中央省庁のなかでも、特に大きな“力”を持っていると言われているのが財務省だ。元財務官僚で、『「借金1000兆円」に騙されるな!』(小学館101新書)の著者でもある嘉悦大学教授、高橋洋一氏がその理由を説明する。

「財務省は予算を作るので、新人の頃から政治家との接触が多くなります。そうすると得意な政治家というのができてきて、おのずとこの人にはこの官僚を、というのが決まってきます。政治家の側も、『こんな資料が欲しい』と頼むのに、頼みやすい人ができてきて、それで関係が強くなる。自然に担当のようになるのです」

 政治家にとって頼れる存在、それが財務官僚というわけだ。高橋氏が続ける。

「財務省の官僚が若い頃から政治家と接触している端的な例が“質問取り”です。国会の前日に、それぞれの省庁の担当者が議員のところに行き、あらかじめどういう質問をするのかを聞くのが“質問取り”。自分の役所の大臣に対する質問なので絶対に間違えられません。そのため、ほかの役所はベテランが担当しますが、財務省だけは1年目の新人が取りにいく伝統がありました。これは政治に慣れるための教育のひとつです。一方で、新人なのでやはり間違えてしまいますよね。でも財務省の幹部はまったく平気なのです。読めば間違っているとわかるし、そうしたら質問する政治家に直接電話をして確認することができるんです。要は携帯で連絡を取り合える。それくらい財務省の幹部は政治家とのコネクションがあるのです」

 さらに財務省の力は、政治家だけでなく経済界や国際金融機関にも及んでいるという。

「例えば、昔は通産省(現・経産省)に近かった経団連は、今や財務省にべったりです。経済官庁といえば“大蔵・通産”といわれたものですが、経産省が地盤沈下したせいでそうなったのです」(元経産官僚で慶應義塾大学大学院教授の岸博幸氏)

「IMF(国際通貨基金)や世界銀行が『日本の財政は危機的だ』と言ってるという報道があります。例えばIMFに4人いる副専務理事のうちひとりは日本の指定席で、財務省出身者がなります。その副専務理事の下には理事というポストがありますが、このうちのひとりも財務省出身者。その理事室にいる数人は財務省から出向しています。日本の記者はそこへ行って日本語で取材をしている。だからそういう報道になるのです」(前出・高橋氏)

 国の予算を預かる行政機関のため、政治、経済、国際のあらゆる面で強い力を持つ財務省。だが、そうなったのには、政治家の無能にも一因があると、前出の岸氏は言う。

「ポイントは、財務省の主張はまともな政策論でもあるということです。役所も政治家も、独自の主張はあって当然。問題は財務省の根回しを受ける側に主張がないことです。特に政治家はいろいろな話を聞いて自分で判断をすべきなのに、財務省の主張だけを聞く。政治家の無能や怠慢の責任は重いと思います」

 消費税増税に一直線の野田首相がいい例ということか。さらに、財務省に歯向かうと、国税庁が税務調査に入る“制裁”があるというウワサまで伝わっているが?

「国税庁は財務省と別組織ですが、国税庁の幹部はほとんどが財務省のキャリアです。あうんの呼吸でそこに税務調査をされたら……。もちろん証拠はないし、一種の都市伝説です。でも、それぐらい財務省には力があるということなんです」(前出・高橋氏)

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