バナー写真:矢沢彰悟


2年に1度行われる学生のための五輪こと“ユニバーシアード”が、7月5日からロシアのカザンで行われる。数ある競技の中でもサッカーの代表“全日本大学選抜”は、前回大会の覇者でもあり、5回の優勝を誇る。大学レベルの国際大会において確かな実績を残してきた。
 
 ユニバーシアードには、現在A代表にも名を連ねている高橋秀人(FC東京)やロンドン五輪代表のエース・永井謙佑(スタンダール・リエージュ/ベルギー)ら、国際舞台で活躍している選手も出場した歴史がある。将来の日本サッカーを担うことを期待され、大会連覇を目指す全日本大学選抜を統括するのは、前出の永井や元日本代表DFの坪井慶介(浦和レッズ)、FWの田代有三(ヴィッセル神戸)をはじめ20年にわたって数多くのJリーガーを輩出した福岡大の監督を務める乾真寛だ。

 前回王者として参加する全日本大学選抜は今大会、追われる立場として各国から厳しいマークに遭うことは必至。その中で目標を「連覇」と言い切る乾チームリーダーに、ユニバーシアードに向けての意気込みや日本サッカー界におけるその大会の位置づけなどを語ってもらった。


キーマンは長澤


ーユニバーシアードのメンバー20名が決まり、本大会も始まります。あらためて、このメンバーの選定基準を教えていただけますか?

これから大学を経て、将来、JリーグやA代表に進んで欲しい、将来性のある選手ですよね。現時点での大学サッカーでのトッププレーヤーと言うべきでしょうか。基準というところで言うと…日本のチームらしい運動量とか小気味良くボールを動かすことが出来るという点を中盤の選手には求めましたね。

ー前線の選手ははどうでしょうか。

昨年度の関東リーグの得点王である赤崎秀平(筑波大学4年・佐賀東 鹿島アントラーズ内定) が中心ですね。それに加えて国際試合ということで、高さやフィジカル面を考えたときに松本大輝(法政大学4年・大津)や皆川佑介(4年・前橋育英)が選ばれたと。そういうところから国際試合を強く意識していると言えます。


ー守備陣では谷口彰悟選手(筑波大学4年・大津)が前回大会を経験しています。

谷口に加えて、CBの車屋紳太郎(3年・大津)。この2人は守備においては外せない軸です。それに加えて高さのある大武駿(福岡大学3年・筑陽学園)だったり、菊地俊介(日本体育大学4年・伊奈学園総合)を選びました。これは、相手のタイプというんですかね、様々な相手に応じて使い分けていこうかなと。サイドバックで言うと、左の二見宏志(阪南大学4年・奈良育英)は体格もいいのでヨーロッパの相手にでも当たり負けしない。果敢に球際のところで戦える強さもありますし、そこがストロングポイントですね。


ー菊地選手は関東選抜Bから代表まで上がって来たので、印象深い選手です。

日体大はチームとしてのまとまりもあったし、今年の春のシーズンに関してもそう。3月の日韓戦とかキャンプに関しては車屋や大武が怪我をしていたので、それを埋める形の招集だった。でもやっぱり関東の選抜の中でも中心として安定感のあるプレーをしていたので。それに彼自身も選抜に来てからも更に成長したというのもあります。


ー全体的に怪我を持っていた選手が多いという印象もありますが。

監督ともメンバーを決める過程で、"選びたい"と思った選手が3月の時点で怪我をしていて、なかなかフルメンバーで戦う事ができなかったんですよね。だけど、最終的に怪我の選手たちもなんとかギリギリ間に合って、コンディションも高まってきました。なので満足はしています。


ー専修大の選手が4人選ばれていますね。

そうですね。彼らを、特に長澤を中心とした攻撃サッカーという部分をチームに残したいですね。センターラインのところには前回大会経験者の谷口を軸に、同じ筑波の車屋。同じチームでの組み合わせというのもこのチームの骨格作りにおいて意識しました。

