁打を78本まで伸ばした2016年を経て、迎える高校ラストシーズン。秋の東京都大会優勝、明治神宮大会準優勝でセンバツ出場も決定的にした今、主将も務める清宮の胸中は?冬季強化合宿を取材し、様々な角度から彼の魅力に迫る。
日大三戦の「5三振」を超えてつかんだ修正点明治神宮大会では復調した姿を見せた清宮幸太郎選手(早稲田実業)
――まず清宮選手にとって「2016年」を振り返ってみるといかがでしょうか。
清宮 幸太郎選手(以下、清宮):いろいろな経験をさせてもらった中で「負けたり、勝ったり」。また、人間的にも成長できて、去年とまた違う充実感のある1年でした。特にキャプテンになってからは周りに行き届くようになったというか、周りへの気遣い、周りへのモチベーションの上がり方、下がり方が解るようになりました。
「自分がやらないとみんながやらない」というのが解ったので、自分が鑑(かがみ)というほどではないのですけど、自分がやることでみんなを引っ張ることになる。それを学ぶことができた1年でした。
――2016年も数多くの試合を戦ってきましたが、自身が印象に残る試合や打席を教えてください。
清宮:夏の西東京大会準々決勝の八王子戦と秋の東京都大会決勝戦・日大三戦です。八王子戦は最後に自分が打てなくて負けてしまってことで、あれでいろいろと思うところがありました。あの思いを秋の大会につなげられて、みんなにも伝えられましたし、成長をさせてもらった試合としてあげました。
日大三戦では自分は5三振しましたけど、みんなに助けてもらった試合。主将としてみんなを引っ張ることができた試合だったと思います。
――日大三戦から一転、明治神宮大会では3試合で7打数4安打2打点。履正社(大阪)との決勝戦ではホームランも放ちました。短期間での復調を遂げた要因は?
清宮:たくさん映像を見ましたし、そこで改善点を見つけて練習することができたからです。ああいう経験(1試合5三振)は、はじめてでしたが、かえって自分を成長させてくれたと思います。 また、試合中でも修正の仕方や、いろいろ確認するポイントが増えた。「あれとこれを気を付ければ打てる。論理的にできる」ところが大きくなったと思います。
――明治神宮大会で変えた打撃の修正、具体的に言えることがあればお願いします。
清宮:身体を開かないことです。たとえば明治神宮大会2回戦の静岡(静岡)戦では死球が多くても、インコースにきてもグッとこらえることができましたし、無理に引っ張る意識がなかったのがよかったと思います。 そして2016年・最後の練習試合(磐城)でも逆方向を意識しながらレフトへ本塁打を打てました。よいホームランだったと思います。
――清宮選手がさきほど話をされたように明治神宮大会では、四球、死球が多くなっています(3試合で7四死球)。なかなか打つ球が少なくなっているように感じられていますが、その中で大事にしていることは?
清宮:やはり練習の意識からです。たとえばラスト1本の場合は「もうファールは絶対打たない」とか。勝負強い打撃をするには「1球しかない」意識を持って、しっかりと捉えるということを練習から心がけることが必要だと思っているので、それを意識しています。
――今年は56本塁打を追加し、高校通算78本塁打。ホームランが増えていきましたけど、ホームランへのこだわりはありますか?
清宮:ないです。チームのためにつないで、ランナーを還すところは還す。出塁率ではなく、とにかく打点です。
――打球の方向性についてはいかがですか?ここまではライト方向が多いですか、レフトへの「逆方向」について考えていることは?
清宮:逆方向への打球は大事ですし、必要だと思うんですけど、僕は意識して向こうに飛ばすというよりは、自然に飛ばせればという感覚で打っています。調子のよい時のそういう状態になるので、これからもそこに近づければ、コンディションを合わせていければと思っています。
――では、2016年の打撃を自分で点数をつけるとすれば?
清宮:70点ですね。微妙ですけど(笑)
「GO!GO!GO!」の真意と鴨川合宿のテーマインタビューに応じる清宮幸太郎選手(早稲田実業)
――今シーズン、新チームでキャプテンになった清宮選手は「体重5キロアップ・球速5キロアップ・飛距離5キロアップ」の「GO!GO!GO!」を掲げました。ここまでの成果はどうとらえていますか?
