ベンチに下げる選手と異なるポジションの選手をピッチに送り込む交替。すなわち戦術的交替の重要性について、ブログやメルマガで何度か述べてきたが、退場者が出た場合は、戦術的交替は否応なく行われる。ベンチは10人に相応しい布陣を組み直そうとする。監督の腕の見せ所が突然、到来することになる。

もちろん、そのままで戦うという手もある。96〜97シーズン、その時、ウディネーゼの監督を務めていたザッケローニがそうだった。対ユベントス戦。中盤フラットの4―4―2で戦っていたウディネーゼは、ディフェンダーに退場者を出した。

だが、ザッケローニはディフェンダーを投入せずにそのままの布陣(3―4―2)で戦い、3―0で勝利を収めた。ザック式3―4―3が誕生したきっかけはここにある。思わぬ副産物を生んだわけだが、大抵は、前線の選手を削るのが常識的な作戦だ。退場者がディフェンダーの場合は、フォワード系の選手を下げ、ディフェンダーを新たに1人投入するのが一般的だ。

この瞬間、プレッシングは利きにくくなる。前線に人が少なくなるので、高い位置でボールを奪いにくくなる。前に人を多く掛ければ、尻軽さはいっそう目立つことになる。というわけで、10人になった瞬間、プレッシングを断念し、後ろを固める守備的サッカーに変更するのが常識的な作戦だった。

だが、それが必ずしも常識ではなくなっているのが、現代サッカーだ。僕が時代の流れに気づいたのは4年前。チューリッヒで行われたユーロ2008のグループリーグ、フランス対イタリアだ。前半25分、フランスはDFアビダルの赤紙退場で10人になった。注目はルメール監督がそれまでの4―4―2をどう変えるかだった。

交替でベンチに下げたのは、左サイドハーフのナスリ。アンリ、ベンゼマの2トップのどちらかではなかった。FWテイストの強い左サイドハーフのゴブーでもなかった。そして以降、ルメール監督は彼ら3人が前線に張る4―2―3を採用した。サイドバックにプレッシャーを掛けることを優先する、後ろで守らない作戦を取ったのだ。

すでに3FWは、この何年か前から一般的になっていたが、欧州で10人になっても3FW態勢を維持することが一般的になったのは、ちょうどこの頃からだったと記憶する。プレッシングの浸透、サイドの重要性を改めて実感させられた記憶がある。

こんな話をここで持ち出す理由は、先日、9人の清水エスパルスが、11人のFC東京に勝利した一戦を、見てしまったからに他ならない。

清水の勝因は、ゴトビの采配にあった。10人になった時、9人になった時、それぞれ的確な布陣を選択したことにある。逆にFC東京はその選択を誤った。まさかの結末には確かな理由があったと僕は思う。

2008年フランス代表のルメール采配を想起したのは、後半12分、フランサが退場になり10人になった瞬間だ。ゴトビは布陣を4―3―3から4―2―3に変更。ほどなくすると高木と高原をいっぺんに投入し、3FWの態勢を確固たるものにした。攻撃的な姿勢を堅持したのである。後ろに下がらなかったことが、FC東京の調子を狂わせた最大の原因だと言える。

清水がアレックスの退場処分で9人になったのは後半27分。布陣を4―1―3に変更した。高木、高原、大前の3FW態勢を維持したまま、残りの時間を戦おうとした。

決勝ゴールが生まれたのは、その5分後、右ウイングの位置に流れ、上手く時間を使いながらボールをキープしていた高原が中央に折り返すと、そこには高木が走り込んでいた。FC東京のDFはこの時、こんなハズじゃないと完全に焦っていた。高木のシュートがゴールの枠内に飛び込む必然は整っていた。