「真田丸」47話。遅筆で有名な三谷幸喜が、なぜ「真田丸」をちゃんと書き上げられたのか
NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
11月27日放送 第47話「反撃」 演出:小林大児
まず「真田丸」47話について書く前に、現在上演中の三谷幸喜が作、演出している舞台「エノケソ一代記」
について書かせてほしい。
昭和の喜劇王エノケンこと榎本健一に憧れた男の物語で、「ONE PIECE」を歌舞伎化してルフィーを演じた市川猿之助が主演で、その妻を「真田丸」の稲役の吉田羊が演じている。吉田のことを最初、戸田恵子かと思ってしまったのは置いておき、この舞台、47話の放送日・11月27日が初日だった。この1ヶ月前の10月27日に「真田丸」はクランクアップしているので(つまりそれよりも前に台本はあがっている)、じつに美しいスケジュールで、三谷幸喜は大河ドラマから舞台へとシフトしているのだ。
そんなことは当たり前とはいえないのが三谷幸喜。以前から脚本を書き上げるのが遅いと言われている作家だ。うがった見方をすると、近いところに舞台を入れておけば、大河ドラマを書き終えざるを得ないという見事なマネージメントなのではないだろうか。
何にせよ、大河も舞台も両方楽しめるので、良いこと尽しだ。
舞台でも活躍している吉田羊が、47話でも活躍。信之(大泉洋)の浮気心に喝を入れた。
とにかく厳しい稲。癒やし担当の意地を見せるこう(長野里美)、あくまで商売に徹するお通(八木亜希子)。側室がいて当たり前のこの時代に、女3人の主義主張がはっきりしていて(稲たちが登場するときの楽曲、勇ましいし)、信之は彼女たちに花をもたせた形に(それはそれで立派だ)。
お通のお話聞き代を設定するため時代考証スタッフが頭をひねったそうだが、お通の予約台帳みたいなものに
井伊の名前があったことも気になる。井伊家もお世話になっていたのか。
次のお客の常陸屋藤左衛門役は、「真田丸」のテーマ曲の指揮者・下野竜也だったことも話題になったが、場違い感が出ていて楽しめた。
大坂城に砲弾が撃ち込まれ、女性たちがたくさん死んだ、というところからはじまった47話では、稲たちはじめ、女たちが大活躍した。
和睦に関する考証を、女たちが行う場面はスリリングだった。
幸村(堺雅人)の提案により、初(はいだしょうこ)が代表になった。そのわけは、彼女の「つねに平常心」であるところ。46話で、初が茶々のことを助言したとき、幸村は気づいたからだろう。
初と大蔵卿局(峯村リエ)ときり(長澤まさみ)の3人に対して、徳川側は阿茶局(斉藤由貴)ひとり。きりがカラダを張って、おとなしい初をフォローしたものの、大蔵卿局がまんまと阿茶に丸め込まれてしまい、
真田丸とお堀が潰されてしまう。
「そう致しましょう」
「そう致しましょう」
「そう致しましょう」
「埋めてしまいましょう」
「埋めてしまいましょう」
「埋めてしまいましょう」
この繰り返しにテレビの前でジリジリした。
大蔵卿局といい、片桐且元(小林隆)といい、なんでこんなことするんだよ〜と思うものの、絶対的な悪でもないので、怒りのぶつけどころに困る。
片桐なんて、大坂城の情報を家康(内野聖陽)に話して豊臣を不利にしてしまったことを悔み、「これより半年後、急死」とナレ死(有働由美子)されてしまうのでもうどうしようもない。大蔵卿局が強そうなのでサンドバッグになって頂くしかないだろう。
阿茶VSきり は、時代を現代に置き換えて、長澤まさみが紫式部、斉藤由貴が清少納言を演じた舞台「紫式部ダイアリー」(14年) を彷彿とさせる。
