“ゼロの呪縛”を解き放て――カンボジア戦のカギはピッチ内の臨機応変さにあり

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文=青山知雄

 これが“ゼロの呪縛”なのか――。6月のシンガポール戦でスコアレスドローに終わってしまったことが、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の思考にも、選手たちの記憶にも影を落としているように感じられてならない。

 カンボジア代表とのFIFAワールドカップ アジア2次予選を翌日に控えた2日の練習後、岡崎慎司(レスター/イングランド)が「シンガポール戦での嫌なものを取り除かなければいけない。あのイメージがまだ払拭されていない」と明かしたように、守りを固める相手を崩し切れなかった3カ月前の苦戦が尾を引いている。

 シンガポール戦の結果を受けて「これだけ点が取れないのは初めて」と頭を悩ませていたハリルホジッチ監督は、「どうしてシンガポールに引き分けたのかを今までずっと考えてきた」という。そして自分たちに何ができたかを分析し、前日会見では引いた相手を崩すための打開策として「6〜7つのソリューション」を導き出した。

 今回対戦するカンボジア代表は、8月発表のFIFAランキングで全208カ国中180位。アジア2次予選に出場している国の中では最もランキングが低く、1次予選を突破してきた6カ国の一つでもある。実力差を考えれば大勝して当然と思われる相手だ。実際、カンボジア代表のイ・デフン監督も「明らかに日本のほうがレベルは高く、我々には難しい試合になる。日本相手に勝利を収めるのは難しいが、よい経験として大事なことを学びたい」と語っており、現実的に歴然とした差があることを認めている。ハリルホジッチ監督も「まずは勝つことを要求したい」としながら「10点取れれば問題ない」ともコメントした。これには「選手にはそんなにプレッシャーは掛けたくない」とエクスキューズを加えたが、自らの狙いをピッチで表現してくれれば大量得点で勝てるはずという本音がこぼれたのだろう。

 もちろん早い時間に先制できれば何も問題はない。指揮官も「そうなれば試合の考え方が全く違うものになる」と語っているが、キックオフから得点のないまま時間が経過すれば、嫌な記憶が蘇ってくるのは止められない。ハリルホジッチ監督は前回の苦戦を教訓に「1点目はそう簡単には入らない」と想定し、2日間の戦術練習で選手たちに策を植えつけてきた。とにかくゴールを決めて勝つことができれば、チームも選手も自信を取り戻すことができる。監督は「選手たちに自信を取り戻させたい」と語っているが、シンガポール戦の悪夢は選手が地力で払しょくするしかないのだ。

 では、ハリルホジッチ監督は選手たちにいかなるソリューションを伝えたのだろうか。そのヒントが前日会見のコメントにあった。

1)とにかく速いプレーを心掛けろ。
2)ダイレクトプレーを使え。
3)相手のギャップで受けて3人目、4人目の選手を使え。
4)逆サイドを突け。
5)ミドルシュートを狙え。
6)16メートル=ペナルティエリアに入っていけ。
7)冷静にゴールを決めろ。

 一連の得点力不足を受けてゴール前のトレーニングを増やしたというハリルホジッチ監督。メンバー発表会見で言及していたPK誘発については「16メートルに入っていけ」という部分に含まれるのだろう。そして彼が会見の最後に強調したのがフィニッシュの精度について。選手たちには得点を決めるという決意とゴール前での冷静さを求めていた。

 引いた相手を崩すために有効な手段をとにかく並べたとも言えるハリルの狙い。戦術面で伝えたいことはひとまず伝達したのだろう。会見では「選手が責任を持って戦う段階に来ている」とも話している。あとはピッチの選手がどう戦うかだ。

 実は合宿初日、本田圭佑(ミラン/イタリア)はこう語っていた。