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最近、話題となっている人工知能(AI)。カラフル・ボード株式会社は、ファッション業界にAIを取り入れようとしている会社だ。それだけではなく、ファッションを皮切りに、ライフスタイル全体をサポートする「AIパーソナル・アシスタント」を普及させる、というビジョンを掲げている。今回は、そんなカラフル・ボード株式会社CTOの武部 雄一(たけべ・ゆういち)氏に話を伺った。

- まず、現在取り組んでいるプロジェクトや製品について教えてください。


◇カラフル・ボード株式会社 取締役CTO 武部 雄一(たけべ・ゆういち)氏

武部氏:当社では、AIを活用したファッション分野のスマートフォンアプリケーションをはじめ、さまざまなAI活用プロジェクトに取り組んでいます。私自身そのほとんどに何らかの形で関わっていますが、特に現在は、ファッション領域の新サービス『SENSY CLOSET』の事業責任者 兼 プロダクトマネージャとして、サービスの企画、設計、開発、マーケティング、セールスをリードしています。

このSENSY CLOSETは、「自分の服」と「お店の洋服」を自由にコーディネートし、AIから自分に合ったコーディネート提案を受けられるサービスで、ECサイトへの提供開始を7月6日に発表しました。

- “AIを活用している”という点で、多くのメディアに取り上げられていますよね。

武部氏:ありがたいことに。一般ユーザ向けにSENSYをリリースした2014年11月頃は、現在のように深層学習などの新しいAI技術への注目度は高くなかったので、カラフル・ボードはいち早くAI活用サービスにおいて先駆者として活動していたといえるかもしれません。

その後、AI技術の可能性に注目している企業の方々と一緒になって、「こんなことができるんじゃないか?」と意見を出し合いながらやってきました。結果、さまざまな企業の方々と一緒にAI関連プロジェクトを進めることができています。

 

大炎上プロジェクト、諦めない粘り強さで信頼関係を構築

- 話は変わりますが、そもそもITエンジニアになりたいと思ったキッカケは何ですか?

武部氏:高校生の頃にプログラミングの授業があったのですが、その授業を受けてすぐに自分は得意なんだな、と気付きました。もともと天職だと思います(笑)

しかし、社会人としてエンジニアになってみると、本当に仕事ができなくてはじめの頃は挫折ばかりでした。先輩方からかなり叱られましたし、クライアントからは「武部はいなくてもいいだろう」といわれていたこともあります。

そんななか、私を見捨てることなく粘り強く教え続けてくれた先輩エンジニアがいて。それが唯一の支えでした。落ち込み、つらい時期も多くありましたが、それから2年、気付けば重要なプロジェクトにリーダーとして入る機会が増えていました。

- 入った当初に大変苦労されたというお話でしたが、印象に残っているプロジェクトなどありますか?

武部氏:多くのプログラマやSEが集められた、とある政策金融機関の巨大プロジェクトが印象に残ってますね。というのも、あと半年でローンチするというのに、システムが全然動かない。設計のレベルで問題があったり、それ以前に組織間の連携に問題があったり、いわゆる大炎上プロジェクトでした。

巻き込まれないように離脱するエンジニアも多数出てきて、最終的には担当プロジェクトのリーダーさえも来なくなってしまって・・・発注側も怒り狂っているなか、僕はプロジェクトを絶対に完成させると決めて、残っているメンバーとともに団結してひとつひとつ課題を解決していきました。

こうして粘り強く対応していくうちにサバイバル能力が身についた気がします(笑)。チームでは一番年下でしたが、問題解決を図っていくうちに信頼関係が深まり、いつの間にかチームの開発をリードする立場になっていました。僕が主体的に取り組むことで周りからも信頼を得られたのではないかと思います。

 

モチベートには「とんでもなく価値のあるすごい目標」が最重要


◇AIを活用したファッションコーディネートサービス『SENSY CLOSET』

- カラフル・ボードに入社してから、やりがいを感じた出来事について教えてください。

武部氏:今年の春頃、IBM Watson(ワトソン)エコシステムプログラムの初期エコシステムパートナーに選ばれ、会社を挙げてプレゼンをする機会があったんですが、とてもやりがいがありましたね。そのとき、CEOの渡辺と「やるからにはただのプレゼンではなく、パートナーとして選ばれた企業5社の中で一番いいデモをして、インパクトを残す」という目標を掲げました。

すぐにチームで相談し、「実際に動作するスマートフォンアプリケーションを作る」と決めて。大急ぎでデモアプリの機能と操作シナリオをまとめ、ワトソンのAPIの仕様を理解し、実装を試し、実質2週間ぐらいで作りました。結果的に、プレゼンテーションは成功だったと思います。特に、僕たちをしっかり取り上げてくれたメディアがあり、記事を読んでチームみんなで喜びました。

- やりがいを感じる瞬間は、大きな課題を解決することができる瞬間ということですかね。

武部氏:そうですね。現在のあるプロダクト開発の流れは、アイデア出し、リサーチ、UIの設計、プロトタイプの開発、そしてアプリケーションの開発といったものですが、その仮定を進めていくなかで容易には解決できない、困難な課題がいくつも出てきます。

それに対して、解決策や納得できる落としどころを見つけ、類似のサービスやアプリケーションではまったく実現できない非常に高度な解決ができると、たまらなく嬉しいですね。一日も早くこのプロダクトをローンチし、たくさんの人に使ってもらいたい、というのが、いま一番のモチベーションになっていますね。

- ちなみに、CTOという立場とのことですが、チームメンバーをモチベートするために意識されていることはありますか?

