スマホばかりで勉強しない子に、なんと言ったらいいですか?(写真:Fast&Slow / PIXTA)

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高1の娘の件でご相談です。高校に入ると同時に、スマホは夜8時半までという約束をしました。しかし、つねにスマホを手から離さず、試験勉強中でも、ほとんど勉強しません。小学生のときから注意してきましたが、何年経っても変わりません。主人は怒り、充電器の線まで切りました。しかし、ここで子どもは「スマホができない!」とふてくされるだけ。スマホを取り上げるのではなく、自ら勉強と遊びの時間を切り替える気持ちを持ってほしいのですが、どうしたらわかってもらえるのでしょうか。土日は、朝から夜8時半まで、親が言わなければ一日中触っています。
(仮名:川嶋さん)

「スマホやゲームが悪」といえるのか


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この現象については、事の大小にかかわらず、全国の小中高生のいる家庭から非常にたくさんのご相談をいただきます。あまりの多さに驚くほどです。もしかしたら、大半の家庭で起こっている現象かもしれません。10年ほど前に登場したスマートフォン(以下、スマホ)、あのような魅力的な機器を持てば、その虜になるのは当然のことですね。大人も手放せなくなってしまうのですから、子どもの場合は言うまでもありません。似たケースでゲーム漬けという場合もありますが、この種のご相談では小学生の子どものケースが多く、特に幼い子に効果のある方法について筆者も過去記事(「1日6時間ゲームする子」に親ができること)を書いています。よろしければ今回の記事と併せてご覧ください。

今回は、高校生のご家庭からのご相談ということで、少し角度を変えてより根本的な対策についてお話ししようと思います。よくよく考えてみると、子どものスマホは親が働いて得たおカネで使えているのに、親の意向を無視して使い、親から指摘されると逆ギレする、ふてくされる。どう見ても親の言動が正しく、子どもに分はないように見えます。

では、「スマホやゲームが悪」といえるでしょうか。筆者はそうは考えていません。

考えてみてほしいのは、「スマホやゲームが仮になければ、子どもははたして勉強するのか」ということ。もし、それらがなければ子どもが勉強するというのであれば、スマホが登場する以前、または家庭内にゲームが登場する以前には、子どもたちは皆、熱心に勉強していないとおかしいことになりますね。

スマホやゲームばかりで一日が終わるという状況になるのは、表面的にはスマホやゲームの問題です。しかし、それらがなければ今度は漫画かもしれないし、外で友だちとずっと遊んでいるかもしれない。ゲームセンターに入り浸りになっているかもしれないのです。それらの時間が、スマホやゲームにただ変わっただけということなのです。

ここを勘違いすると、対処を間違えることになります。勉強しないことが問題であって、スマホというツールそのものに問題があるのではないのです。ですから、スマホをどうこうしても問題の根本的解決にはなりません。つまり、「スマホばかりで勉強しない子をどうするか?」という問題は、「漫画ばかりで勉強しない子をどうするか?」という問題と本質は同じということなのです。

では、問題の本質は何でしょうか。それは、次のことです。

スマホよりも魅力的なものが見つかっていない

「勉強が面白くなさすぎる」(あえて「勉強がつまらない」ではなく「面白くなさすぎる」と強調して書きました)。

要するに勉強よりも楽しいものがあれば、そちらに気持ちが動くはずなのです。外遊び、漫画やゲーム、スマホよりも、本を読むことが楽しい子どもは本を読みますし、勉強の楽しさを知っている子は遊びばかりに没頭しません。ということは、スマホばかりの子は、勉強はもちろん、スマホよりも魅力的なものが自分の周囲に見つからないということなのです。

しかし、理屈はわかっても、現在、スマホばかりに没頭している川嶋さんの娘さんの場合、具体的にどうすればいいのかということが気にかかることでしょう。その子にとって面白くなさすぎる勉強を、いまさら「面白いと思え」と言ったところで焼け石に水ですから。そこで次の観点で考えてみてください。「間接的魅力」という方法です。

間接的魅力とは、自分の人生の方向に影響を与えかねない出来事や、人、場所、物と出会い、それに関心を持ち、引き込まれることで、勉強が「間接的に必要である」と認識するやり方です。

通常、この勉強への間接的魅力には、“偶然”出会います。テレビで見た宇宙の番組で魅力を感じ宇宙飛行士や学者への道に進むとか、子どもの頃にたまたま入院してそこでお世話になった医者に魅力を感じ、医学部を目指すようになったという話は山ほどあります。何かしらの原体験があって、そして“たまたま”出会った、そのような刺激によって、勉強という行動につながっていくことはよく知られています。

しかし、普通に暮らしていて “たまたま”に出会う確率は必ずしも高くありません。この“たまたま”を増やすには、出会う場を増やすしかありません。高校生は一般的に行動範囲が狭く、ワンパターンの生活をしていることが多く、心が引き込まれる刺激と出会う確率は日常生活の中では極めて低いことでしょう(もしかしたら、親にとって皮肉なことにスマホの中で子どもが自分の将来とかかわる出来事・刺激に遭遇することもあるかもしれません)。

何が子どもの心に引っかかるかはわからない

そこで、この“たまたま”という偶然を増やすための方法として、ざっと思い浮かぶありきたりの方法だけでも、次のようなことがあります。

・アルバイトやインターンをする
・親が出掛ける場に連れていく
・親の仕事の話をする
・小学生や中学生に勉強を教えさせる
・家族旅行の企画を一緒に考える
・長期休みのイベントに参加させる
・講演会に連れていく

これらは特別なアイデアでもなく、世の中で一般的に言われるような内容ばかりです。しかし、このようなことすらも実際にはやっていないことも少なくないのではないでしょうか。

何が子どもの心に引っかかるかはわかりませんから、さまざまな取り組みをされてみてはいかがでしょうか。すると、子どもの心に揺さぶりをかける出来事に出合う確率は高まります。あくまでも子どもに、勉強という意識を感じさせるのではなく、体験や遊びであるという意識を持たせることが重要です。やりたいこと、なりたいことが見つかると人間はスイッチが入り、そのために必要な手段としての、進学や勉強の必要性が感じられるようになります。

学校でも、生徒の心に揺さぶりをかけてくれるプログラムがあるところもあります。しかし、それが必ずしも生徒にジャストミートするとは限らないため、できれば家庭でも実践してみるとよいでしょう。

もし、このような出来事や刺激で、興味関心があることができ、心が向けば、これまで漫然と使っていたスマホが「目的」ではなく、「手段」となり、自分がやりたいことに使うためのツールになる可能性も出てきます。ツールになれば、自分のやりたいこと、自分を高めるために、スマホ以上の強い味方はいないでしょう。

高校生が出合っていない世界はまだまだたくさんあります。その一部だけでも知ることができる場があれば、人生のスイッチが入る可能性が高まり、勉強の必要性が認識できるようになるのです。