ブックメーカー各社の予想は、刻々と微妙に変化する。久しぶりに、その一つであるウイリアムヒル社の南アワールドカップ予想をチェックしてみた。

 トップ3はスペイン(4.5倍)、イングランド(5倍)、ブラジル(5.5倍)の順。4番手アルゼンチン(9倍)との間には、大きな開きがある。日本はスロバキア、アルジェリアとともに27位タイ。日本の後ろには3チーム(ホンジュラス、ニュージーランド、北朝鮮)しかいない。後ろから数えれば「ベスト4」。なんとも皮肉なポジションだ。

 E組予想に目を転じても、日本の状況は相変わらず。オランダ0.67倍、カメルーン3.5倍、デンマーク4.5倍に対して、日本は9倍。3位デンマークとの差は日に日に開いている。

 日本に必要なのは、この状況を素直に受け入れることだと思う。自らの立ち位置をわきまえ、弱者の視点に立脚することが求められている。大きな差を詰めるためには何をするべきか。「差は少しだ。頑張れば何とかなる」ではダメ。工夫は生まれにくい。

 よく耳にする「我々のサッカーをやるだけです」も禁句だ。これを口にしていいのは強者。弱者がこの姿勢では、いま以上の発展は望めない。そもそも「我々のサッカー」とは何なのか。岡田ジャパンの平素のサッカーとは?

 平素、岡田ジャパンが相手にしているのはアジアの敵であり、B代表以下と言いたくなる手抜きの代表チームだ。日本の立場はおのずと強者になる。高いボール支配率を誇る中で試合をする。マイボールの時間の方が、相手ボールの時間より長いので、ボールをいかに奪われないか、あるいは、奪われ方が問われることになる。

 しかしワールドカップ本大会では、良くて50対50。相手にサイドを広く使われると、40対60になる可能性もある。したがって、テーマも「奪われないか」から「奪うか」に変化する。

 特に中盤にそれは当てはまる。好むと好まざるとにかかわらず、仕事の中身は変化する。それに相応しい対応が不可欠になる。予選と同じメンバーでいいはずがない。最大5人いる中盤のメンバー構成は、本大会用に考え直すべきだと強く思う。「奪う」プレイが得意な選手の比率を高めるべきなのだ。

 長谷部、遠藤、中村俊、中村憲は、いずれもパッサーだ。来るベネズエラ戦に初めて招集されることになった小笠原も然り。「平素」は彼らをメインに使ってもいいかもしれないが「本番」ではダメだ。2人で十分。この中で、ボール奪回能力に最も優れている長谷部を外せないなら、遠藤、中村俊、中村憲が、外れる候補になる。小笠原もこのグループに入る。

 逆に「奪取要員」として、加えるべきは、稲本、今野、阿部。これまでの経緯を踏まえれば、それが順当な考え方に思えるが、彼らはいずれもボランチ系だ。居心地の良い場所は真ん中になる。サイドハーフは務まらない。日本のウィークポイントもそこだ。中盤の候補選手の中に、サイドでのプレイを好む選手はほとんどいない。

 とはいえ、これは無い物ねだりではない。従来のサイドバックが、その立派な候補になる。たとえば、アーセナルのエブエはその代表格。サイドハーフでもサイドバックでもプレイできる。バルサのダニエウ・アウベスや、元バルサのベレッチもサイドハーフとして出場したことが何度もある。三都主だって、オシム監督時代、駒野の前で使われたことがある。

 サイドハーフとサイドバックの役割は、プレッシング重視のサッカーではほぼ同じ。駒野、長友、内田、徳永。日本代表にあっては、元気が最もよさそうに見えるこれらのアスリート系を、サイドバックとして使うのはもったいない。旧態依然とした発想だ。彼らも立派な中盤候補。サイドでプレイすることが苦手な日本の中盤選手の現状、プレッシング全盛の時代背景を考えればなおさらだ。

 中盤選手の定義が狭すぎる。この日本の特異性をどう是正するか。その狭い範囲の中に、優秀だといわれる選手がひしめき合う、バランスの悪い現状とどう向き合うか。その答えが見えてこない限り、1勝は難しい。僕はかねがねそう思っている。

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