中土井 鉄信 / 合資会社 マネジメント・ブレイン・アソシエイツ

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叱る・叱られた経験のない先生が増えている!


私は教育コンサルタントとして、全国の学習塾や学校を訪問しているのですが、
最近、顧問先の学習塾の塾長や先生から叱り方で、相談を受けることが多くなりました。


子どもたちの置かれた状況が変わったことも大きいですが、それ以上に、叱る側の先生自身が、子どもであったときに親や学校の先生から叱られた経験が少なく、どう叱ったらよいのかわからないようなのです。


叱る側も、叱られる側も経験が少ないんですね。


この傾向は、統計からも垣間見えます。ここ20年ほどの間に、日本の親は「叱る」というある意味、とても面倒な、とても体力・気力を使う作業を、余りしなくなったようなのです。


1982年から実施されているNHK放送文化研究所の「中学生・高校生の生活と意識調査」からも、そんな親子の関係の変化がみてとれます。

上の調査では「どういう親でありたいか?」という親としての理想像に関する質問項目があります。


理想として「できるだけ子どもの自由を尊重する親」でありたいと答えた父親は1982年には68.5%でしたが、2012年は83.2%まで15%近くも増加しています。母親も66%から79.3%にやはり13%ほど増加しています。子どもの自主性に任せる親が増えているのですね。


それに対て、「子どもを甘やかさない、厳しい親」でありたいと答えた父親は、1982年の調査では22.4%であったのが、2012年では15.6%まで大きく減少しています。


「やさしくあたたかい」「よくわかってくれる」「いろいろなことを話す」(【「中学生・高校生の生活と意識調査・2012」】の結果概要より引用)、そんな親と子の関係が増えているのです。そうした風潮の結果として、家庭の教育力低下が指摘されているのはご存知でしょう。


何も、こうした傾向は、最近のことではなく、今から13年前の2002年の「中学生・高校生の生活と意識調査」でも見られます。おそらく、校内暴力が吹き荒れ、それが沈静化した1980年代後半から90年代前半にかけて、親と子、あるいは学校での規律教育に関して、大きな変化があったのだと思います。


ポイントは、今、教育現場で(学習塾で、あるいは学校で)教えている先生の多くが、友だちのような親子関係の中で育ち、そして先生と呼ばれる職業についているという事実です。


それは、良い意味でも、悪い意味でも叱る・叱られるという経験値が、少なかった人たちが、教える側に立っているということです。



ニューヨークの地下鉄から学ぶべきこと


最近、顧問先の学習塾の先生から受けた相談に以下のようなものがありました。


「塾の教師である自分がナメられているように感じるほど、生徒の言葉遣いが悪いんです。学校の先生に対して話している内容も聞くに堪えないのですが、それを注意をしたほうが良いのか、それとも大目に見ていいのか、どうすればよいのか助言をください」というのです。


この若い先生は、どちらかと言えば厳しい雰囲気をもった先生なのですが、そんな彼でさえ自分が生徒になめられているように感じ、正面から子どもを叱ることに臆病になっているのです。


私は、こんなアドバイスをしました。
「それは、小さなことを見過ごしているか、あるいは見逃しているから、なめられるようになるんじゃないか」、と。


たとえば、先生の質問に対して、生徒がしっかりと真面目に対応しているのであれば、少しくらい言葉遣いが悪くても、特段注意をする必要はない。しかし、うわの空だったり、適当な返答だったり、あるいは悪意があったりした場合は、しっかり注意をしなければなりません。


言葉使いの小さな乱れだからと言って、大目に見ていると、どんどん小さな悪いことが蔓延し、最後は、指導が届かなってしまいます。

小さな悪を徹底的に撲滅したことでで、大きな悪を減少させた事例としては、ニューヨークの地下鉄の落書きが有名すね。


ニューヨークでは1980年代台後半から徹底的に地下鉄の落書きを消していきました。当初は落書きを減らすよりも、重大犯罪そのものを取り締まるべきという声が大きかったのですが、落書きを減らすことで、その数年後から殺人、暴行、強盗といった凶悪な犯罪の数が激減していったんですね。小さいルール破りを減らすことで、大きなルール破りを減らしていった例です。これが、教育現場でも重要なことなのです。



厳しいけれど優しい教師になろう!


教室の落書き、教室の破損、生徒の姿勢、生徒の言葉遣い、生徒の遅刻、生徒の宿題忘れ、こういう小さなことを徹底的に注意していくことです。



塾の教師は、人気商売であることは確かですが、その人気を支えるのは、生徒からの人気取りではなく実はしっかりした指導なのです。その指導を効果的に行う下地(=規律)を作る教師が、やはり人気が高いのです。



生徒に迎合しても、最初は寄ってきてくれますが、結局は、生徒から見切りをつけられるようになってしまうものなのです。

それは学校の先生でも同様でしょう。


生徒を叱ることのポイントは叱るときには、なぜ叱られているのか、その意味を必ず伝えることです


最初に甘い顔をしては駄目です。基本的には、教師が、生徒の中に入っていく時は、厳しい教師として入って、最後は、厳しいけれど優しい教師という評価にならなくては駄目なのです。

教師は、友だちではありません。


少子化がすすむ昨今、生徒が集まらず閉鎖に追い込まれる学習塾が増加しています。
生徒に塾に来てもらいたいと思い、生徒を叱ることに躊躇している塾も多いでしょう。

が、しかし、です。

これでは逆に生徒からの支持は減ってしまうんですね。


もちろん、やみくもに叱ればいいというわけではありません。

ぜひ、しっかりと生徒に向き合ってください。
愛情があるから、叱ることができるのです。