武部氏:じつは、メンバーのモチベーションを上げるために何かを意識してふるまったり策を用意するのが不得手なタイプです。チームのモチベーションを上げるためにいかにも用意しましたという白々しい策が嫌で(笑)

必要だと思うのは、まずシンプルに“チームみんなのさまざまな課題やストレスと向き合って解決する”ことで、清々しく仕事に向き合えるようにすることだと思っています。そして、「とんでもなく価値のあるすごいゴールを描く」ということが最重要かなと。向かっているゴールに大きな価値が待っているのであれば、関わるみんなのモチベーションは自然と湧き上がってくるものだと思っています。

 

「居心地のいいカフェ」ランキングは生産性向上のため

- 頻繁にコミュニケーションを取られているんですね。

武部氏:そうですね。毎朝ショートにスタンディングミーティング。そして、週に数回は、みんなで一緒にランチに行っています。さらに、毎週水曜日の午後はチームみんなで外に出て、カフェなどでコミュニケーションを取りながら集中して仕事をする、という場を作っています。

渋谷のカフェは9割がた行きつくしてしまって(笑)。行った後のまとめも大事だと考えているので、お店について、良かったこと悪かったことを記録しています。さらに、マーカーを置いた地図を作ったり、行ってよかったお店に投票してみんなでランキングを作ったりしています。

- 自社内食べログみたいですね。どんどんデータが蓄積していきますね。

武部氏:クリエイティブワークにおいては、パフォーマンスを最大化できる居心地のいい環境が大事です。カフェの場合は、電源やWi-Fi、喫煙の有無やBGMのボリュームなどさまざまな要素がありますが、それら全部を記録しながら自分たちのお気に入り場所を見つけようとしています。美味しいカフェランチをみんなで食べて、プロダクトや組織についての深いディスカッションをし、特に難しい課題を水曜日に一気に解決しています。

- とてもユニークな取り組みですね。

武部氏:カラフル・ボードのような小さな会社には、複雑な承認プロセスはないので。誰かがアイデアを出し、突飛でもなんでも「それいいね!」となればまずは試してみる、ということができますね。

コミュニケーションといえばもう一点、経営者と従業員で仕事のレイヤーが違うという状態にしないため、モノづくりの担当パートに自分をアサインするようにしています。1つのプロジェクトをまるごと自分にアサインして、プロジェクトマネジメント、設計、実装のすべてを担当することもあります。これは今後もずっと続けていきたいと考えている、私のスタンスです。

- さいごに、今後の展望を教えていただけますか?

武部氏:事業の観点では三点。一つ目は、7月6日に発表したSENSY CLOSETサービスを、ファッションに関心や関わりがある世界中の方に支持されるサービスに育てていくことです。このサービスの拡がりにはとても期待しています。二つ目は、「一人一台パーソナルAIを持つ時代」をつくるために、AIプラットフォームを形にして提供できる仕組みを整えてゆくこと。

三つ目は、ファッション以外の領域におけるサービス拡大です。7月4日に、食分野に進出を開始したことを発表しましたが、さまざまな企業様から連絡があり、興味を持っていただけていることを実感しています。食分野においても、「AIを活用した新しいユーザ体験」を提供したいと考えています。

個人の観点では、ランニングを頑張りたいですね(笑)。目標は、今年の秋シーズンでフルマラソンサブ4、つまり4時間切りです。これは楽々クリアするとして、その先、サブ3.5を見据えて走りたいと思います!

- ありがとうございました。

プロダクト開発に集中できる日を決めることで、パフォーマンスを最大化させる取り組みをしているカラフル・ボード株式会社。密なコミュニケーションと大きな目標、シンプルな社風、それらが新たな挑戦を生み出せる環境を作り出しているのだろう。ファッション領域や食分野だけではなく、あらゆる分野でAIを活用した新しい形のサービスを社会に届けたいという彼らの取り組みに今後も注目したい。

 


今回取材した方

カラフル・ボード株式会社 取締役CTO
武部 雄一(たけべ・ゆういち)氏

2007年〜2016年1月まで、DeNAにてエンジニアリングマネージャ、人事などを経験の後、2016年2月にカラフル・ボードへ入社。執行役員を経て、2016年5月に取締役就任。
現在はプロダクトマネージャ、ソフトウェアエンジニア、事業責任者、経営陣という四役を同時に担う。フルマラソンのタイムは、現在4時間36分。

ReadWrite[日本版] 編集部
[原文4]