野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

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先日、日経コンピュータの特集で「伝統的なSIはもう限界」という特集がありました。
この記事は従来のIT企業の一括請負契約というモデルが限界にきており、これを打破する新しいビジネスモデルへの取組みを始めた企業のことを「オルタナティブSI」と呼び彼らの取組みについて書いたものです。

記事にあるように従来は要件定義がきちんとできていない中でSIプロジェクトで成果物保証をする請負契約では「いわし詰め放題」の要領で追加要件が詰め込まれ過ぎとなり結果的にユーザー側も受注者側もハッピーになれない状況に陥りやすいというのは理解できます。何故なら伝統的SIのこのようなモデルはユーザー企業とIT企業のゼロサムゲームに陥る危険性が高いからです。
曖昧な要件定義の元で確定した予算であってもユーザー側は予算を変更できません。
一方でIT企業も当初予想していた以上に膨らんだ工数で赤字プロジェクト化した上で、社員は疲弊し、会社も儲からないという悪循環に陥いることは昔から指摘されています。

オルタナティブSIでは付加価値で価格設定するなど、取り上げられているいくつかのモデルがそのまま全ての大規模SI案件などの契約に適用されるとは考え難いです。
しかし一方で請負(業務委託)から委任もしく準委任契約への見直し、要件定義と開発・運用のフェーズ毎にIT企業選定を行う、などの従来型の契約方法を見直すやり方は多くの企業で採用されつつあります。
購買プロセスにしても同様です。公共調達のように法律で入札実施が基本義務付けされている環境でも対話型入札方式(民間で言う提案コンペのようなもの)のように、欧米で実施されている購買プロセスを検討しているようです。また民間でも個々のプロジェクトやフェーズ毎に最適な購買プロセス(場合にはよっては一社指定)を採用する方向に動いている企業も増えています。

このように契約方法や購買プロセスを変えることを検討するのは非常に重要なことです。
それによってサプライヤの能力を最大限レバレッジすることもできますし、サプライヤとの間での信頼関係を作ることにもつながります。また馴れ合いの状況を打破し緊張関係を築くこともできます。自社の収益を守ることを考えるあまり、サプライヤのモチベーション低下や場合によってはサプライヤの収益悪化や品質の低下にまでつながることも考えられるのです。

以前もメルマガで取り上げましたが、公共のシステム開発でよく結果的に動かないシステムになってしまった、失敗事例とか、入札をやったものの1社しか応札がない案件が非常に多いということも言われていますが、これも比較できないものを無理やり比較しようとする購買プロセスにそもそも問題があるとも言えるでしょう。
最適な契約方法や購買プロセスを検討し、何が何でも「競争させることが良し」から脱却させることが調達購買部門や人材にも求められているのです。最適な契約方法や購買プロセスを検討するためには、そもそもどのような契約形態が考えられるのか、またどのような購買プロセスで意思決定をしていくのか、代替案を知りそれを比較検討する必要があります。
また常にサプライヤの声を聞き、サプライヤがどのようなニーズを持っているのか、サプライヤにとっても自社にとってもメリットがあるやり方がどのようなやり方なのかを常に知り、考えておく必要もあるでしょう。
このようなことは、単に複数社から見積りを取り比較をして意思決定をする、また、日々そのような作業に追われている調達購買部門にはできないことです。

逆に言うと従来の契約方法や購買プロセスを良しとせずに最適な方法を見出すことができれば自社にとってもサプライヤにとってもWinになれるようなシチュエーションを見つけることができるのです。
これは何もシステム開発だけでなく、あらゆる品目の調達・購買に関わることでしょう。何故なら企業はモノやサービスを単に購入しているのではなく、何らかの目的を達成するためにモノやサービスを購入しているからです。

このような視点で「従来からこういうやり方だった」を脱却し「最適な方法」を追求しくことが調達・購買に改めて求められているのでしょう。