ーFWで言うと、皆川選手が怪我明けで、再発も不安視される中選んだのはなぜなのでしょうか。山崎凌吾(3年・玉野光南)という選択肢もあったかと思います。

皆川は今シーズンに関しては怪我明けではあるのだけど、昨シーズンの大学選抜の活動ではほぼフルに動いてくれた。そこの部分もあるし、もちろん彼の高さだとか強さの部分が吉村監督の中でも評価が高かったのだと思います。復帰を待望していたというのもあるので、なんとか間に合ってよかった。最前線で起点になってくれることを期待したいです。

ー改めてチームのキーマンというと、誰を上げることが出来るでしょうか。

やっぱり長澤ですね。絶対的な存在ですよ。ロシアのキャンプでも、どんな相手に対してもボールを収められるし、起点に慣れる。それでもって、ラストパスだけでなく自らも点が取れる。特にチームがバイタルエリアに差し掛かったところ、狭いスペースでボールを動かせるのは日本の特徴なんですけど、それを最大限に活かすためにも長澤は不可欠です。

ー彼がそこまでの選手になった理由というのは。

ここ1,2年でタフになりましたよ。テクニシャンにありがちな球際の弱さというのもないし、気持ちも強い。当たり強いですよね。下半身の筋力やパワーが一段と増しましたし、今年の春から色々なJのチームのキャンプに行って練習にも参加して、色々と自分自身叩きこんだんでしょう。たくましくなってます。彼がとにかく怪我なくやってほしいなと思いますし、6試合のどこかで彼を休ませてあげればとは思っています。

ー対戦相手についてはどういう印象でしょうか。

今回はかなり厳しいグループにいるので・・。休ませる計算はせずに。初戦のトルコ戦の比重はものすごく大きいですね。ウクライナは大柄な選手の割にテクニックもある。とにかく、この2つに勝たなければいけない。そう考えればかなり厳しいグループという感じがします。

セットプレーでの失点を減らすことがカギになる

ーチームとしてはどういうサッカーを目指しているのでしょうか。

相手を格上とした位置づけをして、まず守備のところを強調しました。チームとして全体として、組織としての守備をしっかりやろうと。守備と言っても前線から深く自陣に下がるようなものではなくて、ボールを奪いに行くことを意識させましたね。

ーそういった中でポイントとなる部分はどういった部分でしょう。

FWと中盤のラインで挟むことですよね、しっかりと。あるいはボランチとDFラインで挟む、と。縦の関係をコンパクトにして、狭い中でボールを奪いに行くということとを意識しようとしています。ドイツキャンプでもそうだったんですけど、後退した守備になると確実に失点しているんですよね。なので、より積極的にいこうと。全部が全部相手陣内で出来るわけではないとは思うけれど、意図を持って組織的に守備をすることにはこだわって来ましたね。

ー志向するサッカーはフル代表のそれにも繋がってくるところなのでしょうか。

まあ、代表がこうだからということで直接チームに影響するということはなく、ユニバのチームとしてのコンセプトとして選んだ形です。代表として集まれる時間も限られているので、その中で大学生のインテリジェンスというか、そこをサッカーのプレーにどう結びつけるかを求めました。"ヨーロッパで行われる大会で、相手のレベルも高いだろう"と、そういう意識を持って大会に臨むので、守備のところはかなり重要視してやってきましたね。そうはいっても後ろの選手が怪我で揃わなかったので・・・仕上がりの部分で不安なところでした。ただ、直前のキャンプでやっと、手応えがつかめたかなと。

ーキャンプでのいい部分、悪い部分が見えてきたとは思いますが、悪い部分はどうでしょうか

このチームの失点の50%を越える失点はセットプレーからの失点なんですよね。これはテクニカルの方の分析を経て選手に伝えたんですけど、直前キャンプでも失点はセットプレー絡みだった。国際試合ではその一発で勝負が決まってしまう。せっかくある程度自分達が主導権を握っていても、そのセットプレー一本で流れを変えられてしまったりする。勝ち星というか結果を出すためには多くポゼッションをしている、多くパスが繋がるというところではないので。現地で4日間やる中でもその部分は詰めていかないといけないというところですかね。