清宮:あの言葉は「みんなへの言葉」という意味が強いんです。ただ、秋が終わった時点では2015年よりもみんな体重が増えていますし、たくさん食べています。「5キロスピードアップ」の部分でも投手陣はみんな投げ込んでいます。
みんなが「GO!GO!GO!」を口でいいながら、みんなの意識の中に植え付けられていると思いますね。
――清宮選手にとって2回目の冬、この取り組みを来年の春や夏にどのようにつなげていこうと考えていますか?
清宮:2年生に言っているのは「成長できるのはこの期間しかない」。悔いの残らない過ごし方をしてほしいと思っています。
強いチームには体が大きい人がいますし、そういうところが勝っていく。全国でも残っていく。そして球速アップ、鋭い打球を打てることにつながる。「この冬の練習がそれにつながっていく」ということはみんなに話をしています。
――清宮選手も増量をしていると思いますが、目標としている体重は?
清宮:今のところは100キロを切らないようにしています。僕自身の体重は減らない体質ですので、自分の中である程度コントロールしていましたね。夏はずっと97〜98キロやっている中で、レベルアップにつなげる、パワーアップして成長し続けるために冬に100キロまで増やそうと思いました。
直近の体重測定では100.2キロ。体重を落とすのは簡単なので、これで動きが悪くようならば元に戻せばいいと考えています。
――2016年末は鴨川で合宿を開催。ここでテーマにしてきたことは?
清宮:野球面だけではなく、時間を守る行動など野球以外のことをしっかりとやることがテーマでした。部員全員が寝泊まりできるのはこの合宿しかないので、野球以外の面も成長しようと掲げた合宿です。
鴨川に来て久しぶりに打ったり、紅白戦をしたりした中で、自分の成長も感じられましたし、足りない部分はたくさんあったと感じられる合宿でした。
――キャンプ中での打撃面はどういう課題をもってやってきましたか?
清宮:「しっかりと振る」ということです。本数は多く振っているわけではないけど、1回1回を確実に自分のものにするために、気持ちを込めてやっています。
――キャンプでは大学生になった高校の先輩たちも参加していますが、どういうことを教えてもらっていますか?
清宮:守備ですね。「大学ではこういうことをやっているよ」ということを教わりました。
――ちなみにグラブに刺繍されている「Be Creator」はどういう意味があるのでしょうか?
清宮:「創造者」みたいな感じではないけど「Creator」って常に先頭を切るイメージがあるというか……。そこまで意味を込めていないですよ。まあ、気にしないでください(笑)
2017年は「全部勝つ」!ノックを受ける清宮幸太郎選手(早稲田実業)
――1月27日にはセンバツ出場校発表。そこについてはチームで話したりしますか?
清宮:出場できるかは分からないですが、どちらにしても春には大会があるので。それに向けてしっかりと引き締め直すこと大事です。
(秋の東京都大会優勝、明治神宮大会準優勝の)秋が終わって、勝ち方や戦い方が分かってきた上で体づくりをしているので、春はもっと強くなると思っています。
――2017年は清宮選手にとっても早稲田実業でのラストイヤー。「こういう1年にしたい」と思うことは?
清宮:「全部勝つ」自分の結果どうこうより、勝ちたい。自分の結果も大事ですけど僕は主将ですから。勝ちを意識して、みんなを引っ張っていけるようにしていきたいと思います。
――「全部勝つ」ために、どう引っ張っていきたいですか?
清宮:もちろん全国大会も大事なんですけど、自分たちの意識の中では目の前の1試合を全力で戦ってモノにしていくのが早稲田実業のスタイルなので、それを貫いていけたらと思います。
「フォア ザ チーム」これぞ清宮 幸太郎の流儀。「すぐりし精鋭」の先頭に立ってけん引する先にある理想の王者と自らの栄光をつかむため、彼は早稲田大学系属早稲田実業学校高等部硬式野球部の主将として2017年を戦いきる。(取材=河嶋 宗一)