進む「スマートダスト」研究、小型化するセンサーが人類にもたらす影響の大きさ
体内から監視する「ニューラルダスト」
「スマートダスト」と聞くとなにやらSFのような感じを受けると思うが、これはSFではなく現実だ。カリフォルニア大学バークレー校の科学者たちは「ニューラルダスト」なるものを開発している。これは体内に仕込むことで内部の神経や筋肉、内臓をリアルタイムでモニターするものである。
ニューラルダストのサイズは大きめの砂粒くらいのもので、体外から照射される超音波振動を電力に変える〈ピエゾ素子〉を備えたトランジスタであり、神経や筋肉繊維に直接取り付けることができる。繊維の電位の変動により、ピエゾ素子の振動が変わることで、超音波レシーバーへの反響が変わる。後方散乱と呼ばれるこのわずかな振動は、電圧の変化を読み取ることができるのだ。
この研究は将来、人口装置のコントロールやロボティクスのために、脳と機械を結びつける装置(ブレイン・マシン・インターフェイス)への応用や「電気薬学」と呼ばれる新たなバイオ産業に利用されることになるだろう。
「『ニューラルダストプロジェクト』のもともとの目的は、次世代の脳とマシンのインターフェースについて推測し、これを実用的な医療技術にすることである。たとえば、半身不随者がロボットアームかPCを動かしたいと考えた場合、この電極を一度脳に埋め込めば実現できるようになる」と、神経科学で大学院に在籍するリアン・ニーリー氏は語る。
現在ある埋め込み可能な電極は、1-2年で劣化してしまい、さらにワイヤレスでないため頭蓋骨に穴を開ける必要がある。この代わりにワイヤレスセンサーを埋め込むことができれば、電極の位置がずれることや感染症を防ぐこともできるようになるだろう。
スマートダストはIoT創造性の究極の形か
新たに登場する技術についてGartner がおこなっているリサーチによれば、スマートダストは向こう5-10年内にトレンドを迎えると予想されている。研究施設では 1990年代後半から取り組まれている分野であり、彼らの研究は アメリカ国防高等研究計画局(DARPA) からも「革命的な小型化・統合化・エネルギーマネジメント」を伴うことから、軍への応用を目的とした支援を受けている。
2003年に遡るが、研究者たちは光から振動まで検知できる極小のワイヤレスセンサー(MEMS)としてスマートダストの応用に取り組んでいた。商業向け用途として考えられていたときは、都市の渋滞地点での交通センサーや家庭の電化製品が効率的に動いていることをモニターする電力消費センサーとしての研究が進められていたが、科学の進歩によりスマートダストはよくあるセンサー技術の応用から「組み込み型ウェアラブルデバイス」としての道を歩み出す。
これに関連して、神経科学者であるジョセ・カルメナ氏は次のように言う。
「いまやセンサーは末端神経系に使えるできるほど小さくなっており、膀胱のコントロールや食欲の抑制などに利用することが考えられる。脳内や中央神経系に使える50ミクロンにまで小さくするほど技術は進んでいないが、臨床的に証明されれば、ニューラルダストは現在のワイヤ付き電極に取って代わるものとなり、一度脳に埋め込んでしまえばそれで済むようになる。」
同チームはデバイスのさらなる小型化やより生体適合性に優れた素材、超音波の送受信に使われるトランシーバの改良に取り組んでおり、さらには無線誘導技術を使って音波を個々のダストに集中させることを狙っている。現在、彼らはそれをラットに取り付け、埋め込まれたダストからのデータを記録するためのバックパックを開発しているところだ。
化学物質を検知できるセンサーも
彼らはスマートダストを使い、酸素やホルモンレベルの非電気信号を検知する能力を拡大するという試みにも取り組んでいる。
「考えていることは、ニューラルダストを体のいたる所に埋め込み、その箇所に超音波を送るパッチをあてることでダストからの情報を受信するといったものだ。最終的には、体に埋め込まれた複数のダストから1つのパッチを通して個別に、または、すべてから同時に情報を吸い上げるような形になるだろう」と、電気および情報工学の院生 ドンジン・セオ氏は言う。
ニューラルダストが一般的なものになるうえで最大の障壁は、おそらく手術移植が必要になるという点だろう。将来、ニューラルダストを嚥下か吸引で取り込むことはできるようになるのだろうか? 我々の消化器官のつくりを考えるとなかなか考えにくいことだが、面白いアイデアではある。
遅かれ早かれセンサーはより小さくなっていき、中央神経や脳内にこれらが入るようになれば、ある健康上の問題を抱えている人たちにとって生活が変わるような影響を与えることになる。まだ少々先の話だが、これまでの研究成果からいっていずれは現実となることだろう。
ReadWrite[日本版] 編集部
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