「逃げ恥」平匡さんと並ぶ童貞キャラ、馬締「舟を編む」今夜6話
三浦しをんのベストセラーをアニメ化した『舟を編む』。出版社の辞書編集部で働く人たちの奮闘を描く物語だ。ゆっくり、ゆっくりした進み具合が、秋の夜長にぴったり合う。
先週放送の第5話は「揺蕩う」。「たゆたう」と読むこの言葉の語釈は、「ゆらゆらとゆれる」。例文は「行き場を見失った心は、大海を――小舟のようであった」だ。
真面目一筋、恋愛経験(たぶん)ゼロ、今シーズンのすべてのドラマ・アニメの中で『逃げ恥』の平匡さんと一、二を争う童貞キャラ、馬締(まじめ)光也(演:櫻井孝宏)が、同じアパートに引っ越してきた美女・林香具矢に恋してしまい、恋文をしたためたのが第4話のエンディング。だから、馬締が煩悶しつつ「揺蕩う」のかと思ったら、第5話で「揺蕩う」のは、辞書編集部の同僚・西岡(演:神谷浩史)のほうだった。
局長から西岡に言い渡された辞書『大渡海』編纂続行の条件、それは『玄武学習国語辞典』の改訂と、西岡自身の宣伝部への異動だった。
西岡にとっては、馬締というパートナーを得て、やっと辞書づくりが楽しくなってきた頃。『大渡海』続行のために、上層部の意向を無視して大々的に原稿依頼を行った西岡に対する懲罰的な意味合いもある人事異動だ。
原作では、この話を聞かされるのは辞書編集部を長年仕切ってきて、現在は嘱託になった荒木(演:金尾哲夫)だったが、アニメでは西岡が直接言われることに変更されている。アニメ版が馬締と西岡の2人に焦点を当てているということの表れである。
あからさまに動揺する西岡だが、カメラはその表情を追わない。一人取り残された会議室のロングカットでは表情は見えず、辞書編集部に戻ってきたときも表情は見えない。荒木に促されて何かを言おうとして言えないというカットも、目のまわりは写さない。直接的な表現を避けるこのアニメらしい演出だ。
5話のクライマックスは2つある。まずは、恋文のアドバイスを求められた西岡が馬締に向き合ってアドバイスを送るシーン。
「お前さ、もうちょっと自信持っていいよ。馬締ぐらい真面目にやってれば、きっと何もかもうまくいく。俺もできる限り協力してやるからさ」
求められていたのは恋についてのアドバイスだが、西岡は今後の仕事について重ねて語っている。「俺もできる限り協力してやるからさ」という言葉も、恋についての協力と仕事についての協力のダブルミーニングなのだが、「できる限り」という部分に、異動してしまう自分の境遇を込めている。
また、それまでの軽い調子とは微妙にニュアンスを変えて言おうとしていることを示すために、わざわざ足のスタンスをやや狭めるカットが挿入されている(「休め」の状態から、馬締の方向につま先を揃えている)。反面、話のポイントになるところでは、やはり西岡の表情は映さない。俯瞰のカット、はっとする馬締のカット、国語辞典のカット、西岡の口のまわりのカットが積み重ねられていく。また、この言葉を伝えられた馬締のリアクションも表情を映さない。持っている恋文をギュッと握るだけだ。この慎ましさというか、回りくどさがアニメ『舟を編む』の特徴だと思う。
もう一つのクライマックスは、酔って帰ってきた西岡が、心配して待っていた三好麗美(演:斎藤千和)に覆い被さって決意を語るシーン。それを聞いた麗美は、安心したように目をつぶり、何も言わずに西岡の背中をポンポンと叩く。麗美の母性と愛情、西岡への励ましが込められたポンポンだ。こういうポンポンに男は弱い。女性への文脈のない頭ポンポンは忌み嫌われるので要注意。
原作では不細工だけど西岡とは気が合うセックスフレンドという役柄だった麗美だが、映画版、アニメ版はいい役を与えられている。
それにしても、『舟を編む』は仕草アニメだと思う。セリフがないカットにも細かい仕草が多く、その中のいくつかに意味が込められている。全部の仕草に意味があるわけではないのは現実と同じだ。
本日放送の第6話は、いよいよ馬締の恋が進展するぞ。平匡に負けるな!
