これが未来の睡眠!? 京大博物館に展示中の「人類進化ベッド」
人間は平均で1日6〜7時間を睡眠に費やし、一生の3分の1はベッドの上で過ごすという。だが、その平均時間を大きく底上げしかねない新しいベッドが京都大学総合博物館に展示されている。「人類進化ベッド」と名付けられたそれは、いったいどのようなベッドなのだろうか? 実際に問い合わせ、いろいろな話を伺った。
着想はチンパンジーから
まずはこちらの画像を見ていただきたい。一見すると円形の大きなソファーのようだが、これこそが、様々な工夫が施された「人類進化ベッド」だ。
人類進化ベッド
まず、足がゆりかごのようになっている点が普通のベッドとは大きく異なる点だ。ひっくり返らないような安定感のある作りでありながら、心地よい揺れを感じさせる。
また、表面を覆う丸いクッションのフチの部分は、少し固めになっている。どのような姿勢で寝ても枕として使えるように、という意図でのデザインだ。クッションのくぼんだ部分の下はハンモック状になっていて、体を包み込むように柔軟に変化するなど、今までのベッドとは一味違う心地よさがあるという。
普通のベッドとは一線を画すこのベッドは、チンパンジーのベッドから着想を得て作られたもので、製作には様々な研究者と京都の布団メーカー、工業デザイナーが関わっている。
製作のきっかけとなったのは、京都大学で霊長類を研究している座馬耕一郎さんの言葉だった。チンパンジーの抜け毛などを拾うためにチンパンジーのベッドに登ったとき、なんとなく横になってみたところ、予想外の寝心地の良さに驚いた経験があるという。
こうして、座間さんが「いままでで1番かもしれない」とも語るチンパンジーのベッドから着想を得て、人類が持つ様々な技術を反映させて作られた。
実際に使ってみた来場者からも非常に好評だという。京都大学は霊長類研究が盛んな大学で、このベッドもその成果の1つ、と言えるかもしれない。
古今東西、更には種も超えた寝具の要素を結集させた「人類進化ベッド」は、未来の睡眠のスタンダードとなるポテンシャルがありそうだ。
このユニークなベッドが展示されているのが、京都大学総合博物館にて開催されている「ねむり展 眠れるものの文化誌」だ。2016年4月6日から6月26日までの期間限定の展示となる。
ゆりかごの展示コーナー
NPO法人睡眠文化研究会と京都大学総合博物館による特別展で、Jタウンネットは、実行委員長であり睡眠文化研究会理事もつとめる京都大学教授の重田眞義さんに話を伺った。
重田さんは、「人類進化ベッド」に関して、
「人類と共通の祖先をもつチンパンジーが、あんなにもいい寝床を作り上げています。これを参考に、より良く、新しい、未来志向のベッドという意味を持たせました。将来的には商品化して、いろんな人に使ってもらえればとも思っています」
と語った。
また、「ねむり展」は、講義の成果を発表する場でもあるという。
「京都大学には全学生が受けられる睡眠文化論という講義がありまして、その中では様々な分野で活躍する研究者をゲストとして招いてお話をしてもらっています。講義の中で蓄積された成果をまとめ、一般の方にも知らせたい、ということで企画しました」
睡眠文化論は、毎年定員を大幅に超える申し込みが殺到するほどの京都大学が誇る人気講義だ。睡眠を「文化的」という側面から研究することで、睡眠が持つ多様性が見えてくるという。
展示コーナーの様子
「展示品には、そういった多様性を示すようなものをコーナーが多数あります。文化と時代の違いによる睡眠の違いを見て、睡眠の変化・進化を感じてもらいたいです」
例えば、現代の生活では欠かせないものとなった、目覚まし時計に代表される「起こす装置」についてのコーナーでは、「自動起床装置」という聞きなれないものが展示されている。
「自動起床装置」はJRが国鉄時代から使っているもので、音や光で起こすものとは違った方式で起床を促すことができる。頭や肩の下に敷いて眠り、セットされた時間が来ると自動で空気が送り込まれる仕組みになっている。それによって上半身が持ち上げられるため、音や光の刺激を使わずに人を起こすことが可能だ。
また、SEIKOが作った日本初の目覚まし時計も展示されている。
昼夜逆転、不眠といった、眠りに関する問題を抱える人が多い現代。「ねむり展」で睡眠の多様性を楽しみながら理解を深めることで、より良い睡眠を得るきっかけになるかもしれない。期間中は様々なイベントも開催されていて、公式サイトからチェックできる。