「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「鳥」。春から夏へ、子育ての環境が整う島国・日本をめざして、夏鳥が渡ってくる季節です。今回は「鳥」に込められた物語を紹介します。



「鳥」という漢字は、鳥が羽をたたんでたたずむ姿を描いた象形文字。

古代文字で書かれた「鳥」は、大きな羽と長い尾をもち、凛と立っているよう。

鳥は、世界各地で古くから信仰の対象とされてきました。

白川文字学でおなじみの白川静氏は、その起源を鳥の「渡り」と考えます。

渡り鳥は時期を決めて一斉に特定のところへ行き、再びやってくる。

それを、自分たちの祖先が死後にどこかへ行き、鳥になって故郷へ戻って来る様子としてとらえていたというのです。

いにしえの人々にとって、鳥は死者の霊を運ぶもの。

風にのり、丘を越えてやってくる神の使いでもありました。

さまざまな工夫をこらして作り上げた木の上のすみかを、小さな花や色鮮やかな羽で飾りたてて彩りを添える。

動けなくなった仲間をつがいで支え、動物や人間の目が届かない安全な場所まで運ぶ。

互いのさえずりに耳を傾け、ときに声をあわせて高らかに歌う。

鳥を媒介にして霊的な世界とつながりながら、地上での暮らしぶりを冷静に観察してきた、いにしえの人々。

彼らはそこに理想の生き方を見出して、鳥たちを特別な存在として扱い、崇めるようになったのでした。

ではここで、もう一度「鳥」という字を感じてみてください。

さまざまな分野の研究者たちの注意深い観察により、鳥たちが柔軟な知性や人類以上の能力をもつことがわかってきました。

自然界の現象を解析するだけで、望むところへ渡る。

道具など使わず食物を調達し、知恵をしぼって子を生み育てる。

他者への思いやりをもち、美しいものを好み、歌を愛し、野に遊ぶ。

それは、合理性や便利さを求める余り人類が失った「人間性」そのもの。

いにしえの人々はその事実に気づき、鳥たちへの共感と畏敬の念を文字に刻んで私たちに残しました。

漢字のなりたちをひもとくことは、自らの暮らしを省みること。

人間だけが世界を動かしているという思いあがりにも気づかせてくれます。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)

『もの思う鳥たち―鳥類の知られざる人間性』(セオドア・ゼノフォン・バーバー/著、笠原敏雄/訳 日本教文社 いのちと環境ライブラリー)

『呪の思想 神と人との間』(白川静、梅原猛/著 平凡社ライブラリー)

5月14日の放送では「薫」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。

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<番組概要>

番組名:「感じて、漢字の世界」

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/