2020年には電気料金70%値上げも――原発事故を受け、先行き不透明な今後の電気料金について、こんな試算をまとめたコンサルティング会社も出てきた。70%かどうかはともかく、値上げについては日本経済への影響を懸念する声が根強い。電力会社や値上げを認可する立場の政府はどういう判断を下すのだろうか。

   「東電に徹底的な自己努力をお願いし、値上げせずにやれる絵を描くよう求めたい」。菅直人首相は2011年5月23日の衆院復興特別委員会で、東電の賠償問題に関連した電力料金値上げについて、こう考えを示した。

政府は「16%増」の試算

   東電の電気料金について、「値上げせずに…」とは政府関係者の口からよく出てくる言葉だが、これは巨額賠償分に限定した話だ。賠償以外の要素である、原発から火力発電への切り替えに伴う燃料費の上積み分について、そのまま電気料金に転嫁すれば約16%の値上げに相当するとの試算を政府はまとめている。

   「16%」を丸ごと転嫁するかどうかは不明だが、転嫁すること自体については、政府は容認する方針を固めた模様だ。もっとも、原発事故の賠償額は規模がはっきりせず、本当に東電が「値上げせず」に賠償額を捻出できるかどうかは不透明で、値上げ幅が「16%」を上回る可能性も否定できない。

   電力会社の値上げは、東電だけの問題ではない。「関電、値上げも視野」(朝日新聞、5月13日配信)などと報じられている。電力会社各社は、東電の賠償を支援する新設機構へ負担金を拠出することになり、この負担分が電気料金値上げ圧力となると指摘されている。

   また、原発の安全性への不安の高まりから定期点検中の原発の稼働再開にめどが立たないなどの影響も出ており、東京電力と同様の構図で電気料金への転嫁が問題になってくる可能性もある。

   そんな中、コンサルティング大手の「A.T.カーニー」(日本オフィス、東京都港区)は5月23日、電力コストなどに触れた国内エネルギー政策に関する「緊急分析」を発表した。東電に限定したものではなく、日本全体の議論をしている。

「国際競争力」「国外移転」に懸念の声

   単純化して引用すると、原発依存度の高低などに応じ「現実的な」4段階の選択肢を示した。うち、最も再生可能エネルギー(風力など)重視の「原発全廃+再生可能エネルギーの最大活用+LNG(天然ガス)による補てん」の場合、2020年の段階で電力コストは「70%増」と試算した。単純にすべてを電気料金に転嫁すれば「料金70%増」ということになる。

   同分析は、この選択肢では「国内投資減速」「産業空洞化のリスク」などの影響が出ると懸念を示し、グラフ上では「×」印をつけている。

   逆に、選択肢中では最も原発重視の「原発への段階的回帰(新規設置も)」の場合は、4%増にとどまるとしている。残り2選択肢では、「原発の既存設備有効活用(現状保留)」では5%増、「古い原発から順に廃炉+再生可能エネルギーへの段階的シフト(略)」は48%増としている。同分析の分類では、「原発全廃+再生可能エネルギーによる補てん」を「原発全廃」としており、現実的ではないとして選択肢のうちに入っていない。また、コストだけでなく安全性など6項目でそれぞれ評価している。

   電力料金値上げについて、日本商工会議所の岡村正会頭は11年5月12日、記者会見で「国際競争力という面で非常に多くの問題が発生する」として、企業の国外移転などに懸念を示した。「極力値上げしないよう努力して頂きたい」とも注文した。

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