目標は、連覇

ー今回の目標は。

それは明確に、連覇ですよ。これだけ、過去5大会で3連以降も5位で終わったり3位で終わったりと、上位にはいます。5位に終わった大会もPK戦でベスト8で負けてるんですよね。3位のときも準決勝で負けただけで、結局ユニバの6大会の中で下位トーナメントには一度も行っていないし、常にメダルに絡む戦いをしてきている。今回は開催国のロシアが強く意識していると思うので、この組み合わせとかグループもロシアは自分達のことを意図しているなというのは感じているし、"日本封じ"というか、日本をどう潰すかというところはかなり考えていると思いますね。だからこそ、その壁を乗り越えてグループリーグを突破したい。ディフエンディングチャンピオンなので、連覇を狙わない訳にはいかなう。

ーチームリーダーとして選手に伝えたいこと、学んで欲しいことというのはどういった部分でしょか。

ワールドカップとかオリンピックに比べれば大会の規模や歴史は小さいものだけど、れっきとした学生のオリンピックであり、世界中からチームが集まってきているわけです。それでそこにはそれぞれの国の柄がサッカーのスタイルに反映されていると思うので、そこで色々な国のサッカーのスタイルに触れるいい機会ですよね。そして"それを日本はどうやれば打ち勝っていけるのか"と考える重要な機会でもあります。そういう経験は彼らにとって、将来のプロ選手、A代表を目指す上ですごく重要だし、この6試合を戦ったあとに、選手の経験値はものすごく上がっていると思います。しんどいところを乗り越えていくことで人間的にも成長しますし、歴代ユニバのチームがそうであったように、今回の選手たちも優勝を目の前の目標として目指しながら、自身のスケールアップというのを目指して欲しいですよね。Jリーグに進んだ若手の選手がこれだけの国際経験を積めることはそうないですよ。これは大学に来た選手だからこそ得られるものであるし、間違いなくかけがえのない財産になる。もちろん大学に来た選手の中でも一握りですけど。そういう貴重な機会の中で自分自身のサッカー観をもっと大きくしてほしいなと思います。


ーユニバーシアードの位置づけはどういう風に考えていらっしゃいますか?

大学サッカー界そのものがこの国のトップリーグに多くの選手を排出していますよね、リーグでは40%くらいでしょうか。22歳で初めてプロになって、A代表になって世界と戦うと。そんな国はまずないですよ。世界でいえば日本と韓国だけかもしれないですけど、ヨーロッパや南米の大学サッカーってその国のトップと繋がっているわけではないので、そう考えると、日本のプロリーグや代表の育成というところにおけるこのユニバーシアードというのは、過去に出場した選手がどうなっているかを見れば、どれだけ重要な選手を育てる機会になっているかは明白です。大学にとっては過去5回の優勝というのは大きなプライドになっていますし、我々は自前の大学の選手・スタッフだけでこうやって世界のトップになって結果を残している。この素晴らしい伝統というのは、日本サッカー界は失ってはいけないものだと思っています。注目度はやっぱり低いかもしれないけど、日本のサッカー界の中で、大学を経由してプロや代表を目指すと言う中で一つの登竜門になっているわけです。なのでこの価値とか意義をやっぱりみなさんにも理解してもらいたいし、我々もある意味色々犠牲にしている訳です。各カテゴリの代表のスタッフって、代表オンリーの仕事をしている訳ですから。今回のスタッフは、それぞれの自分のチームの仕事や他の業務もありながらも、このユニバ代表に関わってくれている。大変な労力とか多くの時間を割いてくれています。大学サッカーがそんなに、潤沢にお金があるわけではない中で強化をしてきて、それがあっての結果。いい伝統ですし、この大会は日本サッカー界にとってはなくてはならないものだと、声を大にして言いたいです。そしてこの成果を評価して頂きたい。


