日本電産 永守重信社長(写真=gettyimages/Bloomberg)

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■「計画をつくるまでの会社」とは?

会社には2種類あると、私は日頃から考えていました。それは、「計画をつくるまでの会社」と「計画をつくってからの会社」です。

計画をつくるまでは一生懸命だが、その後は熱心にフォローせず、計画がうまくいかないと、できない理由ばかりを並べて棚上げしてしまい、すぐに次の計画、次の計画へと移っていく会社。プランばかりつくって実行が伴わない会社。それを私はひそかにプラン・プラン会社と名づけていました。

もう一方は、計画をつくるまでではなく、計画をつくってからがスタートだという企業文化の会社です。この計画をいかに達成するかと必死に取り組む会社です。

この2種類の会社の違いを、ハッキリと感じた出来事がありました。どの会社でも、1年に1回、年度ごとの経営方針発表会というものがあります。社長出席のもと各部門の担当役員や部長クラスが、自分のセクションの今期の予定・方針を経営幹部が揃った場で発表するものです。

このとき、同時に、前期の実績についても報告することになります。この前期実績の報告に関して、私が最初に勤めた日産自動車と日本電産とでは大違いだったのです。

私が在籍していた時代の話ですが、日産自動車では、前期の業績が予定に達しなかった場合、その理由について滔々と説明が行われていました。なぜ計画が未達に終わったのか、社内にこういう事情があった、ライバル社の動向がこうだった、全体の経済状況がどうだった……と、綿密で精緻な分析が延々と語られます。

では、その結果や分析を受けて、今期はどうすべきかということになると、分厚い報告書のうち、最後の1、2ページにあるだけ。そこに到るまではすべて、前期できなかった理由の解説で埋められていました。余談ですが、この当時の日産では、こうした「理由分析」で能力を発揮する理論派部課長ほど担当役員に重用されて出世する、という傾向があったのも事実です。

■できなかった理由を並べても意味がない

ところが、日本電産は……というと、前期の実績に関しては、○△×のマークだけです。計画どおり達成できたなら○印が記してあるだけ。8割ほど実現できた場合は△。8割以下なら×。たったこれだけです。

経営計画発表の席では、パワーポイントで作成した資料をモニターに映し出しながら説明するのですが、「前期」に関する結果報告のページはこれらのマークだけしか書かれていませんでした。私も、日産から転職して初めてそれを見たときは、本当にびっくりしたものです。

反対に、前期の結果を受けて来期はどうすべきか、何をやるか、どうやるかということが、経営計画の資料にはたくさん書いてあります。資料のページのほぼ全部は、計画達成のためにこれからすべきことについての記述で埋まっているのです。

永守社長は、言い訳には関心がありません。以前、こんなことがありました。ある企業を買収した当初、そこの幹部が経営方針発表会で計画未達の理由を長々と説明し続けていたところ、永守社長が厳しく叱責したことがあります。

「いつまで、できない理由をダラダラ喋っているんだ。大事なのは、どう戦うかだろう」

求められているのは、計画未達の理由ではありません。それよりも、未達に終わったものを達成させるためにこれからどうするのか、立てた計画をどうやって達成させるのか、すべては計画をつくってからのことなのです。

そういう意味では、日本電産はまさに「計画をつくってからの会社」です。計画達成のために全社員が必死に取り組み、徹底的に結果にこだわっていく。日本電産の強さの秘密はこうしたところにもあると感じています。

※本記事は書籍『日本電産永守重信社長からのファクス42枚』(川勝宣昭著)からの抜粋です。

(経営コンサルタント 川勝宣昭=文 gettyimages/Bloomberg=写真)