完全に無意味な穴を掘るクラウドファンディング大成功、1000万円超をドブに捨てる

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(※ 人生の貴重な時間を無駄にするニュースコラムです)

不謹慎系カードゲームの Cards Against Humanity が、ホリデーシーズンにあわせた「ホリデーホール」掘削プロジェクトに10万ドル以上の資金を集め、何の役にも立たない大穴を完成させました。



読み進めても何ら教訓や納得に至らないと分かっていただいたうえで続けると、まず Cards Against Humanity (CAH)は「A party game for horrible people」、ひどい人間のためのパーティーゲームを自称するゲーム。非人道的カードゲーム、人道に反するカード、人倫に悖るゲームといったところでしょうか。

内容は親の出した質問カード(黒)に対して、他のプレーヤーが手札からブラックジョーク的な回答カード(白)を選び、もっとも面白かった組み合わせがポイント獲得、といったシンプルなもの。無意味な穴掘り企画とはほぼ関係ありません。

回答カードは人前で声に出して読むことが躊躇われるような単語やあるあるネタも多く、ランダムな質問カードによる意外な文脈もあわさって、時に不謹慎なおかしみが生まれます。

ゲームはともかく、「そもそも何のために資金を募って穴を?一体何の意味が?」については、よくある質問のトップに回答があります。

そのまま訳すと、

何事?

Cards Against Humanity は祝日穴を掘っています。

まじで?

残念ながら。

場所は?

アメリカ。そしてわたしたちの心のなかに。

何か深い意味や目的があるってこと?

いいえ。

金を出した見返りは?

穴が深くなります。他に何が?iPod?

チャリティに寄付すれば?

あなたが寄付すれば?あなたのお金です。

等々。

兎にも角にも、最初から何の意味もないと宣言して始まった企画は「5ドルにつき掘る時間を2〜3秒延長、金が続く限り掘り続ける」のルールで約10万ドル(現行で約1120万円)を集め、米国某所に無意味な大穴を穿ちました。少なくとも環境に悪影響はない、とFAQにあります。

掘られた穴についての詳細データは近日公開予定。

主催側は「意味は見た人の数だけあります」だの「アートです」とすら言っていないため、本当にこれだけのニュースです。

......だけではなんなのでもう少し続けると、この Cards Against Humanity はもともと2010年にキックスターターのクラウドファンディングで始まったゲーム。4000ドルのゴールに対して1万5000ドル程度を集めたことやブラックジョーク的な内容で話題を集め、各国語版やテーマごとの追加パック、著名クリエーターや組織とのコラボカードなどを発行する人気となっています。

出自がネットカルチャーとクラウドファンディングとあって、その後もブラックフライデーなど商戦期には世相風刺的なものから単に無意味なものまで、妙なプロモーションを打つことでも有名です。

たとえば2013年には、世間のセール時期だけ何故か値上げする「反セール」を実施したところ売上がガン上がり。翌年には文字どおりの「無意味なクソ」(英語ではBullshitなので牛糞、ただし消毒済み)入りボックスを出したら数万個売れてしまう、など。

昨年2015年にはさらにエスカレートして「何もなし」を5ドルで売ったところ7万ドル分売れてしまい、スタッフで山分けしたら結局ほぼ寄付に回った、ということがありました。何も買わない、Buying Nothing の " Nothing" を5ドルで売る......というしょうもない哲学的?ネタのようです。

こうした流れのうえでさらに悪乗りしたのか追いつめられたのか、2016年は集まったお金を寄付に回すことすらできない、純粋に無意味な穴掘りになりました。結果は上記のとおり、それでも10万ドル超を獲得しています。

このCAHは悪ふざけだけではなくまともなチャリティも実施しており、たとえば一般向け科学啓蒙本の著者とコラボした科学テーマの追加パックでは、STEM (科学・技術・工学・数学)分野に進む女性のための奨学金に50万ドル以上を寄付しています。

このほか、「届いてのお楽しみ」ハヌカーギフト企画の購入者15万人に対して、貴重なピカソのサイン入り版画を購入して「レーザーカッターで15万個に切り出して全員に送る」か「美術館に寄付する」かを選ばせるなど(7対3で寄付派が勝利)。

要はパーティーゲーム販売を本業に、ネットの強みを活かしたトンチキなプロモやチャリティ企画で集めた注目をビジネスにする人たちです。今回の穴掘り企画も、チャリティについては「自分でやれ」と予防線を張りつつ、実は余ったのでどこどこに寄付します、というオチがないとも言い切れません。

無理やりまとめるとすれば、ネットの発達によってあらゆるトランザクションコストが減り、情報そしてお金の流れが脳内のシナプス間伝達に限りなく近づきつつあることで、従来のビジネス構造では日の目を見なかった優れたアイデアや崇高な目的がクラウドファンディングで世の中を変えることもあれば、心の中だけだったかもしれない悪意が集まり膨れ上がり人を追い詰めることも、鼻で笑う程度の悪ふざけが地面に大穴を穿つこともできる時代になった、といったところでしょうか。

2016年現在では「鼻で笑う」や「イラッとする」から「支払いをクリック」にはまだ多少のギャップがありますが、再生ボタンやいいねボタンの注目がそのまま力になり大金になる程度には脳内と外界が近づいてきました。いずれ、あの時代はまだあの程度の浅い穴で済んでいたんだな、と振り返る時代が来るかもしれません。

なお Cards Against Humanity は紙のカードやさまざまな追加パックを有料販売する一方、メインの質問・回答カードセットはPDFファイルをクリエイティブ・コモンズのBY-NC-SA 2.0 で無償配布しています。(簡単にいうと、勝手カード追加も翻訳も二次創作も再配布も自由、でも営利で使うのはだめ、再配布するときは同じ条件に従うこと、という条件)。