顧客満足向上が受注やリピートに繋がらないワケ(2) 【連載サービスサイエンス:第10回】/松井 拓己
前回は、顧客満足向上の前に、そもそも顧客満足の定義すら組織で共有されていないことに着目し、その定義を明らかにしました。この定義は、言われてみれば当たり前のようですが、実はそのポイントを理解すると、我々のこれまでの活動の進め方が少し筋違いだったかもしれないことに気づきます。
そこで今回は、顧客満足のポイントからご紹介していこうと思います。
■今までの顧客満足向上の取り組みは筋違いだったかもしれない?!
『顧客満足は、お客様がサービスを受ける前に持っている事前期待を、サービスを受けた後の実績評価が上回ったときに得られる。』というのが、顧客満足の定義です。そのポイントは、「顧客満足は絶対値ではない」ということです。つまり、事前期待と実績評価の「相対値」で顧客満足は決まります。
この点を踏まえて、我々が今まで顧客満足向上のために取り組んできたことを思い返してみましょう。例えば、「いかにお客様に喜んで頂くか」というテーマでの議論を思い浮かべると、議論の内容のほとんどが、「お客様からの実績評価をいかに大きくするか」にしかフォーカスできていないことに気付きます。先ほどの顧客満足の定義によれば、「顧客満足は事前期待と実績評価の相対値」なので、「実績評価」の方だけに着目して顧客満足向上に取り組むのは筋違いだと言えます。
つまり顧客満足を向上しようと思ったら、お客様の「事前期待」を掴まなければ意味がないのです。この考え方を、取り組みを始める際にしっかりと組織で共有できているかどうかが、顧客満足向上を成果に繋げる上で、とても大切なポイントになります。
「事前期待」とは何で、具体的にどんな構成要素から成り立っているのかについて、以前の記事でご紹介しました。事前期待とひとことで言っても、案外複雑な構造をしています。しかも、我々が普段議論が慣れている「サービスの内容・品質・価格」といった「事前期待の対象」について、いくら努力しても感動サービスやホスピタリティサービスは実現できないことが分かりました。また、全てのお客様が共通的に持っている事前期待に応えても「当たり前」と言われてしまうことが多い。そんなことも分かりました。事前期待を掴んで応えるといっても、具体的にどんな事前期待に応えるかで、顧客満足の高さは大きく変わるのです。
そこで重要なのは、顧客満足向上の目標地として「満たすべき事前期待」を定めることです。例えば売上向上のための取り組みであれば、売上目標を決め、ターゲットを定めて組織一丸となって努力するので、どうにか目標を達成することができます。しかし顧客満足向上の取り組みでは、目標地を定めずに努力していることが実に多いのです。目標地が明確でない中でいくら努力しても、組織全体でベクトルを揃えて前進することはできません。
しかし、いざ「満たすべき事前期待」について議論してみると、案外難しいものです。そして、今までいかに提供者目線で、お客様不在な議論や取り組みになってしまっていたかに気付かされます。我々が何をしたら良いと思っているかと、お客様が何を期待しているかは、視点が180度違います。この視点をひっくり返すための意識改革も、「満たすべき事前期待」についての議論を通して進めたいものです。
そこで、議論のヒントとして、まずはお客様の問題やニーズを知ることが大切です。これは言うのは簡単ですが、最近はお客様自身が欲しいものが分からない時代になったと言われています。ニーズをお客様に聞いても答えは分からないのです。なので、受け身型や一方的な提案型のスタイルでは、うまくいかず、お客様と問題やニーズを探し出すところからご一緒することが必要になってきています。
もう1つヒントになるのが、競合のサービスレベルを知ることです。これは、競争に勝つためにではなく、お客様の事前期待を知ることが目的です。お客様は、競合のサービスと比較して何らかの事前期待を持ったうえで我々の前に登場します。そこで、お客様が比較対象にしている競合のサービスレベルを我々自身が知らなければ、お客様の期待を知ることができないのです。
このような議論を通して、「満たすべき事前期待」を明確にすることで、組織で一丸となった顧客満足向上を実現していただければと思います。
ただし、組織で一丸となって顧客満足向上に取り組んでも、経営貢献に繋げられるかどうかはまだ分かりません。顧客満足が向上したのに、売上やリピートが増えないと悩んでいる企業が増えているのです。そこで次回は、売上向上やリピートの増加に繋がる顧客満足とは何かを明らかにしたいと思います。