2015年は「日本のVOD元年」だったか/VIDEO SQUARE 編集部
2015年になって、映像配信ビジネスは急速に進歩を遂げている。海外からの大手参入も相次いだことから、2015年を「日本のビデオ・オン・デマンド(VOD)元年」とする声も大きい。だが実際には、日本は10年以上前からVODに取り組んでいた。それが泣かず飛ばすであったのが、日本の不幸とも言える。
なぜ2015年になって急に動き出したのか? その背景を知ることで、2016年に何が起きるかも見えてくる。
国内2社の積極策でNetflix参入が決まった?!
2015年の映像産業にとって、台風の目が「Netflix」であったのは間違いない。全世界で7000万を超える有料会員を持つ、世界最大の映像配信事業者が、9月に日本へ上陸した。
Netflixは、俗に「SVOD」と呼ばれる形態の映像配信事業者だ。SVODとは「サブスクリプション・ビデオオンデマンド」の略。毎月決まった額を支払えば、サービスに登録された何万本というビデオから、好きなものが見放題になる。
アメリカではレンタルDVDを駆逐し、ケーブルテレビを追いかけ、世帯普及率が4分の1を超えるまでに成長している。夜のゴールデンタイムには、アメリカのインターネット・トラフィックのうち、4割弱がNetflixへのアクセスで占められるほどになっている。
日本勢もただ見ていたわけではない。NTTドコモとエイベックス・グループが共同して展開する「dTV」、2014年4月に日本テレビが買収した「Hulu」など、既存の事業者も、サービスの拡充ともコンテンツ調達に努めた。
そして、3社がしのぎを削る中、満を持して日本参入を決めたのが、通販大手のアマゾンだ。同社は年額有料会員サービス「アマゾン・プライム」の一環として、海外では映像配信「アマゾン・プライムビデオ」を提供している。
日本でも、アマゾン・プライム会員の拡充を目的とし、プライムビデオを開始した。映像配信開始に伴う値上げもなく、既存のプライムと同じ、年額3900円(税込)で利用できる。他社より安価な水準で、一気に攻め込んできた。
現在SVODとしては、上記4事業者に加え、アニメ専業の「dアニメストア」(NTTドコモ・KADOKAWA協業)や「バンダイチャンネル」、総合系のU-NEXTなどもあり、選択肢が広がっている。
また2016年2月には、大手ビデオレンタルチェーン・ゲオが「ゲオチャンネル」ブランドでSVODを開始する。ゲオはdTVを運営するエイベックス・デジタルと協業でSVODを展開するため、エイベックスは複数のルートでこの事業を手がけることになる。
オリジナルコンテンツ対テレビ番組の競争が激化
とはいえ、現在のところ、日本でのSVOD事業は、まだ「ブーム」というほどの熱狂には至っていない。背景にあるのは、日本市場の「有料放送」に対する心理的ハードルだ。日本は無料の地上波放送が強く、衛星やケーブルテレビなどの有料放送の利用率は、人口の5%以下と低い。同様に、毎月映像にお金を払うSVODの利用には、それなりの心理的ハードルがあると考えられている。
そこを突き崩すには、魅力あるコンテンツの存在が不可欠だ。
コンテンツ展開には2つのパターンがある。
一つは「オリジナル作品」の制作。特にNetflixとアマゾンを中心とした海外勢は、資本力を背景に、付加価値の高いコンテンツで攻めようとしている。両社はアメリカでも良質のオリジナルドラマを量産し、それで顧客獲得をしており、その戦略を日本でも継続する。Netflixは目玉として、吉本興業とタッグを組み、あのベストセラー「火花」の映像化を行う。
アマゾンは現在製作中の20タイトルのうち、10が日本を念頭に入れたコンテンツだとしている。当然、彼らのパートナーは番組制作会社やテレビ局になるが、彼らにとっても、ネットオリジナル作品は、制作資金があって注目度も高く、時間や表現での制約が小さく、取り組み甲斐のある題材だ。
もう一つが「テレビ番組」の配信だ。
2015年はテレビの視聴率低下が著しい年でもあった。それに伴い、広告料収入も減っている。ネットと広告費の奪い合いが本格化し、テレビ局としても、「テレビは生で見るもの」とカラ元気を出している場合ではなくなっている。
そこで使うのが「ネット」だ。広告を見せる代わりに、次回の放送までは無料で番組を視聴できる「見逃し配信」を秋より本格展開している。
これは、広告費ベースのVODそのものだ。一部番組にではあるが、視聴率や視聴量の形ですでに成果は出始めている、との評価も耳にする。さらにSVODでは「これまでに放送されたすべての回」を見られるようにすることを売り物にできる。特にHuluを傘下に持つ日本テレビは積極的で、海外勢に対する差別化ポイントとして活用している。
2016年は、日本でも「ネットでの映像配信」が本格的に市民権を得る年になるだろう。そこでは、ネット発のオリジナルコンテンツと放送発のコンテンツが並列に並び、人々の余暇を奪い合うのは間違いない。
(文=西田 宗千住)