(大山くまお)
先週放送の第5話は「揺蕩う」。「たゆたう」と読むこの言葉の語釈は、「ゆらゆらとゆれる」。例文は「行き場を見失った心は、大海を――小舟のようであった」だ。
真面目一筋、恋愛経験(たぶん)ゼロ、今シーズンのすべてのドラマ・アニメの中で『逃げ恥』の平匡さんと一、二を争う童貞キャラ、馬締(まじめ)光也(演:櫻井孝宏)が、同じアパートに引っ越してきた美女・林香具矢に恋してしまい、恋文をしたためたのが第4話のエンディング。だから、馬締が煩悶しつつ「揺蕩う」のかと思ったら、第5話で「揺蕩う」のは、辞書編集部の同僚・西岡(演:神谷浩史)のほうだった。
『舟を編む』は仕草アニメ
局長から西岡に言い渡された辞書『大渡海』編纂続行の条件、それは『玄武学習国語辞典』の改訂と、西岡自身の宣伝部への異動だった。
西岡にとっては、馬締というパートナーを得て、やっと辞書づくりが楽しくなってきた頃。『大渡海』続行のために、上層部の意向を無視して大々的に原稿依頼を行った西岡に対する懲罰的な意味合いもある人事異動だ。
原作では、この話を聞かされるのは辞書編集部を長年仕切ってきて、現在は嘱託になった荒木(演:金尾哲夫)だったが、アニメでは西岡が直接言われることに変更されている。アニメ版が馬締と西岡の2人に焦点を当てているということの表れである。
あからさまに動揺する西岡だが、カメラはその表情を追わない。一人取り残された会議室のロングカットでは表情は見えず、辞書編集部に戻ってきたときも表情は見えない。荒木に促されて何かを言おうとして言えないというカットも、目のまわりは写さない。直接的な表現を避けるこのアニメらしい演出だ。
5話のクライマックスは2つある。まずは、恋文のアドバイスを求められた西岡が馬締に向き合ってアドバイスを送るシーン。
「お前さ、もうちょっと自信持っていいよ。馬締ぐらい真面目にやってれば、きっと何もかもうまくいく。俺もできる限り協力してやるからさ」
求められていたのは恋についてのアドバイスだが、西岡は今後の仕事について重ねて語っている。「俺もできる限り協力してやるからさ」という言葉も、恋についての協力と仕事についての協力のダブルミーニングなのだが、「できる限り」という部分に、異動してしまう自分の境遇を込めている。
また、それまでの軽い調子とは微妙にニュアンスを変えて言おうとしていることを示すために、わざわざ足のスタンスをやや狭めるカットが挿入されている(「休め」の状態から、馬締の方向につま先を揃えている)。反面、話のポイントになるところでは、やはり西岡の表情は映さない。俯瞰のカット、はっとする馬締のカット、国語辞典のカット、西岡の口のまわりのカットが積み重ねられていく。また、この言葉を伝えられた馬締のリアクションも表情を映さない。持っている恋文をギュッと握るだけだ。この慎ましさというか、回りくどさがアニメ『舟を編む』の特徴だと思う。
もう一つのクライマックスは、酔って帰ってきた西岡が、心配して待っていた三好麗美(演:斎藤千和)に覆い被さって決意を語るシーン。それを聞いた麗美は、安心したように目をつぶり、何も言わずに西岡の背中をポンポンと叩く。麗美の母性と愛情、西岡への励ましが込められたポンポンだ。こういうポンポンに男は弱い。女性への文脈のない頭ポンポンは忌み嫌われるので要注意。
原作では不細工だけど西岡とは気が合うセックスフレンドという役柄だった麗美だが、映画版、アニメ版はいい役を与えられている。
それにしても、『舟を編む』は仕草アニメだと思う。セリフがないカットにも細かい仕草が多く、その中のいくつかに意味が込められている。全部の仕草に意味があるわけではないのは現実と同じだ。
本日放送の第6話は、いよいよ馬締の恋が進展するぞ。平匡に負けるな!
(大山くまお)