家電量販店が新業態店舗を展開する背景には、家電量販業界が抱える深刻な課題がある。写真は3月30日にオープンした、ヤマダ電機「家電住まいる館YAMADA大宮宮前本店」の店内(筆者撮影)

3月下旬、ヤマダ電機は旭川市や川越市、奈良市など全国7カ所で一斉に既存店をリニューアルオープンした。「家電住まいる館」と名付けた新業態店舗は、売り場の多くのスペースを家具・インテリア雑貨コーナーに割いている。

同社はすでに全国10数店舗を新業態店舗にリニューアルしており、今年度中に100店舗まで増やす計画だ。なぜ、ヤマダ電機はインテリア・家具分野に参入したのか。そこには、家電量販業界が抱える深刻な課題がある。

低迷する市場に「アマゾン」が現れた

国内家電市場は緩やかな減速基調にある。GfKジャパンによると、2013〜2014年は7兆5000億円前後だったが、2015年以降は7兆円前後に減少している。2019年秋に予定されている消費増税前の駆け込み需要で来年度は拡大するものの、2020年にはその反動で再度減少へと転ずると予想されている。そもそも、少子高齢化、総人口減により、国内家電市場の縮小に歯止めをかけることは難しい。生活必需品的な家電製品の普及率が軒並み90%を超え、多くの製品ジャンルが買い替え需要で支えられる家電市場は、人口および世帯数が増えないかぎり拡大が難しいといえる。

そこに、アマゾンという新規プレーヤーの登場が追い打ちをかける。低価格とスピード配達という利便性で先進層を取り込み、「家電量販店はアマゾンのショールーム」と揶揄されるまで、都市型店舗に大きな影響を与えるようになった。現在では日本全国にアマゾンユーザーが拡大し、家電量販各社に脅威を与える存在となっている。アマゾンは日本での家電分野の売り上げを公開していないが、現在は中堅家電量販店と同等程度の規模まで成長していると見られている。

ただ、アマゾンが台頭してくる以前から家電業界ではオーバーストア状態が叫ばれており、限られたパイをめぐって激烈な競争を繰り広げてきた。すでに競合が店を構えて市場を開拓しているすぐそばに、より売り場面積の大きい店舗をオープンして客を奪う、ということが当たり前のように行われてきたのである。その結果、現在では大小合わせて2500店舗以上が全国に林立することになり、郊外には売り場面積8000平方メートル以上という巨大な店舗も登場するようになった。

しかし、徐々に大型店を出店するような市場も土地も少なくなり、以前のような後出し出店では売り上げ拡大が見込めないようになってきた。どの店に行っても同じメーカーの同じ製品が売られている家電量販業態では、結局は価格がいちばんの競争要因になるが、市場が拡大しない中での過当競争は共倒れを引き起こしかねない。そのため、一昨年あたりから過度な値引き競争を抑え、より利益率の高い白物家電(洗濯機や冷蔵庫などの生活家電)の販売を強化することで、量販各社は低迷する売り上げの中で収益を確保してきている。

とはいえ、それにも限界があるため、家電量販各社は従来の家電販売に代わる新しい柱を模索してきた。その代表格が、ヤマダ電機、ヨドバシカメラ、ビックカメラの3社だ。

家電と住宅をつなぐエコシステム

ヤマダ電機は2011年にハウスメーカーのエス・バイ・エル(現ヤマダ・エスバイエルホーム)を買収した。それまでも自社でリフォームビジネスを手掛けていたが、これを機に本格的に住宅事業に参入することになる。翌年には住宅設備メーカーのハウステックを買収、さらに2013年にはハウスメーカーのヤマダ・ウッドハウスを100%出資で設立し、高級注文住宅から建売分譲住宅の販売、水回りから屋根・外壁、増改築までのリフォームと、大きく手を広げた。


写真の住宅展示場は2012年1月撮影(撮影:大澤 誠)

この間、レギュラー店舗内にハウステックやエスバイエルのコーナーを設けてリフォームの受付を行ったり、春日部店(埼玉県)など一部店舗では駐車場にエスバイエルおよびウッドハウスの住宅展示場を建設して注文住宅の販売を行ってきた。この結果、2017年3月期には住宅設備機器事業部の売上高は1300億円(連結・一部非連結も含む)にまで上っている。

