あせりは禁物!ケガからの復帰に向けて覚えておきたい心構え
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。
いよいよ師走となり、今年も残り半月となりました。今年の高校野球シーズンはいかがでしたか?選手の皆さんは来春のシーズンに向けて体力づくりを中心に練習を積み重ねていることと思います。それと同時にケガをして十分にプレーが出来なかった選手にとっては、競技復帰に向けてさまざまな取り組みをしていることでしょう。今回はケガをした選手がリハビリテーションを経て、競技復帰するまでの過程について考えてみたいと思います。
リハビリテーションに対し、前向きに取り組むことが大切
ケガをしてしまうと、全体練習に復帰したいばかりに痛みが残っているのにムリをしてしまうことがあると思います。出来ることを少しずつ増やしていくことが大切で、競技復帰への階段を「一段抜かし」で進んでしまうと、また同じ部位をケガしてしまうという再発リスクが高くなります。選手がケガをした場合の心境の変化は次のような段階を踏むと言われています。
《ケガをした直後から》1)ケガをしたという事実を否定する・・・問いかけに対し「大丈夫です」と答えますが、大丈夫と答える選手ほど大丈夫ではないことが多い。2)ケガをしたことに対して怒る・・・「何でケガをしてしまったのか」「なぜ自分なのか」とケガをした事実に対して怒りを覚える。3)ケガをしたことに対してガッカリする・・・怒ったところで現状は変わることがなく、それに気づいたときに意気消沈する。「やめたい」とか。4)事実を認識する・・・怒って、意気消沈した後にようやく事実を認められるようになる。5)ケガをしたことに対し、前向きになる・・・事実を認め、プレー復帰に向けたリハビリテーションに前向きな姿勢を見せるようになる。
まずはケガに対してどのような心理状態にあるかということを、理解しましょう。前向きな気持ちになるまでには時間がかかる場合があるかもしれません。しかしこのような過程を経て、ケガを克服するためのリハビリテーションに対し、積極的に取り組むようになることが大切です。
ケガをしていても出来ることをやる全身を動かすことが出来ない場合を除き、ケガをしている部位は安静にしていても、その他のところは動かせることが多いと思います。右足をケガしていれば、左足や上半身、体幹は動かせるし、腰痛の場合は上半身はもちろんのこと、下半身も体幹を固定した状態でのトレーニングや体重をかけない自重エクササイズ、プールトレーニングなど、痛みの程度にあわせて出来ることがあります。
まずは医療機関で医師の診察を受けたときに、「やっていいこと」と「やってはいけないこと」を必ず確認しておきましょう。高校野球が出来る時間は多く見積もっても2年半。少しでも早く競技復帰できるように「ケガをしていても今、出来ること」を行うことが大切です。ケガをしている部位以外のトレーニングを「患部外トレーニング」と呼びます。
患部外トレーニングは競技復帰への近道荷重による負荷を軽減させるためのエアロバイクなども活用しよう
ケガをしてしまうと全体的な運動量が減ってしまうことは否めません。こうした選手にとって患部外トレーニングは、ある程度の運動量を確保し、筋持久力や全身持久力などの体力レベルを維持させることに役立ちます。上半身のケガであればジョギングやランニングなどが許可されるケースも少なくないので、医師から指示があれば積極的に参加するようにしましょう。下半身や体幹のケガであればエアロバイクを使った全身持久力の確保や、プールトレーニングなどでの有酸素運動に置き換えることも出来ると思います。
また左右どちらかをケガしている場合、逆側の部位はしっかりとトレーニングを行うようにしましょう。「片側だけのトレーニングは筋力の左右差が開いてしまい、バランスが悪くなるかも・・・」という心配もあると思いますが、脳から筋肉に伝えられる指令は脊髄を通って両側の部位に伝えられます。このとき、左が動かせなくて右のみを動かしていたとしても両側に指令が行き、筋肉は収縮しようとしていますので、動かしていない左側にも刺激が届くことになります。
一時的に筋力バランスが悪くなりますが、患部側の運動制限がなくなってトレーニングを再開すると、何もしなかったときよりも早く筋肉レベルが回復するといわれています。左右のバランスを整えるのは、ある程度筋力が回復してからでも十分間に合います。
競技復帰に向けては体力レベルをなるべく落とさないようにすることが肝心です。体重管理にも気をつけつつ、積極的に患部のリハビリテーションや患部外トレーニングを行って早期の競技復帰を目指しましょう。
【ケガからの復帰に向けて】●あせりは禁物。競技復帰への階段を一歩ずつ確実にのぼること●ケガをした選手の心理的な変化を理解する●競技復帰に対し前向きな気持ちで取り組む●ケガをしていても出来ることがある●患部外トレーニングは体力維持に役立つ●片側のトレーニングは筋力バランスが一時的に崩れるものの、競技復帰には近道となる
(文=西村 典子)
次回コラム公開は12月30日を予定しております。
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