ニュースが少なくなる年末年始の新聞紙面で存在感を増すのが、特集記事だ。当然、その多くが東日本大震災に関するものだが、異色なのが朝日新聞と毎日新聞だ。両紙は偶然にも、同じ日に「リスク」という言葉をタイトルにかかげた特集を始めた。

朝日新聞の場合は、「ゼロリスクは本来ありえない」といった声を紹介、科学的な知見と国民の不安が一致しないことを指摘するなど、一歩踏みこんだ内容だ。

全頭検査は「本当は科学的な話ではあまりなかった」

朝日朝刊連載は、「リスク社会に生きる」というタイトル。2011年12月30日の1面で「放射能列島を分断する」と題して被災地のがれきを受け入れようとして佐賀県武雄市に対して、県外から今日は脅迫を含む苦情が寄せられ、方針を一時撤回せざるを得なくなったり、放射性物資の量が基準を大きく下回っていても「福島県産というだけでブレークを踏まれる」(農業生産法人社長)といったエピソードを紹介。

3面では、01年にBSE(牛海綿状脳症)に感染した牛が発見されたことをきっかけに出荷前の「全頭検査」に踏み切ったケースや、09年に新型インフルエンザが上陸した時の機内検疫について取り上げている。

BSEの際に当時厚生労働相だった坂口力衆院議員は、

「(全頭検査は)本当は科学的な話ではあまりなかったんです」
「科学的な根拠と、人の心の動きは次元の違う話。それは放射能に対する思いだって一緒でしょう」

と、科学的な知見が国民の安心につながらないことを指摘。

また、発がんを招く喫煙について、専門家は「危険度1位」と評価していたのに対して、市民は8位と評価していたという調査結果も紹介している。この調査では、原子力については市民は「危険度1位」とみなしていたのに対して、専門家の評価は20位。専門家と市民のリスク評価に大きくズレがあることが浮き彫りになっている。

特集では、

「放射線を恐れて閉じこもれば、別の健康リスクを招く。ゼロリスク求め続ければコストは膨らむ。大切なのは、上手に怖がるさじ加減を、自前で見つけることなのかもしれない」

とも提言している。

12月30日の紙面は「プロローグ」という位置づけで、連載は12年1月1日の社会面の紙面で本格スタートするという。

これまでは「安全神話」の連載や脱原発の主張が中心

朝日新聞の記事はこれまで「脱原発」の主張が中心で、朝刊で人類に火を与えたとされるギリシャ神話の神族の名を冠した「プロメテウスの罠」、夕刊では「原発とメディア」という連載も続けてきた。いずれも「安全神話」が作られた背景に迫ったもので、今回の「リスク連載」が始まったことに対して、「風向きが変わった可能性がある」「マッチポンプ」と、さまざまな受け止め方があるようだ。

一方の毎日新聞も「3・11を経て リスクと向き合う」と題した連載を始めた。同じ「リスク」という単語を使っていても、両紙では大きく方向性が違っている。

毎日連載では、12月30日には日本の火山が大噴火する可能性、31日には「震災後も自然災害への備えを変えていない人の46%に上る」とする世論調査の結果を取り上げている。

大手新聞では「脱原発」派が朝日と毎日で、読売、産経、日経はどちらかというと原発に理解を示していた。