一昨年9月の愛媛監督就任から17ヶ月、昨季は11位も12勝12分12敗とチームをJ2・5年目にして最高勝率に導き、リーグ2位タイの34失点の堅守を引き出した指導力も光ったイヴィッツァ・バルバリッチ監督。しかしその一方で、彼自身のメソッドはこれまでほとんど語られることがなかった。

そこで今回、「Jマガ」ではスカパー!愛媛中継解説でおなじみの大西貴氏の協力を得て、特にこれまで謎に包まれていた「バルバリッチ戦術」に斬り込んだスペシャル対談を敢行。お互い愛媛を知る者、そして指導者同士だからこそ語り合えるダイナミックな「クラブ論」、「日本サッカー観」と、サッカーの見方が変る「戦術論」を存分に堪能してもらいたい。

バルバリッチ監督

■「J1昇格」へのクラブ熟成論
大西貴氏(以下、大西)――まず監督に就任したとき、日本人には何が足りないのか、そしてどのようにそこをカバーしようとしたのか教えてもらえますか?

バルバリッチ監督(以下、バル)「私の就任当時、チームには非常にけが人が多かったし、試合に出ている選手についてもコンディションは本来のフォームではありませんでした。ただ、その中でもディフェンスについてはブロックを作っていけば、失点は減るだろうとは思っていました。

そして2009年の残りシーズンを戦って一番思ったのはJ2リーグの実力が拮抗していること。ですから、昨シーズンはディフェンスをしっかりして、けが人を出さないようにすれば8位以内はいけるだろうと思い、目標を掲げてスタートしたわけです。その部分において今年はけがの度合い自体は少なくはならなかったものの、骨を折る、筋肉が切れるなどの大きなけががなかったことで、フィジカルの面においてはある程度改善が見られたと考えています。

ただ、攻撃面での決定力は明らかに欠如していた・・・まあ、これはこれから改善していかなければならないのですが。あとは試合運び。せっかくうまく試合を進めていても、相手にペースを渡してしまうと、それまでできていたことができなくなるとか、いいポジションを取れなくなることが多かったです。

もちろん我々は勝つつもりで試合を始めるのですが、90分ある試合の中では、先制してそのまま逃げ切るシチュエーションもあるでしょうし、相手が先制して自分たちが追いかけるパターンも当然考えられるわけです。それがサッカーですから、選手たちはこのようなあらゆる状況を想定しなければいけないのですが、我々はスコアがネガティブに動いたときに普段できていたことができなくなる問題があります。特に先制されたときに人任せのプレーになり、混乱して相手に主導権を渡してしまっています。そこについては私も試合中や練習中に生じたときに、怒鳴ったりするようにはしています。ただ、この行為はいい方向に働くことも、悪い方向に働くこともあるのですが。

それでも間違いなくここで言えるのは、選手たちは全力を尽くしてやっていること。そこに関して不満はないです。

幸い愛媛には巨大な『のびしろ』があります。アカデミー組織やサポーター、クラブのスタッフも現時点で最大限努力していますし、気持ちを持って仕事に取り組んでいます。さらに愛媛では子どもたちの来客が多い。たとえば(昨年12月5日の)ファン感謝祭でも多くの子どもたちがいらっしゃっていました。これはクラブにとって大きな「のびしろ」や「可能性」となりえます。クラブが長期的なビジョンに立って子どもたちがホームゲームやイベントへ運ぶ習慣を付けてもらえば、そのうちの何パーセントかは大人になっても足を運んでもらえる。さらに子どもたち自身にとっても小さいときからスタジアムに足を運んでもらえば、満足感を体験してもらえることになりますし、サッカーに足を運ぶ体験が人生の一部になるわけですから。

