MLBから学ぶパワーヒッターの作り方!メジャー流の筋トレや考え方に迫る!

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マーク・トロンボ(オリオールズ)

 特別特集「パワーアップが上達の近道」では、ここまで、日本のプロ野球界で活躍している選手たちや、強豪チームの取り組みなどを紹介してきたが、ここでMLBの世界ものぞいてみよう。今回は、ニューヨーク在住のMLB記者の杉浦大介氏に、メジャーリーグの「パワーヒッターの作り方」事情を執筆いただいた。

 メジャーリーグとは投打ともにパワーが重視される世界だ。今では日本のプロ野球も世界のトップリーグと目されているが、パワー面では依然としてメジャーとの間に歴然とした差が存在する。現在メジャーで活躍する日本野球経験者に日米リーグの最大の違いを聴いても、たいていの場合、「やはり力強さではまだアメリカの方が上だろう」といった答えが返ってくる。

アメリカン・リーグ本塁打王・トロンボのように打撃特化の選手が輝けるのがメジャー

 打撃面では、例え打率は.220程度でも、30〜40本塁打を打てばアメリカでは一定の評価はされる。それだけの数字を残せば、大型契約も獲得可能。今オフではアメリカン・リーグ本塁打王のマーク・トロンボ(2016年までオリオールズ所属)のケースが象徴的だろう。

  2010年にメジャーデヴュー以降、トロンボの打率は270を超えたことがない。ただ、レギュラー定着した6年中5年で22本塁打以上、4年で29本塁打以上というパワーは魅力。2016年も159試合で打率は.256、170三振を喫しながら、メジャー1位の47本塁打を放ったため、今オフは総額5000万ドル以上の大型契約を受け取ることが確実視される。

「トロンボにできないことはたくさんある。守備、走塁は低レベルだし、四球も少ないし、打率も低い。ただ、2016年には誰よりも多くのホームランを打ったおかげで、今オフには高給を得るだろう」今オフのFA戦線開始前に、老舗スポーツ・イラストレイテッド誌のウェブサイトにはそんな寸評が寄せられていた。ここでのコメントは、並外れたパワーさえ持っていれば、いわゆる“1ツールプレーヤー”でも評価されるメジャーの通例をわかりやすく物語っていると言って良い。

「アメリカではかなり若い頃から、ドラフトで指名されるのはパワーヒッターだけだとコーチから吹き込まれる。だから打率を少なからず犠牲してでも、パワーを重視する考え方になるんだ」

 アメリカで大学までベースボールをプレーした日系人で、現在はニューヨークのテレビ局「NY1」でレポーターとして活躍するザック・タワタリ氏はそう証言する。その言葉通り、アメリカでは基本的にリトルリーグの時代からパワー重視の打ち方を叩き込まれることが多い。もちろん少なからず適正に応じはするだろうが、筋力をつけるための鍛錬は必須のようだ。

「特別な練習方法よりも、ウエイトトレーニングをかなり重点的にやる。子供の頃から毎日やるようにとコーチから強調されたものだった。その点は、技術と基本を重んじる日本とはかなり違うんじゃないかな」

 タワタリ氏がそう述べる通り、ベースボールを始めたばかりの時期には、日本ではまずは基礎練習が中心になる。無闇に筋肉をつけて打球を飛ばそうとするより、まずはレベルスイングでのコンタクトに主眼が置かれるはずだ。しかし、アメリカでは学生時代からウエイトは欠かせないメニューになっている。

パワー重視のMLBでも、日本人がアメリカ的な考え方を踏襲する必要はない

 そして、晴れてメジャーにたどり着いた選手たちは、パワーをつけるためにどんな練習を試みているのか。このレベルまで到達したプレーヤーは、投手、野手問わず、ほぼ例外なく基礎体力はできている。遜色ないパワーを誇る投手の球を遠くまで弾き返すために、打者には技術的にも鍛錬が必要になるはずだ。

 この点について、1995〜96年には阪神タイガースで活躍し、現在はボルチモア・オリオールズで打撃コーチを務めるスコット・クールボーに尋ねてみた。「打球を遠くに飛ばすためには、体重が前がかりにならないようにする。そして、アッパー気味のスイングで飛球を打つ。アッパースイングで打つとボールにバックスピンがかかり、飛距離も出易い。長距離打者の素養があると判断し、それを伸ばすために私が指導するとすれば、ボールに体重を乗せ、バックスピンをかけるようなスイングの角度を教えるね」

 鍵は“アッパースイング”で“ボールに体重を乗せる”こと――。とにかく打球を飛ばすためのスイングという意味で、クールボーの指導方法はわかりやすい。前述のトロンボ、あるいは2006年から4年連続で45本塁打以上を記録したライアン・ハワード(フィリーズ)、今季43本塁打のネルソン・クルーズ、(シアトル・マリナーズ)、今季で引退したMLB通算696本塁打のアレックス・ロドリゲス(ニューヨーク・ヤンキース)、通算541本塁打のデビッド・オルティス(ボストン・レッドソックス)など、メジャーのパワーヒッターはやはり典型的なアッパースイングの選手が多い。

 まるでホームラン競争のようにスイングすれば確実性は落ちる。しかし、米野球界においてパワーにはそれだけの価値があるということだろう。まずはウエイトトレーニングによって基礎体力をつけて、すくい上げるようなスイングで打球を可能な限り遠くに飛ばす。もともとパワー自慢のアメリカ人たちは、そんなシンプルなやり方で本塁打を量産しているのである。

 もっとも、最後になるが、日米両方のベースボールを熟知するクールボーは、“日本人選手がアメリカ的な考え方を踏襲しようとする必要はない”と述べていたことも付け加えておきたい。

「日本の選手たちはより水平にスイングし、打つ際に軸足に体重を乗せない。構えたそのままの態勢で振るか、やや前がかりになる選手もいる。一般的に打球を飛ばすことを重視したスイングではない。ただ、より水平なスイングを心がけるアジア野球の指導法が間違っているとは思わない。コーチとして見て、より安定した形でバットにボールを当てることを重視しているという意味で適切な教え方だとは思う。日本人選手がコンスタントにボールをバットの芯に当てるのが上手いのは事実だからね」

 メジャーがパワーピッチャー、パワーヒッターを中心に動いているのは事実であり、前述通り、そういった選手たちは高給を手にできる。ただ、現役ではイチロー、青木 宣親に代表されるように、バットに当てる能力とスキルでMLBで存在感を発揮してきたプレイヤーも少なくない。重要なのはそれぞれ長所を認識し、最大限に生かすこと。パワーに恵まれているに越したことはないが、それだけにこだわりすぎず、自身のスイングと練習方法を確立するのが何よりも大事だということなのだろう。

(文・杉浦 大介)

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