「べっぴんさん」32話。危機回避能力がすごい
連続テレビ小説「べっぴんさん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第6週「笑顔をもう一度」第32回 11月8日(火)放送より。
脚本:渡辺千穂 演出: 新田真三
夫・昭一(平岡祐太)を説得し、仕事に復帰した君枝(土村芳)だったが、体調を壊し入院してしまう。
繊細。なんて繊細なドラマなんだ。
ドラマのおわり「ほんまにこれでええの?」と明美に言われたときの君枝(土村芳)の潤んだ瞳の美しさ!
少女漫画のようだ。
32回は、すみれ以上に、身体的にも繊細な君枝のターン。
一度は夫に話をして職場復帰。お店で仕事を再開しながら、夫との慣れそめをすみれや明美に話して聞かせる。
すみれの台詞「君ちゃんのとこは恋愛結婚なんです、すごいでしょう」の「すごいでしょう」に、恋愛結婚がこの時代、いかに希少価値だったかを痛感させる。
旦那さまは基本、君枝が好きで、彼女と一緒にいたいのと(長いこと戦争に行っていたわけだし)、なにより彼女が心配なのだろう。平岡祐太がまた少女漫画の男の子ぽいから、このうえもなく絵になる美男美女カップル。素敵過ぎる。
愛される君枝を、明美も思わず「うらやましいわ」とつぶやいてしまう。
明美が素直になった微笑ましいシーンではあるが、ちょっぴり胸が痛くなるシーンでもある。
どんなに仲良くてもどんなに共通の目標があっても他人の幸せがうらやましく思えてしまう感情はあるもので、その嫉妬が過剰になっていくと、ナレーション(であり亡くなったお母さん役)の菅野美穂が現在主演している、タワーマンションに住む主婦たちの格付け合戦に震える「砂の塔〜知りすぎた隣人」(TBS金10時)や、過去に渡辺千穂が書いたファッション業界の野望と羨望が渦巻くマウンティングの話「ファースト・クラス」などになっていく。
これはこれで、好きな人も多いパターンだが、さすがに「べっぴんさん」では女のドロドロにはならない。むしろ、麗子(いちえ)みたいなやたらと明るいいい人を描き、世の中捨てたものじゃない感を出してくる。
結局、無理がたたって入院した君枝は、再三に渡り、子供の頃からかなり病弱であることを語る。
「戦時中は気を張っていたのかな」と言う台詞を入れることで、女学校時代、そこまで弱そうに見えなかったと言う視聴者の小姑ツッコミをやんわり回避して見せる。
このように「べっぴんさん」の脚本には、危機を回避しようとする意思をそこはかとなく感じてならない。
戦争の後遺症に向き合おうとしているし、豊かな人、貧しい人、夫が帰って来たひと、来ないひと、いろんな立場のひとがいることに気を使いつつ、恵まれている人に対しては明美の毒舌で視聴者をガス抜き。
SNSの発展により多様な意見が一気に可視化されるうえ、コンプライアンスだBPOだとがんじがらめで、いろいろ配慮しないとならない時代、つくり手は大変だなと思う。
用心深い気配が、ドラマを大人しく見せてしまうのかもしれず、でもこの四方八方への気配りが、非力なすみれたちにぴったり。強い人は周囲を蹴散らして前進できるけれど、弱い者は周囲に気を使っていかないと。「借りぐらしのアリエッティ」の主人公たちのように借り主に気を使っているふうがいい感じ。
戦争のことを思い出し、勝つと信じていた母国・日本が負けてしまって抜け殻になったところ、すみれに希望をもらったと言いながらも、夫に心配されて、やっぱり仕事を辞めることにする君枝。
「頑張って、早う元気になってね」とすみれ。
「ほんまにこれでええの?」と明美。
同世代の女の子が4人いると、いろんな観点が描けていい。すみれの想いも本当だし、明美の指摘も間違ってない。
どうする君枝。サブタイトル「笑顔をもう一度」はいつ来るのか!
(木俣冬)
脚本:渡辺千穂 演出: 新田真三
32回はこんな話
夫・昭一(平岡祐太)を説得し、仕事に復帰した君枝(土村芳)だったが、体調を壊し入院してしまう。
羨ましいカップル
繊細。なんて繊細なドラマなんだ。
ドラマのおわり「ほんまにこれでええの?」と明美に言われたときの君枝(土村芳)の潤んだ瞳の美しさ!
少女漫画のようだ。
32回は、すみれ以上に、身体的にも繊細な君枝のターン。
一度は夫に話をして職場復帰。お店で仕事を再開しながら、夫との慣れそめをすみれや明美に話して聞かせる。
すみれの台詞「君ちゃんのとこは恋愛結婚なんです、すごいでしょう」の「すごいでしょう」に、恋愛結婚がこの時代、いかに希少価値だったかを痛感させる。
愛される君枝を、明美も思わず「うらやましいわ」とつぶやいてしまう。
明美が素直になった微笑ましいシーンではあるが、ちょっぴり胸が痛くなるシーンでもある。
どんなに仲良くてもどんなに共通の目標があっても他人の幸せがうらやましく思えてしまう感情はあるもので、その嫉妬が過剰になっていくと、ナレーション(であり亡くなったお母さん役)の菅野美穂が現在主演している、タワーマンションに住む主婦たちの格付け合戦に震える「砂の塔〜知りすぎた隣人」(TBS金10時)や、過去に渡辺千穂が書いたファッション業界の野望と羨望が渦巻くマウンティングの話「ファースト・クラス」などになっていく。
これはこれで、好きな人も多いパターンだが、さすがに「べっぴんさん」では女のドロドロにはならない。むしろ、麗子(いちえ)みたいなやたらと明るいいい人を描き、世の中捨てたものじゃない感を出してくる。
「べっぴんさん」の危機回避能力
結局、無理がたたって入院した君枝は、再三に渡り、子供の頃からかなり病弱であることを語る。
「戦時中は気を張っていたのかな」と言う台詞を入れることで、女学校時代、そこまで弱そうに見えなかったと言う視聴者の小姑ツッコミをやんわり回避して見せる。
このように「べっぴんさん」の脚本には、危機を回避しようとする意思をそこはかとなく感じてならない。
戦争の後遺症に向き合おうとしているし、豊かな人、貧しい人、夫が帰って来たひと、来ないひと、いろんな立場のひとがいることに気を使いつつ、恵まれている人に対しては明美の毒舌で視聴者をガス抜き。
SNSの発展により多様な意見が一気に可視化されるうえ、コンプライアンスだBPOだとがんじがらめで、いろいろ配慮しないとならない時代、つくり手は大変だなと思う。
用心深い気配が、ドラマを大人しく見せてしまうのかもしれず、でもこの四方八方への気配りが、非力なすみれたちにぴったり。強い人は周囲を蹴散らして前進できるけれど、弱い者は周囲に気を使っていかないと。「借りぐらしのアリエッティ」の主人公たちのように借り主に気を使っているふうがいい感じ。
ほんまにええの?
戦争のことを思い出し、勝つと信じていた母国・日本が負けてしまって抜け殻になったところ、すみれに希望をもらったと言いながらも、夫に心配されて、やっぱり仕事を辞めることにする君枝。
「頑張って、早う元気になってね」とすみれ。
「ほんまにこれでええの?」と明美。
同世代の女の子が4人いると、いろんな観点が描けていい。すみれの想いも本当だし、明美の指摘も間違ってない。
どうする君枝。サブタイトル「笑顔をもう一度」はいつ来るのか!
(木俣冬)