オーストラリア戦では同点となるアシストをした森本貴幸<br>【photo by Kiminori SAWADA】

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 五輪代表の中で、明らかに森本貴幸だけが異質だった。

 中盤に下りてきてビルドアップに加わると、いかにもぎこちない。反町監督も指摘するように「守備での絞り方なども、言われてハッと気付くような段階」である。ところがアタッキングサードに入り攻撃に絡むと一変。自信に満ちて落ち着きさえ漂わせる。

 9日、代表発表前の最後の練習試合でも、リザーブ中心の千葉を圧倒的に押し込む展開ではあったが、結局は森本の落ち着いたフィニッシュからスコアが動き出した。

 先制点は細貝萌のクロスがDFに当たって方向が変わったところに冷静に反応してプッシュ。自身の2点目は、ミドルレンジから左足で左サイドネットにクリーンシュート。相手が慌てて詰めてきても、コースが遮られないだけの間を見極め、しっかりと態勢を立て直してから、狙いすまして左足を一閃した。
 またサイドに流れても、相手の体をブロックしながら、抉り切るコツを心得ていて決定機を演出。

「イタリアでは、日本より要求されることがシンプルですから」

 出てくる言葉も呆気ないほどシンプルだが、今自分がFWとして優先してやるべきことも、しっかりと整理されている。

 それに対し李忠成や岡崎慎司は、よく動いて攻守に貢献し、技術的な精度も高く、おそらくパサーとしても悪くない。すでに岡崎は五輪ではMFとして起用されているが、柏で最前線から最終ラインの前まで走りまくる李を見ていても、欧州のクラブならMF適性と判断しそうな気がする。

 よく日本の選手たちは、欧州のクラブに移籍すると、日本人の方が“うまい”と言う。例えば、中田英寿氏はローマ時代にバティストゥータを「下手だけど点は取る」と評していた。

 一般的に“うまい”と言えば、繊細なボール扱いや、周りの状況を的確に把握してシンプルに繋ぐことなどが連想されるだろう。そういう意味でバティは“うまい”範疇から外れるのかもしれない。

 しかしそれでもバティは、ゴールを量産するために十分な技術や判断力を備えていた。チームの中でFW以外に役に立つかどうかは疑問だが、試合を決する最も重要な仕事で大きな貢献をしてきた。

 先日ミラノ近郊に住む友人が、Jの下部組織の練習を見て驚いていた。約2時間、最初から最後まで全員が同じメニューをこなしたからだ。「イタリアでは違いますよ」と彼は言う。「GK、DF、MF、FW……、ユースから小学生まで、同じポジションの子が集まってそれぞれのメニューをこなしていく」

 そう言えば、アジアカップ期間中のイビチャ・オシム監督も、ある日のトレーニングの仕上げが全員参加のシュート練習。決めた選手から引き上げていくから、皮肉なことに実戦では最もシュートとは無縁の坪井が、ヘトヘトになるまで繰り返すことになった。
 
 逆に40年前のメキシコ五輪で得点王になった釜本邦茂氏は、ほとんどの練習時間を「点を取ることだけに特化したトレーニングに充てていた」という。その釜本氏は言うのだ。

「今の日本の状況なら、FWは点を取れなくて当たり前。だってGKには専門のコーチがついて専門の練習を重ねているのに、FWコーチはいない。点を取るための練習をしていないんだから」

 よく走り、よく見えて、的確な判断が出来る。そういうMF的オールラウンドな子が増えているという意味で、確実に日本のサッカーは進化している。だがだからこそ逆に、森本のような育ち方が異質で、新鮮に映る。(了)