大坂の陣がはじまって、いよいよ真田幸村のターンと思って見ていて、実際、けっこう活躍しているのだが、相変わらず、解説係でもあるのが幸村だ。
家康の戦略を大蔵卿局や有楽斎(井上順)などに説明すると同時に、視聴者にも戦況を説明してくれている。
幸村の観察眼と洞察力が生かされたのは、前述の初を交渉に行かせたこと。46話の初と幸村の会話が、幸村と茶々との仲に関わることだけではなくて、ちゃんと生かされているところがさすがで、ちゃんと生かされているといえば、作兵衛(藤本隆宏)のエピソードも。
牢人たちが、幸村に不信感を抱きはじめ、作兵衛を呼び出す。幸村は命を預けるに足り得る人物か? と聞かれて
まず「知らぬ」と交わしつつ、真田安房守(草刈正雄)と同じく「義に厚い」と言う。
「安房守様は生涯をかけ武田の領地を取り戻そうとされていた。信玄公への忠義を死ぬまで忘れなかった。そのためにはどんな手でも使った。不肖のものの汚名も着た。源次郎さまはその血を受け継いでおられる。あの方は太閤殿下のご恩に報いるためにはなんでもする。そういうお方じゃ」
「真田丸」のすべてがここにあると言っても過言ではない。もうずう〜っと人の裏をかくことばかりしてきた真田家(主に昌幸)ではあるが、それも目的があってのこと。ひとえに武田信玄への忠義。その父と同じく幸村は、長年尽くした豊臣秀吉への忠義のために戦っている。
そのことを真面目な顔で語り終えた作兵衛は、すぐにいつもの朴訥な表情に戻る。
最も大切な事柄を、元々は農民で、いまだに畑を作っている実直な作兵衛に言わせたところに、「真田丸」の心を感じてならない。
追い詰められた豊臣軍だったが、みんなが幸村のもとに集まって、青春ドラマみたいに、わいわいする。
秀頼(中川大志)「望みを捨てぬ者だけに道は拓けるとそなたは言った」
幸村「はい」
秀頼「わたしはまだ捨ててはいない」
豊臣のピュアっぽさと家康のずるさの大きな違い!
最後の最後に来て、この青春展開には、SNSの盛り上がりも意識されているような気がしてならない。
(木俣冬)
11月27日放送 第47話「反撃」 演出:小林大児
11月27日は吉田羊が大活躍の日
まず「真田丸」47話について書く前に、現在上演中の三谷幸喜が作、演出している舞台「エノケソ一代記」
について書かせてほしい。
昭和の喜劇王エノケンこと榎本健一に憧れた男の物語で、「ONE PIECE」を歌舞伎化してルフィーを演じた市川猿之助が主演で、その妻を「真田丸」の稲役の吉田羊が演じている。吉田のことを最初、戸田恵子かと思ってしまったのは置いておき、この舞台、47話の放送日・11月27日が初日だった。この1ヶ月前の10月27日に「真田丸」はクランクアップしているので(つまりそれよりも前に台本はあがっている)、じつに美しいスケジュールで、三谷幸喜は大河ドラマから舞台へとシフトしているのだ。
そんなことは当たり前とはいえないのが三谷幸喜。以前から脚本を書き上げるのが遅いと言われている作家だ。うがった見方をすると、近いところに舞台を入れておけば、大河ドラマを書き終えざるを得ないという見事なマネージメントなのではないだろうか。
何にせよ、大河も舞台も両方楽しめるので、良いこと尽しだ。
とにかく厳しい稲。癒やし担当の意地を見せるこう(長野里美)、あくまで商売に徹するお通(八木亜希子)。側室がいて当たり前のこの時代に、女3人の主義主張がはっきりしていて(稲たちが登場するときの楽曲、勇ましいし)、信之は彼女たちに花をもたせた形に(それはそれで立派だ)。
お通のお話聞き代を設定するため時代考証スタッフが頭をひねったそうだが、お通の予約台帳みたいなものに
井伊の名前があったことも気になる。井伊家もお世話になっていたのか。
