サッカー韓国代表の朴鍾佑選手が、ロンドン五輪の日本戦の後に島根県・竹島の領有権を主張するメッセージを掲げた問題で、韓国サッカー協会(KFA)会長が苦しい立場に追い込まれている。日本サッカー協会(JEA)へ送った手紙を「謝罪ではない」としていたが、実際は違っていたようだ。

朴選手を擁護すべき立場のサッカー協会トップ自ら「過ち」を認めたような表現に、韓国世論は怒り心頭。国会議員まで登場して「KFA会長の国籍はどこなのか」と問い詰める始末だ。

「五輪の試合後における、スポーツ精神に反した浮かれた行為」

「五輪の試合後における、スポーツ精神に反した浮かれた行為」

2012年8月13日付でKFAの趙重衍会長からJFAの大仁邦弥会長に送られた書簡のタイトル部分には、こう書かれていた。続けて「英国カーディフで8月10日に行われた日韓戦」とカッコで記されている。

この書簡は韓国の主要紙、中央日報が入手、公開したもの。文面は英文で、趙会長のサインもある。「行為」の具体的な記述はないが、これまでのいきさつから、朴選手が「独島(竹島の韓国側の呼称)はわが領土」とのメッセージが入った紙を持ってピッチを歩き回ったことなのは明らかだ。国際サッカー連盟(FIFA)は、これが五輪憲章で禁じられている「政治的な宣伝活動」にあたるのではないかとして、朴選手の銅メダルを保留、調査している。

趙会長は当初、この書簡が日本に対する謝罪文ではないと主張していた。本文を読むと、「KFA会長として、五輪サッカーで起きた出来事」については、「遺憾、残念に思う」という意味の「regret」という語句を使っていた。確かに、直接的に「謝罪する」を表す「sorry」「apologize」という動詞を避けているので、ここだけ拾い出せば「謝っていない」と言い張れないこともない。

だが、最初に「スポーツ精神に反した行為」とある以上、KFA側が朴選手の行動をネガティブにとらえていたと解釈できる。それを踏まえて用いた「regret」は文脈上、「誤った行為」についてJFAにわびるための表現とみられても仕方ないだろう。本文では朴選手の行動が「政治的な目的は一切なく、偶発的に起きたもの」と弁解したうえで、日韓のサッカー協会のこれまでの友好関係を踏まえて「ご理解のうえ寛大さを示していただければ大変ありがたい」と、低姿勢のトーンで結んでいる。

日本に対して「弱腰」な姿勢では、朴選手の件にとどまらず、竹島の領有権という国家レベルの神経質な問題に影響を及ぼす恐れがある――韓国当局はこう警戒したのかもしれない。趙会長は8月17日に開かれた韓国国会の委員会に呼ばれ、与野党の国会議員から厳しい質問を浴びせられた。

「あなたの国籍はどこなのか」

複数の韓国メディアによると、趙会長は、韓国の五輪委員会である大韓体育会(KOC)の朴容晟と相談し、FIFAが「事件」の当事者である朴鍾佑選手の調査に着手したこともあって「JOCとの関係を維持するために」書簡を送ったのだという。ただし委員会の席でも「謝罪ではなく経緯の説明」と従来の弁解を繰り返した。

だが議員側は収まらない。「朴選手の行為は五輪憲章違反ではないのに、日本側に低姿勢である必要があるのか」「反スポーツ的、と言ってしまうと我々が誤っていたことを認めることになる」などと問い詰め、趙会長に対して「あなたの国籍はどこなのか」とまるで裏切り者扱いだ。趙会長は「騒動を起こして申し訳ない」と議員にわびたうえ、時期が来れば責任をとる可能性を示唆した。

インターネット上でも、趙会長への批判が並ぶ。ツイッターを見ると「『独島セレモニー』のどこがスポーツ精神に反しているんだ」「親日派(の会長)は今すぐ辞任しろ」「魂の抜けたゴミみたいなヤツ」と、ハングルの書き込みは手厳しい。

KFAは、その「独島セレモニー」について「五輪で銅メダルという韓国サッカー史上初の快挙となったことで有頂天となったがゆえのハプニング」と書簡で釈明し、朴選手から銅メダルがはく奪されるのを何とか防ぎたい様子だ。必死さは、8月16日にKFAの事務総長が経緯を説明しようとスイス・チューリヒにあるFIFA本部をいわゆる「アポなし」で訪問した事実からも伝わってくる。だが事前の約束を取りつけていなかったため、朴選手の件を調査している規律委員会のメンバーは全員不在だったという。事務総長は「FIFAの職員に直接説明した」と話したが、勇み足だった印象はぬぐえない。9月中旬までにはFIFAから何らかの調査結果が出る模様だが、電撃訪問の効果が期待できるかどうかは不明だ。