「レッドブル」創業者の孫がひき逃げで逮捕も大金払いすぐに保釈

写真拡大






大富豪の祖父を持つ孫がフェラーリFFを運転し、バイクに乗った警官をひき逃げした。衝突後、数百メートルほど引きずられた警官は、首の骨を折って死亡。その後、孫は財力にものをいわせて、身代わりの人物を警察に出頭させる。さすがに身代わりの送検は見送られた。その後、逮捕された孫は、すぐに保釈金の50万バーツ(約125万円)を支払って帰宅した。




この事件がいま、タイで話題になっている。孫の祖父は、F1などで名の知れたドリンク剤「レッドブル」の創業者である。孫の一族であるユーウィタヤー家の資産54億ドル。孫が乗っていた車は、スポーツカーの専門メーカーであるイタリアのフェラーリが初めて販売した4WDで、日本で買えば3200万円の高級車だ。




2012年9月4日付のロイターが「レッドブル創業者孫のひき逃げ、タイの『エリート免責文化』浮き彫りに」という記事で、この事件を報じている。記事によれば、この事件を受けて「富豪や政治エリートは罰を受けないという文化が再びはびこるとの懸念が、ネットユーザーらの間で広がっている」と言う。




タイの地元紙「バンコクポスト」のコメンテーターが、事件について解説する。「これらの事件の共通点は罪を犯した人物が『どうすれば処罰を免れるだろうか』と即座に考えること」であり、「何を知っているのかではなく、誰を知っているかだ。これはもう文化になってしまっている」。




さらに、「国民は金持ちとコネがある人間は、処罰から逃れられると思っている。国民はうんざりしているが、それを受け入れている」と指摘する。つまり、タイでは「エリート免責」が文化となっており、国民はそれを不満に思いながらも、自分の力ではどうにもならないので受け入れざるをえない、と言うことである。




エリートや金持ちには、カネとコネがある。誰かに何かを優遇させたり、免責させたりするときに、彼らはそのカネとコネを総動員する。すると、その誰かはエリートや金持ちを優遇し、免責してしまう。すくなくとも東南アジア地域の国々では、そんなことが日常茶飯で行われており、確かに「文化」の域に達していると言えなくもない。




だが、日本であってもエリートや金持ちを優遇したり免責したりする文化は存在する。巧妙に隠されることが多いから、あまり表に出ないだけの話である。いや、その文化は東南アジアと日本だけに存在するのではあるまい。では、なぜ巧妙に隠そうとするのかと言うと、それはカネとコネで優遇されたり免責されることが「あさましい」ことだと、彼らは分かっているからだ。




カネとコネは、人の心を変えてしまうような魔力を備えたものである。それを使って人を自分の言いなりになるようコントロールするという行為は、たいてい例外的であったり脱法的であったりする。本当ならできないことをカネとコネで実現しようとするのは、ズルい行為である。ズルさを知っているのにそれをやったら、まわりから「あさましい」と批判されても仕方がない。




エリートや金持ちの側が、カネとコネを使った優遇や免責に関して、どれだけ「あさましい」という自覚があるかどうか。その自覚の度合いが、国によって違うだけの話であるように思う。自覚があれば、彼らはこっそりと密やかに、優遇され免責される。だから、国民はそれほど騒がない。一方、自覚がないと、タイの事件のようになり、国民から批判されてしまうのである。




(谷川 茂)