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●アルコール消毒はノロウイルスに有効ではない
ノロウイルスが原因の感染性胃腸炎患者は冬に急激に増加し、感染すると耐え難いほどの吐き気や下痢に悩まされる。そのような苦しみから逃れるべく、感染のリスクを少しでも低減させたいところだが、有効な予防策には何があるのだろうか。また、万一罹患(りかん)してしまったときに注意したいポイントとは何だろうか。

今回は千駄ヶ谷インターナショナルクリニックの院長・篠塚規医師に感染性胃腸炎の予防策や感染後の対処法などについてうかがった。

○細菌性とウイルス性の違い

ウイルスや細菌などの病原体が原因となる感染性胃腸炎は、下痢やおう吐、腹痛、発熱といった症状を呈する。特に冬になるとノロウイルス由来の感染性胃腸炎が増え、保育園や学校などでの集団感染もしばしばみられる。

サルモネラ菌やカンピロバクターなどが原因の細菌性胃腸炎は夏に多いものの、冬に罹患しないとは限らない。細菌由来かウイルス由来かは、血液検査のCRP値を調べれば5分程度で判明し、細菌性ならば抗生物質を投与することで症状が緩和される。感染性胃腸炎と診断されたら、CRPチェックをしてもらうのもいいだろう。

一方でノロウイルスが原因の場合、通常は体内で24〜48時間ほど潜伏した後に発症。おう吐や下痢などのつらい症状が1〜2日ほど続き、大抵は発症から4日以内に症状は軽快する。そして、ワクチンも特効薬もない。

ノロウイルス由来の主な感染経路は経口感染で、手や食べ物などに付着したウイルスを体内に取り込むことで発病する。それゆえ、有効な予防策は手洗いとなる。

「手洗いは石けんを用いて行いましょう。トイレから出た後や調理前、食事の前に必ず流水で手洗いをするように」と篠塚医師。可能ならば、手をふくタオルを家族別々に使い分けておけば、それだけ家庭内での二次感染のリスクは減る。最低でも、感染性胃腸炎が疑われる症状が現れた人がいたら、その人とのタオルや食器の共用は避けるように。

○塩素系漂白剤で消毒を

家庭内での二次感染を防ぐという観点からみると、「消毒」も大切な要素と言える。感染者の吐しゃ物やふん便には大量のノロウイルスが含まれている。もしも部屋でおう吐してしまった場合、部屋に大量のウイルスが巻き散らかされたことを意味する。

消毒が不十分だとその場所に触れることでノロウイルスが付着し、さらに感染が拡大する恐れがあるため消毒は必須。その際に気をつけたいのは、アルコール消毒ではなく塩素系の漂白剤を用いるという点だと篠塚医師は話す。

「アルコール消毒はノロウイルスに対しては有効ではありません。米国では、CDC(米国疾病管理予防センター)がノロウイルスの消毒に有効な数十種類の塩素系漂白剤をまとめ、情報として提供しているほどです。一般のご家庭では、市販されている塩素系漂白剤をバケツや洗面器などにため、水で薄めて掃き掃除に使用してください」。

●登校・出社再開の目安は?
ただ、どれだけ自身がしっかりと予防策を講じていても、人から人へと感染するだけにどうしても防ぎきれないケースもある。もしも感染性胃腸炎になってしまった場合、激しいおう吐や下痢で小児や高齢者らが脱水症状になる可能性もあるため、食事内容には注意するようにしたい。

「発症から24時間以内はおう吐が激しいため、食べられないことが多いです。薄味のスープやみそ汁、リンゴジュースなどを与えるようにしましょう。経口補水液でもOKです。症状のピークが過ぎた回復期は、下痢の心配があるから脂っこいものと生ものは避けた方がよいです」。

あまりにも下痢がつらい場合、下痢止めの薬を服用してしまいたくなるかもしれないが、ウイルスを体外に排出しきらないといけないため、使用はご法度と覚えておこう。

感染性胃腸炎後に気になるもう一つのこととして、出社や登校再開のタイミングがある。一日も早く職場復帰したいビジネスマンもいるだろうが、周囲への感染リスクを伴うだけに選択は慎重にしてもらいたい。

ウイルスの感染力が特に強いのは症状が治まってから3〜4日以内で、一般的にウイルスは体内に最長2週間程度は滞在するとされている。学校保健安全法ではノロウイルス感染に伴う出席停止期間が定められていないが、「感染拡大の恐れを限りなくゼロにする」という観点で考えれば、発症から1週間前後は学校や会社へと行かないことが望ましい。

○2016年シーズンは例年より患者が多い

国立感染症研究所によると、2016年は例年に比べて早い時期から感染性腸炎患者が増え始めており、その数も例年より多くなっている。有名なインフルエンザウイルスの陰に隠れがちだが、ノロウイルスのシーズンは通常11月〜4月でこれから本番を迎えるといっても過言ではない。しっかりと予防に努めてほしい。

※写真と本文は関係ありません

○記事監修: 篠塚規(しのづか ただし)

千駄ヶ谷インターナショナルクリニックの院長。千葉大学医学部卒業。米国ピッツバーグ大学医学部勤務、医療法人社団松弘会三愛病院副院長・外科部長を務めた後、日本旅行医学会を設立。2013年5月 WHOの「INTERNATIONAL TRAVEL AND HEALTH(ITH)」の編集会議に編集委員として参加するなど、日本における旅行医学の第一人者として活躍する。

(栗田智久)