そして昨年度、住宅事業の成長のために2つの施策を投入した。1つは、前述の「家電住まいる館」への転換だ。「家具・インテリア雑貨」「家電製品」「リフォーム・新築住宅の販売」の3業態が融合した店舗で、家具・インテリア売り場が全体の半分を占める店舗もあるほどの力の入れようだ。

これまでも、LABI1高崎やLABI1日本総本店池袋のように、食器や調理器具などの生活雑貨を扱う店舗は存在したが、ソファやベッド、ダイニングテーブルセットなどの大型家具やカーテン、布団セットなどの大型ファブリックまで取り扱っているところが新しい。

ヤマダ電機が新業態店舗で狙うのは、家電ビジネスと住宅ビジネスの融合である。家電は生活に欠かせないものであり、本来なら住宅設備との親和性があるはずだ。そう考え、住宅リフォーム事業を手掛けてきたのは何もヤマダ電機だけではない。エディオン、上新電機、ビックカメラもリフォーム事業に参入し、各社それなりに成長してきている。しかし、やはり家電量販店内に住宅リフォームがある唐突感は否めず、各社ともにいまだ家電販売に次ぐ柱事業に育っていないのが現状だ。

そこでヤマダ電機では、家電事業と住宅事業を橋渡しする役目として、家具・インテリア雑貨の取り扱いを開始した。家電製品に比べて、生活雑貨・インテリア雑貨は単価は低いものの購入頻度が高い。来店客との接触機会を高めることで家電の1人当たり単価も引き上げ、同時に家具の購入、そしてリフォームおよび新築双方の住宅ビジネスの認知度を上げる狙いである。

住宅を購入→家具と家電の購入→日々の生活雑貨の購入→10年後のリフォーム、または、生活雑貨購入→家電購入→リフォーム・新築→家電購入という、住環境をめぐるエコシステムを1社で作り上げようとしているのだ。

この循環ビジネスの強化のために行ったのが2つ目の施策、リフォーム専門店であるナカヤマの買収だ。

ナカヤマは年商200億円以上で、独立系リフォーム企業としては国内トップの地位にある。全国に100カ所弱のショールームを構えるが、ヤマダ電機の狙いはナカヤマの営業力にある。

これまでに、ヤマダ電機のリフォーム営業は主に“待ち”のスタイルだった。自社のレギュラー店舗内にリフォームコーナーを設け、新聞折り込みチラシで告知したり、家電購入のために来店した客を案内して認知を広めてきた。一方で、ナカヤマのスタイルは外販営業。各地の営業担当がローラー作戦で地域を回り、顧客を開拓していく。“待ち”から“攻め”の営業スタイルに広げることで、リフォーム事業の拡大を狙っているのである。

昨年、ヤマダ電機は便器や洗面化粧台など住宅設備メーカーのアサヒ衛陶とも業務提携、すでに子会社化しているキッチンメーカーのハウステックとともに住宅設備でオリジナル製品を開発していく方向性も示しており、住宅ビジネス分野において製販両輪で体制強化をしているところだ。

さらに、賃貸住宅・土地売買の斡旋、ファイナンス(住宅ローンなど)、保険、冠婚葬祭といった生活にかかわるサービス分野でも続々と事業を立ち上げており、まさに“ゆりかごから墓場まで”を実践しようとしている。なお、ベンチャー企業のFOMMと資本業務提携し、2020年までに小型電気自動車事業への参入も計画しているが、これも、家電と住宅の融合戦略の一環だ。子会社であるハウスメーカー2社が販売するスマートハウスのメニューとして組み込む計画なのである。

ヨドバシはスピードと品ぞろえでアマゾンに対抗

一方、ヨドバシカメラは早い時期からネット通販事業に力を注いでおり、現在、年間売上高1000億円を超え、家電量販店としてはトップの実績を誇っている。ヨドバシの2017年3月期の全社売上高は6580億円であり、ネット通販の売上比率が15%を超えているのは家電量販店では同社だけだ。

これまで、川崎に総面積28万平方メートル広大な物流センターを整備し、取扱品目数は500万を超え、社員による即日配送など、アマゾンに対抗すべく体制強化してきたことで積み上げた実績である。特に東京都内23区および一部市部で提供されている「エクストリーム便」(最短2時間30分で配送)が都市型先進層に支持され、アマゾンが配送問題で混乱続きだったときに、多くのユーザーがヨドバシに流れたほど人気が高い。