次のお客の常陸屋藤左衛門役は、「真田丸」のテーマ曲の指揮者・下野竜也だったことも話題になったが、場違い感が出ていて楽しめた。
女たちの真田丸
大坂城に砲弾が撃ち込まれ、女性たちがたくさん死んだ、というところからはじまった47話では、稲たちはじめ、女たちが大活躍した。
和睦に関する考証を、女たちが行う場面はスリリングだった。
幸村(堺雅人)の提案により、初(はいだしょうこ)が代表になった。そのわけは、彼女の「つねに平常心」であるところ。46話で、初が茶々のことを助言したとき、幸村は気づいたからだろう。
初と大蔵卿局(峯村リエ)ときり(長澤まさみ)の3人に対して、徳川側は阿茶局(斉藤由貴)ひとり。きりがカラダを張って、おとなしい初をフォローしたものの、大蔵卿局がまんまと阿茶に丸め込まれてしまい、
真田丸とお堀が潰されてしまう。
「そう致しましょう」
「そう致しましょう」
「そう致しましょう」
「埋めてしまいましょう」
「埋めてしまいましょう」
「埋めてしまいましょう」
この繰り返しにテレビの前でジリジリした。
大蔵卿局といい、片桐且元(小林隆)といい、なんでこんなことするんだよ〜と思うものの、絶対的な悪でもないので、怒りのぶつけどころに困る。
片桐なんて、大坂城の情報を家康(内野聖陽)に話して豊臣を不利にしてしまったことを悔み、「これより半年後、急死」とナレ死(有働由美子)されてしまうのでもうどうしようもない。大蔵卿局が強そうなのでサンドバッグになって頂くしかないだろう。
阿茶VSきり は、時代を現代に置き換えて、長澤まさみが紫式部、斉藤由貴が清少納言を演じた舞台「紫式部ダイアリー」(14年) を彷彿とさせる。
真田の心を語る
大坂の陣がはじまって、いよいよ真田幸村のターンと思って見ていて、実際、けっこう活躍しているのだが、相変わらず、解説係でもあるのが幸村だ。
家康の戦略を大蔵卿局や有楽斎(井上順)などに説明すると同時に、視聴者にも戦況を説明してくれている。
幸村の観察眼と洞察力が生かされたのは、前述の初を交渉に行かせたこと。46話の初と幸村の会話が、幸村と茶々との仲に関わることだけではなくて、ちゃんと生かされているところがさすがで、ちゃんと生かされているといえば、作兵衛(藤本隆宏)のエピソードも。
牢人たちが、幸村に不信感を抱きはじめ、作兵衛を呼び出す。幸村は命を預けるに足り得る人物か? と聞かれて
まず「知らぬ」と交わしつつ、真田安房守(草刈正雄)と同じく「義に厚い」と言う。
「安房守様は生涯をかけ武田の領地を取り戻そうとされていた。信玄公への忠義を死ぬまで忘れなかった。そのためにはどんな手でも使った。不肖のものの汚名も着た。源次郎さまはその血を受け継いでおられる。あの方は太閤殿下のご恩に報いるためにはなんでもする。そういうお方じゃ」
「真田丸」のすべてがここにあると言っても過言ではない。もうずう〜っと人の裏をかくことばかりしてきた真田家(主に昌幸)ではあるが、それも目的があってのこと。ひとえに武田信玄への忠義。その父と同じく幸村は、長年尽くした豊臣秀吉への忠義のために戦っている。
そのことを真面目な顔で語り終えた作兵衛は、すぐにいつもの朴訥な表情に戻る。
最も大切な事柄を、元々は農民で、いまだに畑を作っている実直な作兵衛に言わせたところに、「真田丸」の心を感じてならない。
追い詰められた豊臣軍だったが、みんなが幸村のもとに集まって、青春ドラマみたいに、わいわいする。
秀頼(中川大志)「望みを捨てぬ者だけに道は拓けるとそなたは言った」
幸村「はい」
秀頼「わたしはまだ捨ててはいない」
豊臣のピュアっぽさと家康のずるさの大きな違い!
最後の最後に来て、この青春展開には、SNSの盛り上がりも意識されているような気がしてならない。
(木俣冬)