写真=iStock.com/coward_lion

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いざというとき、自分の身を守ってくれるものは何か。その筆頭は「法律」だ。「プレジデント」(2017年10月16日号)の「法律特集」では、8つの「身近なトラブル」について解説した。第4回は「最悪の警察官対応」について――。(全8回)

職務質問は任意だが簡単に断れると考えるのは早計

「鞄の中を見せてもらえませんか」と街中で警察官に呼び止められて、職務質問される。そのとき、どう対応すればよいのかと、不安に感じる人は多いだろう。鞄の中にキーホルダーナイフなど、犯罪とのかかわりを疑われかねないものが入っているときには、職務質問を拒否できないものかと感じることもあるだろう。

職務質問の法的根拠を引用すると、警察官職務執行法二条1項に、警察官は「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある」人を「停止させて質問することができる」とある。ただ、同条3項に「その意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない」とあり、あくまでも職務質問は任意である。

だが、任意なら簡単に断れると考えるのは早計だ。あっさりと拒否できると職務質問の意味がないので、判例上、状況によっては、警察官には肩や腕に手をかけて止めるなど有形力の行使が認められている。それを振りほどいてまで立ち去ろうとすれば、それは「異常な挙動」とみなされ、ますます警察官に「疑うに足りる相当な理由」を与えてしまうことになる。1度目をつけられたら、断るのは至難の業だ。

■「自分を疑うに足りる相当な理由」を逆質問してみよう

所持品検査についても同様に、特別の事情がある場合には有形力の行使が認められている。たとえば過去の判例で、近くで銀行強盗事件が発生した際、警察官が不審に感じた人物に職務質問し、承諾を得ずにバッグを開けた。その中から大量の札束を発見し強盗の逮捕につながったというケースの場合、その行為は適法とされた。もちろん有形力の行使が無制限に認められるわけではない。警察官が勝手にスーツの内ポケットに手を入れて覚せい剤を見つけたケースは違法捜査とされた。承諾なしの所持品検査が認められるかどうかは、必要性や緊急性、プライバシー侵害の度合い次第。

ちなみに護身用であってもナイフを持ち歩くと違法となることがある。大きさは関係ない。刃の長さが6センチ以上の刃物を持ち歩けば銃刀法違反だが、それ以下の小さなものでも軽犯罪法に違反する恐れがある。ほかにはマイナスドライバーもピッキングの道具と疑われやすく、正当な理由なく鞄に入れて持ち運ぶのはやめるべきだ。

警察官に声をかけられたら、まずこれが職務質問なのかどうかを確認し、「自分を疑うに足りる相当な理由」を逆質問してみよう。たいした根拠がなければ、警察官は無理強いしてこない。逆にそれなりの理由があれば、抵抗するだけ時間のムダ。潔く協力して嫌疑を晴らしたほうが賢明だ。警察官への冷静な対応が自分を助けることは間違いない。

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▼警察官には触れない・反論しない・協力する

警官:こんばんは。近くで空き巣事件が頻発しておりまして、夜間防犯パトロールを行っております。少しお時間よろしいでしょうか。

市民:すみません。ちょっと急いでいるので……。

警官:深夜に出歩かれている方、みなさんにご協力いただいています。身分証と鞄の中身を確認させていただいてもよろしいですか。

市民:そこのコンビニで買い物してただけです。協力する義務はありません!これで失礼します。(警察官を押しのける)

警官:待て! 公務執行妨害だ! 不審者発見! 至急応援をお願いします!

市民:そんな〜〜!!

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前田真樹
明治大学大学院法学研究科(民事法学専攻)修了後、2007年みらい総合法律事務所入所。著書に『90分でわかる 社長が知らないとヤバい労働法』(共著)などがある。
 

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(前田 真樹 構成=村上 敬 撮影=榊 智朗 写真=iStock.com)