ビジョンを語り、時には自らを客観的に分析する。いかにも、優秀な人物に思えるが、ビジョンは単に持っていれば良いというわけではない。
「経営者は、ビジョンだのミッションだの目標は掲げる。だが、それを達成する手立てを考えているかというと甚だ疑問だ」(デイル・ドーテン)

ビジョンとその方法論という見方で今季のJリーグを振り返ると、湘南や京都、FC東京の低迷も必然だったと思わざるをえない。

■予想通りの結果に終わった湘南
湘南を率いた反町監督は、シニカルな表現を好むことから“和製モウリーニョ”とも呼ばれ、北京五輪日本代表監督を任されたように、評価の高い監督である。ただ、実情はまだ“将来が有望な若手監督”の一人だ。会見での話術、そして新潟をJ2に降格させなかったことが評価されているようだが、解説者と違って、監督は結果や内容が重要なのを忘れてはいけない。

新潟時代に関しても、エジミウソンという一人で15点以上叩き出すスーパーなFWがいたことが大きい。それを物語るように、日本人だけで構成された北京五輪チームでは、フィニッシュという課題を克服できず苦戦を強いられた。

「ボールも人も動くサッカーを目指す」「全員が得点を奪えるチーム」と言うと聞こえは良いが、ボールと人が動いているだけで、アタッキングサードで決定的な形を作れないのが現状だった。となると、湘南のような予算規模の小さいチームが得点を奪うのは難しい。事実、今季の総得点も少なかった。

つまり、J2降格は当然の結果で、各ジャーナリストたちの予想通りとなった。ということは、対策を練れなかったフロントにも問題があるということだ。J1残留を目指すならば、フロントはスーパーなFWを探してくるか、もしくは別の監督で臨むべきだった。

ビジョンがあっても、それだけでは結果に繋がらない。湘南のフロントは反町監督の続投をすぐに発表した。今季、思うような結果を残せなかった湘南がどのようなビジョンを描いているのか。来季、J2での戦いは非常に興味深い。

■迷走する監督人事
17位となった京都はカオスという言葉がぴったりで、来季への期待をまったく持てない結末だった。そもそも、加藤久監督(今季開幕時)は2007年にGMとして京都に招聘されている。それが連敗続きの美濃部監督の解任に伴い、暫定的な形で監督に就任することになった。ところが、加藤監督でJ1昇格という結果が出てしまったために、京都フロントはJ1でも加藤監督でいくことを決断した。

加藤監督がGMや強化委員としては優秀なのは間違いない。加茂日本代表監督(当時)ではW杯本大会に出場できないといち早く危惧していたし、加茂監督解任後のビジョンも持っていた。しかし、失礼ながら、監督としてはトップリーグで結果を残せていない。

この京都フロントの姿勢はJリーグのフロントの通例でもある。

問題のひとつに、与えられたミッションをこなす暫定監督と、中長期でチームを作る監督は別物だという認識がないことがあげられる。美濃部監督も元々は柱谷監督時代のコーチだった。もちろん、コーチから監督に昇格するというステップは常套手段であるのだが、フロントが監督と航路図のすり合わせをしているとは思えない。結果だけで万歳三唱し、重大な決断を短絡的に下してしまっているのが現状といえる。

そして、もうひとつ不思議なのが、そこまでの結果を出していない監督が何度もオファーを受けることだ。世間の常識はフロントの非常識。ゆえにサポーターが疑問に思う監督人事が横行しているのだ。

そういった意味で、京都フロントが行った人事を見れば結果は必然といえる。加藤監督を解任すると秋田コーチを昇格させ、暫定かと思いきや、監督経験のない人間にJ1残留というミッションを任せる、正気とは思えぬ人事だった。