日本サッカー界における大学サッカーの地位は上がってきている

ーJリーグ立ち上がりの当初は育成期間としてカウントされていなかった中で、また改めて大学の育成期間としての価値が認められてきて、大卒Jリーガーも増えてきています。

Jの下部組織はトップチームに供給できるような人材を輩出するということを使命としてやっていますし、その質を上げることに努力するだろうとは思います。ただ日本の選手の場合は、18歳までで能力が決定的に完成しているかと言われると・・・僕はまだまだだと思います。第二のゴールデンエイジとか、ラストゴールデンエイジとか言われている通り、18歳からあと3年間んくらいのところで、肉体的・精神的な強さを身につけなければいけない。なので18歳の選手の評価が将来の評価に一致するとは限らない。なのでこの大学というカテゴリは日本サッカーにおいて特殊であって、日本人の特徴的には大事になってくるんですよね。Jリーグサイドも18歳の、実力が不確定な選手を獲得するよりは、22歳で経験をしっかり積んでいる選手を獲る方がいいと。それが答えなんですよね、それだけ期待をされているわけですし、今回のユニバ代表は20人なんですけど、Jに入っているのが60名だとするとここ意外にも40名は生まれるわけです。なのでこの20名は当然ですけど、メンバーが確定するまでの過程で選考されていた選手たちも数多くプロに入って行くと思います。そして、国のサッカーを大学サッカーが支えることになると思います。選手だけでなくフロントや指導者として、大学サッカーで育った人たちが日本のサッカーを支えています。そういう意味では世界に例がない育成組織であり、日本にとっては重要なカテゴリにあるのだと。そういう風に認識されていると思いますね。

ー大学の選手の特徴というとどういう点でしょうか。

高校からダイレクトにプロに行った選手に比べて、自己分析力というか、自分の長所も短所もある程度きちんと分析する力を持っていると。超スーパースターではないかもしれないけど、色々な戦術に適応できる、多用な理解力を持っているとは。

ーロンドン五輪の際、プロアマ混在という状況下で、協会内における大学サッカーの地位の低さというものが感じ取れたときがありましたが、日本における大学サッカーの地位は高くないと感じるのでしょうか。

いや、実は新しい技術委員会で自分が大学代表として話してくれと原技術委員長に言われています。協会もロンドン五輪を通じて大学の価値を感じてくれたと思いますし、それもあってこういう機会をくれた。なので、アンダー世代にもっと大学生を絡めたいですよね。そういう意味ではU-18の代表監督に鈴木さん(政一・前日体大監督)が選ばれたのは大きいと思います。U-18、U-19、U-20というところを単にアンダーカテゴリの代表スタッフで動かすのではなく、大学のスタッフも関わりながらやってくださいと。そういうことも言われました。それに今は大学が低く見られているとか、そういった感じはないですね。以前に比べると認識も変わってきたので、それに答えられるような人材を輩出していきたいです。

ー今後大学サッカーはどういう風に進めばいいと考えていますか?

オリンピック世代にとって、U-22のアジア選手権がオリンピックの予選になります。なので今まで以上にU-22,ずばり大学の世代、Jの若手も入ってくるとは思います。大学に入って1,2年から試合に出て経験を積んでいく選手がいるでしょうから、そういったカテゴリを超えて、永井や山村がステップアップしていったように、他の選手も続いて欲しい。彼らが特別だった訳ではないんです。そう感じて欲しい。そういう選手をこれからも、日本のU-22カテゴリのところに送り出さなければいけないと思います。オリンピックの代表を出していいきたいという思いはありますね。

【writer】
CSParkサッカー班
【プロフィール】
CSParkの大学サッカー取材班です。