【加部究コラム】世界トップ10とかけ離れた育成現場

日本サッカー協会は、2018年と2022年のワールドカップ招致に名乗りを挙げ、2015年までに世界のベスト10入りすることを公約している。
だが残念ながらそれを目指すための選手たちが、目標に即した環境に置かれているとは言い難い。なかでも象徴的なのが高体連に属する選手たちである。

先日高校選手権が終わったが、初出場でノーシードながら優勝した山梨学院大付属高校を例に採れば、大晦日に初戦を行ってから、年が明けて2、3、5日と6日間で4試合をこなし、その後9日に準決勝を行うと約48時間後には決勝という過密スケジュールだった。
平均すれば中1日で6試合をこなしていくわけだが、夏のインターハイとなるとさらに過酷で、決勝まで7日間で休みが1日という詰め込みぶりである。

今回準優勝した青森山田にも痛み止めの措置をしてプレーをした選手がいたそうだが、そうなることが必然の日程と言っても過言ではない。一方で大舞台に遭遇すれば、ほとんどの選手たちは故障を押してもプレーをしたいし、それに対し十分な知識と勇気を持って制する指導者も少ないのが実情だ。

また指導者は、こうしたスケジュールの中で勝ち続けることを求められるから、3年間という短いスパンで、選手にスタミナと厳しさを詰め込もうと急く。もともと高校の選手たちにはオフがないが、夏冬の長期休みに入れば隙間がないほど練習試合を組み込み、あちこちでスパイクなしの走り込みなどが実践され、それを乗り越えた末の成果が喧伝されている。
特に世界的にもコンパクトゾーンで厳しいプレッシャーをかけあう傾向が強まっていることもあり、走力ばかりを重視するトレーニングが目立つようになった。

だが現実に育成に長けたスペインやオランダなどでは、ボールなしの非効率なトレーニングは、ほとんど見られない。バルセロナのカンテラ(下部組織)でボージャン、ドス・サントス兄弟らを育てたジョアン・サルバンス氏によれば「ボール抜きで行うメニューといえば、腹筋を鍛える程度で、あとは全てボールを使い、実戦に即したトレーニングに終始している」という。

昨年小さな旋風を起こした進学校の国学院久我山の李済華監督は「年間3分の1近くがオフで、毎日90分程度の練習の中でもダッシュは最長で30mくらい」と語っていたが、その方がはるかに先端のトレーニングに近い。
逆に多くの高校で見られる長時間をかけた非効率なトレーニングは、成長過程の選手たちから疲労回復の機会を奪い、故障を誘発することになる。

欧州では「戦術、フィジカル、テクニックなどが効率的に組み込まれ、短時間で消化できるメニューが主流」(ジョアン・サルバンス氏)なのに、多くの高校では、それらを項目ごとに分けて行っている。結果的に長時間で負荷の低い練習は、現実の試合の状況からかけ離れてしまうし、さらに大人数で一斉に行う反復練習からは、なかなか判断力や個性は養われない。
もちろん大半の指導者は漲る情熱とともに選手たちを導いている。だがその多大な情熱は、効率的なトレーニングや試合日程で、絶対に選手たちを壊さないことを大前提とする先端の育成事情とは、まるで逆方向に進んでいるように映る。

日刊スポーツ紙によれば、Jリーガーの64%は高体連出身だそうである。世界に追いつくためには、その土台となる育成現場の常識を変えることが急務だと思う。(了)

加部究(かべ きわむ)
スポーツライター。ワールドカップは1986年大会から6大会連続して取材。近著に「大和魂のモダンサッカー」(双葉社)「忠成〜生まれ育った日本のために」(ゴマブックス)。構成書に「史上最強バルセロナ 世界最高の育成メソッド」。