“上半身水虫”トンズランス菌が日本を襲う
この夏、新型の白癬菌「トンズランス菌」が日本で大流行の兆しを見せている。正式名称は「トリコフィトン・トンズランス菌」。足ではなく顔や首、頭に好んで感染し、特に頭皮への感染は患部がごっそり脱毛してしまうことすらある。
もともと中南米に生息していたとされるトンズランス菌は、１９６０年代にアメリカに持ち込まれ、米軍の派兵に伴って東南アジア、そして１９９０年代には韓国、中国にも広がり、２０００年頃から日本でも柔道やレスリング選手の間で感染が見られるようになった。
そんなトンズランス菌が、ひと足先に中国で猛威を振るっている。現地の医療事情に詳しい中国人ジャーナリストの戴世��氏が語る。
「中国では、猛烈な勢いで感染が広がっています。例えば広西チワン族自治区南寧市の李氏は、頭のカユみに耐えかねて病院に行ったら、着用していたカツラから大量のトンズランス菌が検出されたそうです。幸い早期発見だったため、残り少ない髪は守られましたが、人前でカツラを外してかくこともできず地獄の苦しみだったとか」
さらに戴氏が続ける。
「日本と同じく梅雨のある上海では、６月以降の症例が急増しています。上海市第二病院皮膚科の一日の診察のうち、約２０％が水虫関係の患者。頭や首、手の指、お尻などトンズランス菌と思われる症例は例年の数倍です」
トンズランス菌の流行は、中国に限った話ではない。実は、この菌の好みは日本の“節電サマー”の室内条件と見事に合致しているのだ。同病院のソン・ウェイミン皮膚科主任はこう警告している。
「トンズランスのような新型水虫菌は湿度８０％以上、２５度から２８度の温度を好む。今はまだ流行の序盤です。梅雨明けの約1ヵ月後に発症するケースが多いので、カユくなったら早期の検査を勧めます」
水虫といえばオヤジという発想は危険だ。国内大手製薬会社の水虫薬開発担当主任Ｂ氏は、ひと夏のアバンチュールやらワンナイトラブやらも要注意だという。
「日本人の水虫感染率は５人に１人といわれ、今も増え続けています。主因は女性患者の急増。最近はブーツやハイヒールなど、女性がムレる靴を履く機会が多い。トンズランス菌にしても、つい整髪料や化粧品を落とさず寝てしまうなど、肌や頭皮が不潔になりがちなのはむしろ女性かもしれません」
今の日本は、トンズランス菌にとってパラダイス。せめて洗髪、洗顔に努めたい。
（取材・文／近兼拓史）
■週刊プレイボーイ３３号「毛が抜ける“上半身水虫”『トンズランス菌』が節電ジャパンを襲う！」より