ただし同時に私たちは自分たちのクラブが現在どのくらいの経営規模にあるのかも忘れてはいけません。

現時点での愛媛は財政的にまだ弱い。仮に今のウチが4位とかいい成績を上げた場合でも、良い選手は他チームからいい金額でのオファーが来れば、そちらに移籍してしまうでしょうし、翌シーズンは0ないしマイナスから始めることになりかねない。だからこそ私たちは観客動員数を増やし、スポンサーを増やして財政的な基盤を整え、『J1昇格』という目標に向かうためにも先ほど述べた問題を計画的に、徐々に一年ずつ確実に強化しなければいけませんし、そこには中身も伴わなければならないのです」

大西――ではクラブが掲げる「J1昇格」という目標に向かっては、今どのようなアクションをする必要があるのでしょうか?

バル「人間は『こうしたい』、『これを望む』ということはいくらでも言えますが、『どうやって』という手段がなく、中身のあるプロセス、計画なしには欲しいものは手に入らないものです。1年でJ1にすぐ昇格することは無理です。3年から4年の計画の中で、クラブ自体が確実に力をつけていって、その後に「J1」が机上の空論でなく、現実味を持ってくるようになってくるものです。もちろんサッカーは数学や化学のように絶対はないので、アイディア、ビジョンを掲げたからといって必ず成功するわけではありません。ただ、ピッチ内外でクリアなアイディアやを持ち、しっかりとハードワークすれば失敗のリスクを小さくすることはできます。

そして愛媛県や県内各市町といった地域を『J1昇格』というムーブに巻き込むためには、インフラの整備が不可欠です。特にスタジアムは絶対条件でしょう。ただし、そのスタジアムを作る際には我々のためだけでなく、商業複合施設など、テーマパークの中心としてスタアジアムがあることが重要になります。そうなれば街の活性化につながるわけですから」

(全4回予定。続きはJマガ公式携帯サイトで)

■対談者紹介
大西 貴
1971年・愛媛県生まれ。南宇和高では主将として1989年度の第68回全国高校サッカー大会を初制覇。福岡大を経て1994年に広島へ入団し主にDFとして広島で3年間、京都で1年間プレーしJ1・21試合に出場。広島時代はマンチェスター・ユナイテッドへの短期留学も経験する。そして1998年には当時四国リーグ所属だった愛媛へ里帰り。2001〜2003年には選手兼監督・2004年には監督専任で4年間JFLでも采配を振るった。その後は2年間の愛媛ユース監督経験を経て、現在は愛媛県立松山北高コーチを務めつつ、スカパー!でも愛媛中継の解説者として活躍中。日本サッカー協会公認A級ライセンス保持。

■著者プロフィール
寺下 友徳
1971年、福井県生まれの東京都東村山市育ち。学生・社会人時代共に暗中模索の人生を経験した末、2004年にフリーライターに。さらに2007年からは愛媛県松山市へと居を移し、「週刊サッカーダイジェスト」、「中学サッカー小僧」、「スポーツナビ」、「高校野球情報.com」、「ホームラン」、「野球小僧」など様々な媒体に四国のスポーツ情報を発信している。

携帯版閲覧方法

『サッカーを読む! Jマガ』公式携帯サイト

QRコードでのアクセス

docomo_qr



携帯各キャリア・メニューからのアクセス
  • docomo:iMenu → メニューリスト → スポーツ → サッカー→【サッカーを読む!Jマガ】
  • au:au oneトップメニュー → スポーツ・レジャー → サッカー →【サッカーを読む!Jマガ】
  • SoftBank:Yahoo!ケータイ → メニューリスト → スポーツ → サッカー →【サッカーを読む!Jマガ】


  • 【関連記事】
    浦和レッズ フォルカー・フィンケ監督 最後の会見・後編【川岸和久】
    浦和レッズ フォルカー・フィンケ監督 最後の会見・前編【川岸和久】
    悲願のJ2昇格を果たした、ガイナーレ鳥取・塚野社長インタビュー【後藤勝】
    自らのスタイルを作り上げた香川真司【熊崎敬】