米ゴールドマン社の高度な取引システム流出か:元社員逮捕

Kim Zetter


米Goldman Sachs社のビル。Saebaryo/Flickr

7月3日(米国時間)、米Goldman Sachs社で働いていたコンピューター・プログラマーが逮捕された。容疑は、株式と先物商品の高速な大量取引を高度に行なうために同社が利用するソフトウェアのソースコードを盗んだというものだ。

訴追請求状(PDFファイル)に容疑者が勤めていた金融機関の名称はないが、報道機関、そしてこの件に詳しい関係筋によると、Sergey Aleynikov容疑者は米国の市民権を取得しているロシア出身の人物で、働いていたのはGoldman Sachs社だ。

訴追請求状などによると、Aleynikov容疑者は、2007年5月からGoldman Sach社の取引ソフトウェア開発に従事していた。このシステムにより同社は、急激に変化する市場データを迅速に処理し、最新の市場条件に基づいた自動的な取引注文を行なうことが可能になった。訴追請求状によると、同社はシステムの開発に大量の資金を費やしたが、莫大な取引利益が毎年もたらされていた。

[このようなプログラムは、ヘッジファンド等が稼ぐための重要なツール(日本語版記事)。この情報が他の市場参加者の手に渡れば、同社は数百万ドルの損失を被る恐れもあると検察当局は指摘している]

Aleynikov容疑者は、Goldman Sachs社を退社する6月5日を前にして、数日かけてこのシステムのコードを盗んだとされている。社名は不明だが、大量取引システムを必要とする新しい会社に就職が決まっており、それまでの稼ぎの3倍の報酬が約束されていたという。同容疑者はGoldman Sachs社で年間約40万ドルの稼ぎがあった。[報道によれば、転職先は米テザ・テクノロジーズ社で、7月2日から働き始めたばかりだったが、同社は同容疑者を停職処分にした。テザ社はヘッジファンド会社シタデル・インベストメント・グループの元トレーダーらが創設した企業]

Aleynikov容疑者は6月に、4日間以上をかけて32MBのデータを盗み、ドイツでホスティングされているウェブサイトにデータを転送した後、Goldman Sach社のネットワークから痕跡を消そうとしたとされている。しかし、容疑者には想定外だったが、会社はコマンドのログのバックアップをとっていた。それによると少なくとも2度、容疑者は自宅のコンピューターから会社のネットワークにログイン中に、リモートでデータを転送していた。

訴追請求状などによると、最近Goldman Sachs社がHTTPSによる転送の監視を始めたところ、大量のデータが会社のネットワークから外に出ていることがわかり、今回の窃盗が発覚したということらしい。同社の広報担当社は、この件についてコメントを拒否している。

Aleynikov容疑者は、スクリプトを使ってファイルのコピー、圧縮、暗号化、ファイル名変更を行ない、イギリス住所の個人が登録しているドイツのウェブサイトにアップロードしたとされている。データが転送されると、ファイルの暗号化に使われたプログラムは消去された。

Aleynikov容疑者は7月3日、ニュージャージー州のニューアーク国際空港で飛行機から降りてきたところを逮捕された。現在は企業秘密の窃盗などの罪で拘束されており、釈放には75万ドルの保釈金を納め、7万5千ドルを現金で支払い、旅券を引き渡す必要がある。

Aleynikov容疑者はコードを盗んだことを認めているが、米連邦捜査局には、自分が作業をした「オープンソースの」ファイルを集めようとしただけで、他のファイルまで集まったのは偶然だと話しているという。


WIRED NEWS 原文(English)

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