「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「遊ぶ」、「遊戯」「遊興」の「遊」。春の陽気に誘われて、野山へ遊びに出かけたくなる季節です。今回は「遊」に込められた物語を紹介します。



「遊」という字のしんにょうをとると、音を表す「ユウ」という字になります。

この「ユウ」という文字は「方角」「方向」の「方」の右隣に、カタカナの「ノ」を書き、その横に棒を一本添えてその下に「子」と書きます。

この「ユウ」は、一族の霊を宿した旗ざおを持つ人の姿を表すといわれています。

しんにょうは「行く」という行為を意味する部首。

この二つを組み合わせた「遊」という漢字は、霊が宿った旗をおし建て、その威力に守られながら出て行くことを表し、そこから神さまの霊が「ゆく」こと、気ままに行動することを意味するようになりました。

「遊」という漢字が意味するのは、神さまの霊があそぶこと。

そして後に、「人が興の趣くままに行動して楽しむ」という意味に用いられるようになったのです。

万葉の昔から、人々はうららかな季節の訪れを喜び、春の野山へと出かけ、草花を摘み、飲食を楽しみました。

「野遊び」と呼ばれるこの行事は、自然がもつ生命力にあやかろうとする信仰から生まれたもので、本格的な農作業の開始を意味していたともいわれます。

語らいのときをもち、ともに働くための結びつきを強める男たち。

ほがらかに歌い、おしゃべりに興じながら山菜をとる女たち。

花飾りを編んだり草笛を鳴らしたり、子どもたちも夢中で遊んでいます。

見えない力に守られている安心感に包まれて、誰もがみな、魂を自由に解き放つひととき。

その姿を見て、神さまも微笑む、幸福な春の一日です。

ではここで、もう一度「遊」という字を感じてみてください。

漢字を独自の視点でひもといた白川静博士。

彼が一番好きだった漢字が、この「遊」という文字でした。

福井市の白川氏生誕の地に建てられた石碑には、直筆による「遊」という漢字が刻まれています。

それはまるで、神の魂が宿る旗に守られ心を解き放ち、自らの信じる道を夢中で歩み続けた、白川氏自身の姿にも見えます。

また、この石碑には、白川氏のこんな言葉も記されています。

≪「遊」は絶対の自由と、ゆたかな創造の世界である。≫

「遊び」とは何ものにもとらわれない柔軟な心で生きること。

私たちもそんな「遊び」を、存分に楽しむことができますように。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解(第二版)』(白川静/平凡社)

4月30日の放送では「看」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。

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<番組概要>

番組名:「感じて、漢字の世界」

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/