ただ、ネット通販の売り上げは伸びているものの、全社売り上げでみると前期比96.8%(2017年3月期)と低迷している。これは、もともとヨドバシのユーザーはITリテラシーが高い都市型先進層が多いため、ネット通販の利便性強化に伴い、店頭客がそのままネットに移行したためだといわれている。しかし、ヨドバシでは現在、アパレルや食品など、リアル店舗にはない商品にも取り扱いを拡大し、地方ユーザーの取り込みにも成功していることから、今後さらにネット通販売り上げが拡大していくものと見られる。

その一方で、リアル店舗の集客力アップも図っているところだ。秋葉原や梅田などの巨艦店では、上層階でレストラン街とファッション街を運営、若者や女性に人気のテナントを誘致し、新しい客層の開拓を図っている。下層の自社店舗フロアでも、アウトドア用品や楽器、スポーツ用品などの新しいジャンルを開拓している。ネットでもリアルでも、ショッピングモール化を図っているのである。

ビックカメラは楽天と新会社を設立

ビックカメラもヨドバシに似た戦略だ。2017年8月期(連結)におけるグループのEC売上高は729億円。総売上高7906億円に対してEC比率は9.2%と高い。もともと同社は、リアル店舗で家電以外の商品に関しても幅広く取り扱っていることに特徴がある。自転車やゴルフでは専門の販売員・技術スタッフを店頭に置き、コンタクトレンズや寝具、医薬品ほか、最近ではワインなどの酒類の取り扱いも強化し、若い女性の来店を促す施策を講じている。


ビックカメラでは、楽天のポイントがプレゼントされるキャンペーンを実施中(筆者撮影)

また、一部店舗では地方の名産品を集めた特設コーナーを設置するといったユニークな試みもしている。このリアル店舗での幅広い品ぞろえがそのままネット通販でも活用されている格好で、ネットではさらに家具やインテリア雑貨などリアル店舗にない商品ジャンルの品ぞろえも拡充しているところだ。

この4月には楽天と合弁で家電通販の新会社を設立、4月11日から家電ECサイト「楽天ビック」を新たにオープンした。エアコンや洗濯機など、設置工事を伴う大型家電製品に関してもビックカメラ実店舗と同等のサービスが受けられるのが特徴だ。楽天のネットインフラとビックカメラの配送・設置体制を掛け合わせることで、アマゾンが不得意な分野で差別化していく考えである。

さらに、アマゾンとの差別化を図るべく、ネットとリアルの連携を強めていく。具体的には、ビックカメラの店舗47店の商品在庫をネットで確認でき、取り置き・受け取りもできるようにする。楽天ポイントをビックカメラ店舗で貯めることもできるようにした。店頭で商品を購入した際、ビックカメラポイント(還元率10%)か楽天ポイント(同5%)のどちらかを選択できる。

近い将来、ビックカメラ店舗で楽天ポイントによる支払いもできるようにする。物流面でも連携を進め、東京23区内の当日配達や楽天注文商品のビック店頭受け取りなども実施していく方針。今後、楽天ビックオリジナル商品の開発も進めていくという。

狙いは「女性ユーザー」の囲い込み

新サービスでビックカメラが狙うのは新規顧客層の取り込み、特に女性ユーザーの囲い込みだ。楽天はファッションや生活雑貨を多く扱うことから女性客の比率が高い。楽天ポイントの付与・利用が可能になることで、楽天ビックとビックカメラ実店舗両方で女性客を増やしたい考えだ。

ビックカメラは昨年、家電やファッションの情報を提供するウェブサイト「SAKIDORI」を運営するWILBYを完全子会社している。都市型店舗のユーザーはITリテラシーが高く、ましてやネット通販ユーザーの情報源はネットが主流であるため、ビックカメラとしてもよりネットでの情報発信力を高め、それを売り上げにつなげていきたい意向だ。

家電量販店の来店客数は毎年2〜3%ずつ減少している。アマゾンの台頭と、スマートフォンやスマートスピーカーなどインターネット接続デバイスの進化により、ネット通販市場は今後さらに拡大していくことは火を見るより明らかで、対策を講じないとアマゾンにさらに客を奪われることになる。

実際、ヤマダ電機も昨年からYahoo!ショッピングに出店するなど、本格的にネット通販に力を入れ始めている。と同時に、アマゾンにはない、リアル店舗を持つ強みを早急に引き出していく必要がある。米国ではアマゾンもリアル店舗を持つ動きを見せており、日本にも広がる可能性がある。時間はあまりない。