試合終了の笛が鳴ると、リヨンサポーターの歓喜が爆発した。昨季フランスリーグ王者のリヨンが、クラブの規模、成績ともにリーグの中位以下と言っても過言ではない、ル・マンを3−2で破ったことに手放しで喜んでいる。

 今年4月下旬にも同じカードをリヨンで観戦した。そのときもリヨンは先制を許しながらもあっという間にル・マンを叩きのめした。王者の風格と言ってもいい、余裕があった。優勝を決めて初のホームということもあってか、ル・マン戦の勝利よりも優勝を祝っていた。

 しかし、07-08シーズンが始まった9月1日のリヨン対ル・マンの勝利はリヨンにとって格別な勝利だったようだ。聞けば、開幕から勝ち星に恵まれず王者は苦しんでいた。

 かたやル・マンは監督が変わり、開幕直後に連勝し、一時は首位に立つほど躍進のシーズンインを経ていた。とは言え、モナコ、パリ・サンジェルマンとの連戦を落とし、2連敗でリヨン戦を迎えた。それでもル・マンは意気揚々と王者のホームスタジアムに立った。

 今シーズン先発出場を続けている松井大輔は言った。「リヨンはまだチーム状態が良くないから、僕らが勝つ可能性もあると、監督も話していたし、僕も含めて勝つために試合に挑んだ」

 過去8−1と大敗した過去があるリヨン相手だったが、恐れることはない。確かに連敗はしていたが、チーム状態は悪くはなかったのだ。だからこそ、試合開始早々から、互角の戦いを見せていた。

 昨シーズンまでの自陣に引き、カウンターを狙うサッカーではなく、高い位置でボールを奪い、パスを繋いで崩していく……そのスタイルが定着しつつあった。とは言え、リヨンと比べれば、戦力も組織力もレベルの差もあったが、わずかな好機をモノにして、前半終了間際に先制点を奪う。逆にリヨンはチャンスはあるものの、何度もそれを外した。

「勝てるんじゃないかという空気がハーフタイムのベンチにも漂っていた」と松井。そして、後半早々の54分。DFのクリアーボールを拾った松井が起点となり、追加点を奪う。0−2。アウェイという状況を考えても流れはル・マンにあった。

 61分、右サイドでボールがキープされる。松井は逆サイドでフリーであることをアピールしていたがなかなかパスが来ない。どうやらパスの出し手に松井を見る余裕がないように思えた。

 見ているこちらがイライラする。そんな瞬間、松井の前にボールがでた。サッとそれを受けて、飛び出す松井。相手のオフサイドトラップの裏を取るように抜け出し、相手ゴールキーパーと1対1。余裕はあった。しかし、ゴールキーパーのポジショニングの良さもあり、ゴールマウスにはスペースがない。シュートアングルは決していいとは言えない。松井は狙いを定めて、ゴールマウス右上を狙いシュートを放つが、わずかにゴールを超えてしまう。

 3点目をあげていれば、ほぼ試合も決まった状態だったのかもしれない。しかし、3点目を決めることは出来なかった。70分、ル・マンはまだ攻めていた。松井があげたクロスが相手DFに拾われ、そのままリヨンのカウンター攻撃が始まる。あっという間にゴールネットが揺れた。1−2。

 センターサークルにボールが置かれると、松井が手を叩き、周囲のチームメイトを鼓舞する。

 73分、松井は交代する。ゆっくりとベンチへ向かう松井に対して、リヨンサポーターから大ブーイングが起きたが、松井は顔色ひとつ変えず、足を速めることはなかった。勝利への最後の貢献となるはずだった。しかし、74分、77分と失点し、ル・マンは呆気なく崩れた。
[中編に続く]