日本生命が本気になった“第一生命潰し”の新戦略

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■揺るぎない国内トップの地位確保へ

国内生命保険最大手の日本生命保険が、なり振り構わぬ「攻めの経営」に転じている。生保業界の「ガリバー」に君臨し、泰然自若の姿勢が常だった日生の豹変ぶりには、同業他社も目を見張らせるほどだ。何が日生に起こったか。

そのきっかけを作ったのは、日生をライバル視しながら常に後塵を拝してきた同業第2位の第一生命保険だった。2015年3月期に、一般事業会社の売上高に当たる保険料収入で、第一生命は戦後初めて日生を抜き、首位に立つ歴史的な逆転劇を演じたからだ。同期に、第一生命は銀行での保険商品の窓口販売が伸び、保険料収入が前期を25%上回る5兆4327億円と大幅増収につなげた。

一方、日生は11%増の5兆3371億円と伸ばしたものの、第一生命に及ばなかった。首位を明け渡した日生が、この事態に危機感を持ったのは言うまでもない。本業のもうけを示す基礎利益こそ日生は6790億円と第一生命の4720億円を圧倒し、ガリバーの底力を見せつけた。

しかし、日生のプライドが大きく傷付けられたのは紛れもない事実だ。5月28日の決算発表記者会見で、日生の児島一裕取締役は「重く受け止めている。国内ナンバーワンにこだわる」と述べ、露骨なまでに第一生命への対抗心をむき出しにした。これを裏付けるように、日生は15〜17年度の中期経営計画で国内外の保険会社の買収に1兆円超の資金を投じる方針を打ち出すなど、「揺るぎない国内トップの地位確保」に向けて、攻めの積極経営に大きく舵を切った。

■矢継ぎ早に打ち出した新機軸

盤石な営業基盤を抱える国内事業については、複数の保険会社の商品を扱う乗り合い代理店中堅のライフサロン(東京・千代田)を5月下旬に買収し、傘下に収めた。日生は営業担当者が顧客を直接、訪問する伝統的なスタイルが継続して顧客との関係を築いていくうえで最適な営業手法とし、今後も営業手法の中核に位置付ける。しかし、最近は複数の商品を比較して選びたいニーズの高まりから、乗り合い代理店の市場が急速に拡大しており、日生としても無視できない存在になっていた。子会社としたライフサロンは、現在の50店舗を10年後に300店舗に拡大し、日生がこれまで取り込められなかった層へのアプローチを進める。

また、6月にはシステム大手の野村総合研究所への出資比率を3%程度に引き上げ、資本・業務提携した。両社の協力関係を強化し、ビッグデータを活用した新たな保険ビジネスモデルの構築などに乗り出す。こうした矢継ぎ早に打ち出した新機軸は、さながら尻に火が付いたガリバーがなり振り構わず首位奪還を目指す豹変ぶりに映る。

さらに、これまで慎重だった海外事業展開についても、積極的なM&A(企業の合併・買収)を検討する方針に転換した。6月はじめには、豪大手銀行のナショナル・オーストラリア銀行傘下の保険事業の買収交渉が伝えられた。買収額は2000億〜3000億円規模に上るとみられ、実現すれば日生の海外M&Aで最大規模となり、日生の攻めの経営への変身を印象付けられる。

一方、第一生命は10年に株式会社の経営形態に転換し、上場を果たして以降、米中堅生保プロテクティブ生命の買収を今年完了するなど、株主を意識した成長戦略を展開し、日生との差を縮めてきた。さらに海外M&Aを通じ、20年までに利益水準などで世界トップ5入りを目指すと鼻息も荒い。その意味で、引き続き相互会社の形態を維持する日生は、成長戦略で後手に回っているとの印象は拭えない。攻めの経営への転換で、盤石な国内トップに復権できるか。この3年が正念場となる。

(経済ジャーナリスト 水月仁史=文 宇佐美利明=撮影)