HRレビュー 編集部 / 株式会社ビズリーチ

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2015年12月1日に労働安全衛生法に基づく、通称「ストレスチェック義務化」(改正労働安全衛生法)が施行され、政府主導でメンタルヘルス対策の取り組みが進められています。働く人々の職場でのストレスは増大傾向にあり、経営者や人事担当部門が社員のメンタルヘルス対策について真剣に考えなければならない時代となっています。今回は、これからストレスチェックを行うためのポイントをまとめました。

「ストレスチェック」実施にあたってのチェックポイント

2015年12月から、従業員数50人以上の事業所は「ストレスチェック」の実施が義務付けられました。しかし、マイナンバー制度ほどの周知はなく、経営者や実施担当者も「ストレスチェック」について、どのように進めたら良いのか理解しきれていないのではないでしょうか。制度が開始されたいま、あらためて「ストレスチェック」について確認すべき点や注意事項、事業所で調査審議すべき事項を取り上げます。

目的はメンタルヘルス不調の防止

労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身のストレスへの気づきを促すとともに、職場改善や、働きやすい職場づくりを進め、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止すること(一次予防)を主な目的としています。

従業員数50人以上の事業所が1年に1回実施

従業員数50人以上の事業所は、1年に1回(第1回は2015年12月1日から2016年11月30日まで)ストレスチェックを実施する必要があります。
※第1回の結果通知や面接指導の実施は、2016年11月30日を過ぎても構いません。

労働者の受検義務は規定なし

労働者に対しては受検を義務付ける規定はなく、メンタルヘルス不調で治療中のために負担が大きいなどの特別の理由がある労働者にまで受検を強要する必要はありません。

人事権を有する人のストレスチェック実施は不可

ストレスチェックの実施にあたっては、労働者に対するプライバシーの配慮や個人情報の取り扱いについて留意し、労働者が自身の状況をありのままに回答できる環境を整えることが重要です。人事権を有する立場の方(経営者、役員、人事担当者等)は、ストレスチェックの実施者にはなれません。具体的には社内の産業医や社外の専門機関に委託をすることが考えられます。

ストレスチェックで聞かなければならないのは3要素

法定のストレスチェックは、調査票を用いて、「職場のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3つの領域に関する項目について検査を行い、労働者のストレスの程度を点数化して評価します。国が標準として示す57項目が厚生労働省から公開されているので同省のホームページを参考にしてください。
これら3つの領域の設問が含まれていれば、項目を増やしたり減らしたりしても問題はありません。ただし、独自に項目を設定する場合は、一定の科学的根拠に基づいた上で、変更する必要があります。

厚生労働省ホームページから該当プログラムをダウンロード

ストレスチェックの受検、ストレスチェックの結果出力、集団分析などが円滑に行えるプログラム「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」が厚生労働省から無料で配布されています。

検診後、労働基準監督署に実施状況を報告

検診後は労働者に結果を通知します。労働者から申し出があれば、医師の面接指導を受けられるような仕組みづくりが必要です。また、実施者から事業者に提供された結果の記録は、事業者が5年間保存し、事業所はストレスチェックと面接指導の実施状況を労働基準監督署に報告します。

常に最新情報をチェック

ストレスチェックの実施方法や注意点については、厚生労働省「こころの耳」に案内があります。2015年12月1日の施行以降も、報告書の提出方法など重要な情報が随時更新されているので確認が必要です。

ストレスチェック実施の背景−労働者の半数以上はストレスを抱えている−

2013年の厚生労働省「労働安全衛生調査」によると、現在の仕事や職業生活に関して強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者の割合は52.3%で、全体の半数以上がなにかしらのストレスを感じています。そのストレスの内容は、「仕事 の質・量」(65.3%)が最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」(36.6%)など。年齢で見ると、30〜39歳が最も高く(58.4%)、40〜49歳(55.8%)、50〜59歳(52.9%)と続き、働き盛りの世代のストレスが高いと読み取れます。

図1 仕事や職業生活に関する不安、悩み、ストレスの有無(2013年 厚生労働省「労働安全衛生調査」)

労働者がストレスを抱え、心の病気を発症すると、作業効率が下がり、生産性が低下します。場合によっては、長期にわたる休業が必要となったり、退職してしまったりすることもあります。精神障害や自殺などの精神および行動上の問題を幅広く含むメンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業または退職した労働者がいる事業所の割合は、2013年の調査では10.0%でした。2012年の調査から1.9%増加しています。

図2 過去1年間におけるメンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業または退職した労働者数階級別事業所割合(2013年 厚生労働省「労働安全衛生調査」)

まとめ−リスクマネジメントとしてメンタルヘルス対策を−

このような状況が発生すると、周囲の仕事の負担が増え、職場の士気が下がる可能性があります。また、経営者や企業にも大きな影響を及ぼします。近年では、メンタルヘルスにリスクを抱えている人が働き続けてうつ病になった場合、司法判断では業務上の疾病と見なし、積極的に労災認定する傾向が強まっており、うつ病による自殺や過労死などがあった場合に、企業だけでなく、経営者個人の賠償責任まで問われることも増えています。労働者の心の健康問題に関して、企業の責任が追及されているのです。リスクマネジメントの側面からも、メンタルヘルス対策を推進することが重要視されています。

職場におけるストレスの問題は、もはや労働者個人の問題として片付けることはできません。職場全体の問題として取り組むべきことです。経営者は重要な経営課題として捉える必要があるのです。「ストレスチェック」を実施して社内の状況を確認し、社員のメンタルヘルス対策を行うことで、優秀な社員が長く働き続けられる環境づくりを推進してください。

文:冨田有香


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