1843年に創刊されたイギリスの大衆紙ニュース・オブ・ザ・ワールド(NOW)が組織的な電話盗聴疑惑、及び英捜査当局への賄賂疑惑で廃刊となってから1週間以上が経過した。だが事件は収束するどころかさらなる展開を見せており、イギリスのメディアの在り方が問われている。

イングランド元代表DFガリー・ネヴィルが、「試合後マスコミに叩かれることを恐れる選手は多い」と語ったように、英国の大衆紙はセンセーショナルな見出しとゴシップ記事が“ウリ”であり、スクープを取れるなら手段を選ばないという風潮がこれまであった。


しかしながら、公私共に注目を浴びるサッカー選手らセレブ(著名人、英王室関係者、政治家など)が盗聴ターゲットとなっただけでなく、その対象がロンドン同時多発テロ被害者の家族など一般人にまで及んでいたこと、しかもその被害者数が4000名を超えていたことが明らかになったため、世間からの厳しい批判をかわせなくなったNOW紙は、7月10日をもって廃刊となった。

だが同紙を巡るスキャンダルは各方面に飛び火し、未だ収束の兆しは見えない。まず2003年から07年までNOW紙編集長を務め、その直後から今年1月まで英官邸報道局長を務めていたアンディ・コールソンの逮捕により、彼の元上司に当たるデイヴィッド・キャメロン首相に非難が集中。メディア王ルパード・マードック氏(注:米ニューズ・コーポレーション社を保有し、NOW紙を発刊していた英国の現地法人ニューズ・インターナショナルを傘下に収める)との関係が問題視されているほかにも、ニューズ社によるBスカイB(注:イギリス在住の人にとって、TVでサッカー観戦するには必須の衛星放送局。プレミアやチャンピオンズリーグの試合生中継はもちろん、ラ・リーガなども網羅)の買収計画が議論の的に。さらに1週間後の17日には、元NOW紙編集長のレベッカ・ブルックスが組織的盗聴の疑いで逮捕されたのに続き、ロンドン警視庁のトップを務めるポール・スティーブンソン警視総監が同紙との癒着疑惑の責任を取る形で同日電撃辞任している。

一連の出来事を受けて、英国議会は国会期間を延長して集中審議を行う運びとなり、今後ルパード・マードック氏をはじめとする事件関係者が召喚される見通しだ。販売部数と広告収入の激減で存続が危ぶまれる英国の新聞紙は少なくないが、情報を得るために私立探偵やハッカーを雇い、さらには捜査当局に賄賂を贈って数々の疑惑の初動捜査を遅らせたNOW紙の行為は英メディア全体の信用を失わせるものだ。プライバシーの問題、そして大衆ジャーナリズムについて徹底的に議論されるべきである。NOW廃刊でマードック帝国が崩壊するか否か、事件の全容が明らかになるまでもう暫く時間がかかりそうだ。